生徒会参上!
五月のある午後。放課後の道場には、竹刀が打ち合う乾いた音が響いていた。
春季大会での敗北は、まだ心の奥に残っている。団体戦は二回戦であえなく敗退。個人戦では、部の期待を背負っていた俺——皇 岳人は都大会には進めたものの、三回戦であっさりと敗退した。
結果だけで言えば、健闘と言えなくもない。だが、自分の中ではまったく納得のいかない結末だった。
(……あの時、あと一歩踏み込めていれば)
そんなことを繰り返し考えては、自分を責める日々。
以降、竹刀を握るたびに、どこか迷いが走る。思考がまとまらない。動きに切れがない。
(……スランプって、こういうのを言うんだろうな)
沙羅は、元気づけようとあれこれ手を尽くしてくれる。屋上でお弁当を食べようと誘ってきたり、放課後に差し入れを持ってきたり。けれど、こればかりは、自分で抜け出すしかない。
(夜の公園での“秘密の特訓”……また再開するか)
そんなことをぼんやりと考えていた、そのとき——
道場の入り口に、異質な影が差し込んだ。
バシュッ、と最後の一撃を交わしたあと、ふと目をやると、そこには白い制服に身を包んだ三人組が立っていた。
「桜が丘高校、生徒会です。剣道部の活動に問題があるため、調査に来ました」
先頭に立っていたのは、生徒会長・小早川雪乃。
腰まで伸びた黒髪を頭の上で束ねたその姿は、まるで戦場に舞い降りたサラブレッドのように凛としていた。
その隣には、薔薇を咥えた副会長・錦野彰。そして、2mをこえる巨大な体躯で立ちはだかる書記・アンドー。
「麗しき薔薇の香りと共に、貴殿の怠惰を正しに来た!」
錦野の芝居がかった声に、剣道部の空気が一瞬で冷める。
「オレ、タマゴ、マルカジリ。オマエ、練習、サボリ気味」
アンドーの太い声が、道場に響く。
「……なんだお前ら」
岳人が眉をひそめる中、剣道部部長の霧山竜司が前に出る。
「おい、生徒会。勝手に道場に入るな。ここは剣道部の場所だ!」
身長180cmを超える筋肉質の霧山は、低く太い声で一喝する。
だが、小早川は一切動じない。涼しげな笑みを浮かべながら、一歩前に出た。
「剣道部の活動状況の確認よ。今期の成績は? 道場の清掃状況は? 練習態度は?」
「まさか、我々の厳正な評価に異議を唱えるつもりではありませんよね?」
錦野がくるりと薔薇を回し、口元に添える。
「そもそも、薔薇どっから出したんだよ……」
「オレ、ニク、スキ」
「お前は黙ってろ!」
岳人が突っ込み、道場に小さな笑いが漏れる。
(もう、こいつらめんどくせぇ……)
「それよりも、岳人くん」
小早川がすっと歩み寄ると、まるで何事もないように岳人の腕に自分の腕を絡めた。
「あなたには、生徒会室まで同行してもらうわ」
「は? なんで俺が?」
「剣道部の未来のためよ」
「絶対ウソだろ、それ」
「では、行こう」
錦野が颯爽とターンし、アンドーが無言で岳人の体を掴みそのまま肩の上に担ぐ。
「オレ、オマエ、ツレテク」
「いやいや、これ拉致だろ!? 完全にアウトだろ!!」
剣道部員たちの呆気に取られた視線の中、岳人はアンドーに担がれて道場から連れ去られていった。
こうして、スランプ中の皇 岳人は生徒会に強制連行される。
次なる事件の幕が、静かに、しかし確実に開けようとしていた——。




