表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
26億円の部活動費編
40/113

部活動予算会議

 五月、桜が丘高校・第一会議室。


 普段は静かなこの部屋が、今日ばかりは異様な熱気に包まれていた。


 「部活動予算会議」。

 桜が丘高校の各部活動が、今年度の活動費をかけて争う年に一度の大決戦だ。


 例年なら、割り当てられる金額はざっと二百万円。

 それを運動部、文化部合わせて四十以上の部が奪い合う。

 怒号と舌戦が飛び交い、椅子を蹴飛ばす者も出る、伝統ある——ある意味、地獄のような会議だった。


 ——だが、今年は違う。


 原因は、たった一つ。


 「二十六億円」。


 この学校の卒業生だった資産家が、「部活動資金にのみ使うこと」という条件つきで、莫大な遺産を寄付した。

 遺言により、その金は生徒たちのためだけに自由に運用していいことになった。


 結果、狂気が生まれた。


「それでは——部活動予算会議、始めます」


 会議室の最前列で、生徒会長・小早川雪乃が淡々と告げた。

 その隣には、副会長の錦野が立ち、さらに会計役の宮前、書記のアンドーが控えている。


 俺——皇岳人は、生徒会補佐として、雪乃たちの少し後ろに座っていた。

 今回はあくまで補佐。基本、静観だ。


 だが、前に座る部活動代表たちは違った。


 最初の挨拶が終わるや否や——


 「うちのワンダーフォーゲル部は北米大陸横断を希望します!!」

 いきなり立ち上がったのは、ワンゲル部の代表・高橋。


 「シアトルからニューヨークまで徒歩横断!これぞ青春!!」


 後ろの席からどよめきが上がる。


 「は、はぁ!?」


 「どんだけ金かかんだよそれ!!」


 すかさず吹奏楽部の代表・星野が叫ぶ。


 「そんな無駄遣いするなら、うちにください!全員分、金色のトランペット作るんで!!」


 「金色!?」


 「光るぞ!朝日を浴びたらピカピカだぞ!!」


 どよどよとざわめく中、今度は野球部の主将・南が机を叩いた。


 「ちょっと待て!まず運動部優先だろ!オーストラリアで合宿したいって、前から言ってたんだ!!」


 「オーストラリア!?」


 「現地でプロコーチに指導してもらう!これは確実に成果出る!!」


 「海外行きたいだけだろ!!」


 誰かがツッコむと、野球部の連中が一斉に立ち上がり、拍手と歓声をあげた。


 ——すでにカオスである。


 そんな中、ひときわ静かに座っているのが、陸上部の篠田だった。

 桜が丘高校のエース、朝比奈先輩を擁する強豪。

 当然、実績もナンバーワンだが、今回は静観を決め込んでいるらしい。


 (……さすがだな)


 ちらりと視線を送ると、篠田は軽く会釈してきた。


「文化部の意見も聞け!!」


 机を叩いたのは、囲碁・将棋部の代表、白石。


 「うちはプロ棋士を顧問に招く計画を立てた!さらに最新AI搭載の対局設備も導入する!!」


 「囲碁・将棋部にそんな金いるかよ!」

 野球部が即座に噛み付く。


 「文武両道!心技体の一環だ!」


 白石が真っ赤な顔で叫ぶ。

 生徒会席から雪乃が冷静に言葉を挟む。


 「一応、部活動支援の主旨に反してはいません。ただし、金額によります」


 「五千万!!」


 「高っ!!」


 生徒たちが一斉にざわめいた。


 その後も、次々とわがまま計画が発表される。


 ・テニス部:「海外から助っ人選手をスカウトして全国優勝を目指す」

 ・美術部:「ヨーロッパに研修旅行を組んで本場の芸術を学びたい」

 ・軽音楽部:「学校内に本格ライブステージを作りたい」

 ・水泳部:「温水プールの新設を!」

 ・演劇部:「劇場を丸ごと借り切ってオリジナルミュージカル公演!」


 どこもかしこも金金金。

 完全に理性が吹っ飛んでいた。


 静かに座っている霧山部長も、さすがに苦笑している。


 「……俺も道場建て直し、言っとくべきだったか」


 ぽつりと呟く声に、俺は小さく笑った。


 「いや、霧山さん。十分アピールしてますよ。防具6セットも」


 「そうか?」


 「……ええ」


 道場にエアコンがつくかもしれない、そんな淡い期待を胸に秘めながら。


 生徒会側も、最初は冷静だったが、あまりの要求の奔流にさすがに顔をしかめはじめた。


 副会長・錦野が、わざとらしく薔薇を咥えながら手を挙げる。


 「皆さん、落ち着きたまえ。青春とは、もっと清らかなものであるべきだ!」


 しかしそんな芝居がかった発言も、誰にも聞かれない。


 「北米横断の方が清らかだろ!!」

 「オーストラリアは青い空だぞ!!」


 もはや収拾がつかない。


 (……これ、マジでまとめられるのか?)


 俺は心の中でため息をつきながら、混乱の渦を静かに眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ