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俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
26億円の部活動費編
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26億円の使い道決まる!

 秋山邸を訪れた翌週、ついに運命の予算会議の日がやってきた。

だがその日の朝、俺――皇 岳人は、まず剣道場へと足を向けた。


 桜が丘高校の古びた木造の剣道場には、今日も竹刀が打ち合う鋭い音が響き渡り、部員たちの気迫に満ちていた。


「おい! 部長はいるか?」


 声を張ると、面を外した霧山竜司――剣道部の部長が、汗を拭きながらこちらを振り返った。


「おう、岳人じゃねぇか。今日は予算会議の日だろ? 様子見か?」


「ああ、まあな。それで俺らの予算だけどさ……」


 俺は少しだけニヤリと笑いながら続けた。


「“例年通り”ってことで考えておいてくれ」


「はあ!? 岳人、お前、どういうことだ!? あの26億円の件はどうなったんだよ!」


 霧山は竹刀を床に突き立てて詰め寄るが、俺は手をひらひらさせながら背を向けた。


「ま、楽しみにしてろって」


 そのまま剣道場を後にし、生徒会室へと向かった。




 生徒会室では、すでにメンバーがそろっていた。俺は用意していた資料の束を配りながら、無言で着席する。


「わ〜お!」


 最初に反応したのは、副会長の錦野 彰だった。演劇部の副部長でもある彼は、今日も例によって白いバラを胸に差している。


「ヨキ」


 低く一言だけ発したのは、会計のアンドー。

2メートル超の巨漢で、筋骨隆々のその姿からは想像もつかないが、帰国子女であり、文字は驚くほど達筆だ。


「こ、こんな……本当に……これでいいんですかぁ〜?」


 会計の宮前咲は、資料を手になぜか半泣きの様子で震えていた。


 他の生徒会役員も何か言っていた気がするが、正直彼らの名前も覚えていない俺にはどうでもよかった。


 そして、生徒会長・小早川雪乃が冷静に資料に目を通していた。

そして一言、凜とした声で言う。


「……たぶん、いけるわね」


 その言葉を合図に、生徒会は一斉に準備に取りかかった。





 午後4時。第一会議室は、すでに人であふれていた。各部活動の代表者たちが集まり、ざわざわと落ち着かない様子を見せている。


 雪乃の開会宣言とともに、会議は開始された。俺はホワイトボードの前に立ち、大きな声で呼びかける。


「えー、皆さん。お手元に資料は行き渡りましたでしょうか?」


 各部代表たちが資料を手にし、目を通す。そして、最初に声を上げたのは野球部のキャプテンだった。


「おい、これ去年と大して変わらないじゃないか! 26億円あるっていうのに、どういうことだよ!」


 その言葉に呼応するように、あちこちから怒号や疑問の声が飛び交う。


「ふざけんな!」「うちは部員が倍に増えてんだぞ!」


 騒然となる会議室。雪乃が「静かにしてください!」と声を張り上げるも、収まらない。


 その中で、陸上部代表として参加していた沙羅が、俺を心配そうに俺を見ていた。


 俺は腕を組み、静かに場を見渡し、そしてゆっくりと口を開いた。


「……今の案が気に入らないなら、この話、生徒会の権限で部費は決めさせてもらうが?」



 一瞬、空気が凍ったように沈黙が広がる。



 そして――次の瞬間、またもや怒声が巻き起こる。


「そんな横暴が許されるか!」「おい、独裁かよ!」


 騒ぎは再び激しくなった。


 だが、俺は冷静だった。ここまでは予定通り。俺はアンドーに目配せする。


 巨漢のアンドーが、無言のまま円卓状に配置された長椅子を一またぎして前に出る。そして、各部に向けて一枚ずつプリントを配り始めた。


 彼が無言で動くだけで、空気がぴたりと静まり返る。その気配を見て、錦野と宮前も同様のプリントを配布する。


 代表たちは、新たに配られた紙を見て驚きの表情を浮かべた。


「……これは?」


 俺は静かに説明を始める。


「それは、桜が丘高校に26億円を寄付してくださった秋山蔵之介さんの、遺言状の写しだ」


 会議室に、再びどよめきが走った――。


 「読んでみろ。そこには、寄付の管理を生徒会に一任すると明記されている。つまり、これは俺たち生徒会の責任で運営するべきものなんだよ」



――財産の一部を、私が愛した人が学んだ桜が丘高校の部活動のために寄付する。

この学校の生徒たちが、安心して学び、未来を築けるように。


――また、寄付した遺産の管理は生徒会に委ねる。生徒たちが自らの手で学校の未来を考え、運営に関わることで、より良い学び舎をつくってほしい。


――未来ある若者たちが、ここで青春を謳歌し、夢を追い続けられることを願って。



 それでも、一部からはなおも納得できないという空気が漂っていた。


 俺はもう一度、静かに雪乃へと目をやる。


 雪乃は立ち上がり、凛とした姿勢で前に出た。


「私たち生徒会は先日、秋山蔵之介様の屋敷を訪ねました。そして、彼とその奥様のことを知りました」


「秋山様の奥様は、かつてこの桜が丘高校で学び、部活動に熱心に取り組まれていました。演劇部の主演として文化祭で舞台に立ち、秋山様は彼女の晴れ舞台を見に来られたこともあったそうです」


「そのお二人の想いが、時を超えて、今の私たちに繋がっているんです」


「私たちは、その想いを、部活動の誇りとして受け止めるべきではないでしょうか?」


 会議室に、しんとした沈黙が流れる。


「……これまでの予算会議を胸を張って秋山様や奥さまに見せられるでしょうか? 互いの罵声や利権の押し付け合いを?」


 雪乃の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「私たちの先輩の想いを踏みにじるような行為が、果たして桜が丘高校の清く正しい部活動と呼べるのでしょうか?」


 場が静まり返ったそのとき、俺はもう一人に視線を送る。

 副会長・錦野彰。


 彼はさっとポケットからバラを取り出し、決め顔で立ち上がる。


「寄付のきっかけとなったのは、我が演劇部の偉大なる先輩の配偶者の想い……! これは、我々が受け止めねばならぬ運命さだめ!」


「……まったくもって同感よ!」


 演劇部の現部長が拳を握って立ち上がる。そこから女生徒たちを中心に、賛同の波が一気に広がった。


 この一言が決め手だった。



 26億円の使途は「生徒会が公平に管理する」こと。そして、今年度の部活動費は「すべての部に2倍支給する」という形で正式に決定された。



 数日後、生徒会では各部からの要望をもとに、設備の老朽化や物品の新調など、具体的な使用目的をまとめるために全校アンケートを実施。


 その中に、俺はこっそりとある項目を紛れ込ませた。


「屋上の公園化(全学年がくつろげる多目的スペース)」


 部活動に関わる“交流スペース”という名目にしたら、ほとんどの部から承認が取れた。


 俺は、ただダラダラできる居場所が欲しかったのだ。





 だが、後日……


「屋上の公園化、完了は3年後予定です」


「ええええええ!? 俺、その時もう卒業してるじゃん!!」


 頭を抱えて叫ぶ俺に、沙羅が楽しそうに笑いながら言う。


「なんかガクトらしくて、いいじゃん!」


「良くないってのぉぉお!」


 沙羅の笑い声が、静かな午後の生徒会室に響いていた。

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