体育祭で黒組走る
朝、昇降口に貼り出された紅白幕の下、各組の旗が風に揺れている。黒、赤、青、緑、黄、白。
俺たち、2年4組は黒組。つまり、1年4組・2年4組・3年4組が手を組んだ「黒の連合」。
「今日から僕たち、黒の軍団ですな」
五郎丸がやけに嬉しそうに言った。
「黒組、最強っしょ!」
沙羅が小麦色の腕を振り回している。すでにテンションがMAXだ。
「はいはい、転ぶなよ」
鈴木がうんざり顔で言いながらも、なんだかんだノリノリで黒のリストバンドを腕に巻いていた。
午前8時半、開会式が始まる。
「麗しき風と共に、熱き魂の舞台が、今! 開幕するのであるっ!」
開会宣言は前年度優勝は白組だったので、今年度白組のリーダーで生徒会副会長を務める錦野先輩だ。白い制服に薔薇を咥え、校庭に設置されたミニ舞台の中央で決めポーズをとる。1年生がぽかんと口を開ける中、3年は盛大にツッコミ、2年は無言で耐える。
そんな日常が戻ってきたことを、少し嬉しく感じた。
最初の種目は、クラス対抗リレー。
「行ってくるわん」
黒組代表、1年の島田――通称しまじろうが笑顔で飛び出した。予想以上の快走を見せて、トップでバトンを沙羅へ!
「沙羅ちゃん、頼んだよ!」
「任せてよ、もうっ!」
沙羅は弾けるようなスタートを切った。1年とは思えぬ力強いフォームで、差をさらに広げる。
「すげぇ……」
俺が思わず声を漏らす。
「……彼女の筋肉構造、興味深いですね。走り方は中距離型に見えますね!」
五郎丸が分析し始めたが、今はいい。
バトンは3年、朝比奈先輩へ。
「ラスト100、勝負かけんでー!」
声が響く。リズムに乗るようにフォームが伸び、キレのある走りで白組を一気に引き離した。
「こりゃ行けるな」
鈴木が珍しく素直な声で言った。
バトンは俺へ。緊張が走る。
「ガクト、行けー!」
沙羅の声が耳に届いた瞬間、地面を蹴った。
足の裏の感触、風の切れ方、全身が前に吸い寄せられる感覚。
だがその背後から、マーク先輩の足音が迫る。
「やっべぇ……!」
周囲の歓声で分かった。すごい勢いで迫っている。
ゴールの瞬間、あっという間にマーク先輩に躱されたが、どちらが先にゴールしたのか判定となった。歓声が渦巻く中。下されたのは…
嵯峨野マイクで告げる。
「……勝ったのは黒組! 白組は2着です。」
一斉に沸き立つ黒組のメンバー達。
俺はその場に倒れ込みながら、俺は空を見上げた。
「マジかよ……」
そんな俺を仲間が囲む。
「まさか逃げ切るとは!」
「ガクトくんよくやったわね!」
「見直したぞ!」
「大好きだぁ!」
誰だよ、どさくさに紛れて告白した奴…
最初のリレーが勝利で終えたこともあり、黒組は勢いづく。
「五郎丸、次、お前の出番だろ。障害物競走、頼むぞ」
「了解です。今回はですね、ジャンプゾーンの角度を――」
「理屈いいから、転ばず帰ってこいよ!」
みんなが笑う中、五郎丸が意気揚々とスタートした。
しかし、彼の足は平均台で見事につまづき、見事に転んだ。
「……これはですね、砂の抵抗と――」
「知的敗北な!」
「むぅ……」
続くパン食い競争では、鈴木が抜群の瞬発力を見せて、口でパンを奪い取って1位でゴール。
「やった~! ってか、パンくらい余裕なんだけど!」
「食ってるときが一番真剣だったな、お前」
「うっさい!」
黒組はさらに勢いづく。
午後に入る前、みんなで昼食を囲んでいた。
「黒組の応援ボード、意外と好評だぞ」
俺が言うと、佐々木がふんと鼻を鳴らした。
「そりゃあな、俺が骨組み作ったからな」
「でもさ~、あの“爆走黒組”ってフォント、めっちゃうちのセンス出てたよね?」
鈴木がドヤ顔をしている。
「うるせー、金の稲妻は俺のアイデアだし」
佐々木が言い返し、結局また口論になる。
だが、誰も止めなかった。なんだかんだ、それも楽しいからだ。
遠く、放送部の声が午後のプログラムを告げる。
「午後の部、まもなく開始します。各チームは準備を――」
グラウンドに日差しが戻ってくる。空も高く、風も穏やか。
黒組の後半戦が、始まろうとしていた。




