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俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
26億円の部活動費編
41/113

そして散会

 混沌。

 それ以外の言葉が見つからなかった。


 桜が丘高校第一会議室。

 今年の「部活動予算会議」は、想像をはるかに超えるカオスだった。


 ワンダーフォーゲル部、野球部、テニス部、吹奏楽部、軽音楽部、演劇部、囲碁将棋部——。

 金に目がくらんだ部長たちが、自分たちの要求を叫び合い、押し付け合い、机をバンバン叩く。


 俺、皇岳人は、生徒会会計補佐として席に座りながら、ただ静かにその様子を眺めていた。


 (……どうすんだ、これ)


 目まぐるしく飛び交う怒号とツッコミ。

 生徒会の面々も、表情を引きつらせている。


 そんな時だった。


 「……静かに」


 凛とした声が、ざわめきを切り裂いた。


 前列中央、陸上部主将・篠田マーク・オブライエンが、すっと立ち上がったのだ。


 「僕たち陸上部は、昨年インターハイに出場し、個人でも全国優勝者を輩出しました。正当な活動実績に基づいて、遠征費と器材費の増額を申請します」


 落ち着いた、透き通るような声だった。

 教室全体が、一瞬で静まる。


 資料を目を通すと、確かに増額しているが、実績に見合う正当な主張に見えた。


 (さすが……)


 誰もが、口では色々言っても、本物の実績には文句を言えなかった。


 さらに——


 「……剣道部も、発言させてもらう」


 重々しい声とともに、霧山竜司が立ち上がる。


 「道場の老朽化対策、防具六セットの購入。……地味だが、必要なことだ。希望予算はこれだ」


 霧山が書類を掲げる。

 無駄な要求ではない、他の部活動に比べればはるかに堅実な申請だった。


 生徒たちは、しばし黙り込んだ。


 だが——


 「どうせ陸上部には多めに予算割り振るんだろ!」


 誰かが叫んだ。


 「剣道部だって!生徒会とズブズブじゃねーか!皇を生徒会に派遣して裏で手を回してんだろ!!」


 「はぁ!?」


 思わず俺も立ち上がりかけたが、その前に霧山が机をどんと叩いた。


 「誰が裏工作だ!!」


 霧山の怒声に、会議室が震える。

 普段温厚な霧山が本気で怒ると、周囲は凍りつく。


 だが、誰かが小声でぼそりと漏らす。


 「……こわ」


 「圧力だ圧力」


 火に油を注ぐように、ざわめきが再燃する。


 「いい加減にしろ!」

 「うるせーんだよ!」

 「北米横断も青春だろ!」

 「温水プール建設は譲れない!!」


 もう収拾がつかなかった。


 結局、混乱のまま時間は過ぎ、会議は無理やり「後日再協議」という形で打ち切られた。



 夕陽が差し込む会議室。

 生徒たちはみな疲れた顔で帰っていき、椅子がガタガタと音を立てる。


 ——誰もいなくなった。






 残ったのは、ただ一人。


 生徒会長・小早川雪乃。


 長い黒髪をまとめたまま、椅子に肘をつき、夕陽に染まった会議室でじっと座っている。


 その姿は、まるで——アニメ、エディーバリオンの港指令。


 肘を組み、じっと無言で前を見据え——そして、にやりと笑った。


 その不敵な笑みに、背筋がぞわりとした。


 「……おい」


 俺は、おそるおそるドアをノックして中に入った。


 「ほら、事務報告書だ。」


 雪乃はようやく動き、俺に手を伸ばして書類を受け取った。


 誰もいない会議室。

 沈黙の中で、二人だけの空気が流れる。




 ——そして。


 「……はぁ〜〜〜〜!!もうやだぁあああ!!!」


 雪乃は椅子にもたれかかり、両手をばたばた振った。


 「みんなバカ!!お金の魔力こわい!!高校生ってなんであんなに貪欲なの!?」


 突如、だらけモード突入。


 「岳人くん、コーラ!コーラ買ってきて!!今すぐ!!」



 必死の形相でコーラを要求され、俺は笑いをこらえながら小走りで自販機に向かった。


 三分後。


 会議室に戻ると、雪乃は椅子の上でぐったりと仰け反っていた。


 「コーラ……コーラ……」

 「ほら、買ってきたぞ」


 缶コーラを差し出すと、雪乃は目を輝かせて受け取った。


 そして——


 ぷしゅっ!


 勢いよく缶を開け、一気飲み!!


 ごくごくごくごく——


 ぷはぁっ!!!


 「……げふぅっ!!」


 まるで少年のような豪快なげっぷ。


 その姿に、思わず吹き出しそうになる。


 「……もう投げ出したい……」


 雪乃はふにゃふにゃになりながら、机に突っ伏した。

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