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クラスメイト

春の光が窓辺から差し込み、カーテンが柔らかく揺れていた。窓の外では、校庭を歩く一年生たちのざわめきがかすかに聞こえる。どこか浮き足立った季節の気配が教室を包んでいる。


いい天気だな…などと一瞬考えるが、目の前の大柄な男のせいで現実に引き戻される。


 「保健体育の時間です……」


 ぼそりとつぶやいた俺に、ゴリ……いや、上山田先生が満足げに頷いた。


 「よろしい。窓際でぼーっとしていたらいけないぞ!お前にとってもきっと有意義な授業なんだから集中しなさい。なぁ皇。」


  「……はい」


 背後で、クスクスと女子たちの笑い声が聞こえる。


 黒板に書かれた今日のテーマは、「人間関係と恋愛」。


 保健体育というよりも道徳のような内容で、教科書には男女の関係性、恋愛感情の発達、信頼と尊重の大切さが綴られていた。


 それを、筋肉ゴリゴリの上山田先生が熱弁を振るうのだから、もう笑うしかない。


 「いいかー!恋愛というのはな、筋肉と同じだ!一朝一夕でできあがるもんじゃない。毎日積み重ねてこそ、大切な人との信頼関係は作られる! これはもう、筋トレと同じ!」


 誰かがこらえきれずにクスリと笑い、教室の空気がゆるむ。カーテン越しの春風がふわりと吹いて、教科書のページをぱらりとめくった。


 俺は開かれたページを一瞬見る「男女の体のしくみ」……


吹き出しそうになるのを堪えながら、再びグラウンドに目を向けた。


 沙羅の姿を探したが、もうどこにも見えなかった。






 チャイムが鳴り、教室のざわめきが一気に広がる。


 席を立とうとしたその時、視界に影が滑り込んで来て声をかけてきた。


 「皇くん、さっきの……グラウンドで名前呼ばれてましたよね?」


 声の主は、五郎丸 隆。メガネの奥からキラリと光る目が、いつも何かを見逃さないかのような小柄で真面目そうな風貌の男子。俺の中学時代を知る数少ない人物のひとりだ。


 「まあ、ちょっとな」


 俺が曖昧に返すと、五郎丸は顎に手を当て、芝居がかった調子で続けた。


 「もしかして……あれは、あの“ちっこかった沙羅ちゃん”ですか?」


 「……ちっこかった、ってお前な」


 「中一の頃、皇くんの家で“情報交換会”をした時、よく遊びに来てたじゃないですか!すごく無口で、でもなんかじーっと見てくるタイプの……J……S!」


 「おまっ!そういう目であいつを見ていたのか!?」


 当時、俺の家で友人が集まったとき、家に遊びに来た沙羅はそのまま俺のところにやってくる。そして勝手に輪に加わっていたんだが……こいつ、よく覚えているな。


 「へぇ〜、しかし、時の流れって言うのはすごいですね~。あの小さかった女の子が美しい女性へと成長!しかも呼び捨てで名前呼ばれるって、あれはもう幼なじみの枠を超えているのでは? はっ!」


 何かに気がついたかのような反応をする五郎丸。そして俺に耳打ちをする……


「まさか、すでに既成事実が……!?」


 吹き出す俺、クラスメイトがこっちを見る。


 「ねぇよ」


 ぴしゃりと言い放つと、五郎丸は「ふむ……」とまた顎を撫でる。


 「いやしかし、これは大変に興味深い。中学で皇くんは“闇堕ち(※中二病&オタク期)”して、途中で“転生(※テニス部)”したわけですが、沙羅ちゃんだけはずっと隣にいたと噂では聞いていましたよ……まるでZガソダンのファン・ユリィ!まさにヒロイン属性!」


 「お前、その分析やめろって」




 俺が頭を抱えかけたその時、女子たちの高い声が背後から聞こえてきた。


 「ちょっと〜皇くんってば〜」


 先頭にいたのは、金髪寄りの茶髪に長いネイル、制服のスカートを短くしているギャル——鈴木智子だった。


 「マジ彼女いたんだ〜? 妙義ちゃんって一年でも人気ある子じゃん? 意外〜!」


 「え〜てか、剣道しか取り柄ないと思ってたのに〜、女関係もちゃんとしてたんだ〜?」


 「なんかさ〜、地味なくせにヒロインに好かれてる系男子って、ラノベだけで良くない〜?」


 いや、もう完全に悪意だろそれ。


 俺はあくまで無表情を貫いたまま、手元の世界史の教科書をパラパラとめくった。


 「……さあ、なんのことやら」


 「うっわー、無視とか一番ムカつくんだけど〜!」


 女子たちがキーキーと声を上げる。




 五郎丸が俺にそっとささやく。


 「……皇くん、女難の相が出てますよ」


 「うるせぇ」

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