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俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
26億円の部活動費編
31/113

覚醒(小学6年3学期)

それは、小学六年生の3月——。


 卒業文集も書き終えて、ランドセルの中身がどんどん軽くなっていくあの季節だった。

 周囲の連中はもう中学の制服やスマホの話題で盛り上がっていたし、男子は「誰がどこの塾の偏差値がどうだった」なんて話を得意げにしていた。


 俺、すめらぎ 岳人がくとは、そういう話にはまるでついていけず、というか興味もなく、毎日河原でサッカーボール蹴って遊んだり、近くのゲーセンで音ゲーやってるような、そこらにいくらでもいる男の子だった。


 趣味と言えば、たまに作るガソプラと、週に一回だけ行ってる剣道。

 得意なのも、まあ……そのくらいだった。


 そんな俺が出会ってしまったのが、**池谷のお兄さんの「遺産」**だった。


「おーい、岳人〜。ちょっと手、貸してくれ〜」


 声がしたのは、近所のアパートの階段下。

 大学卒業を機に引っ越すらしい池谷さんが、でかい段ボール箱をいくつもまとめていた。


 「これ、いらないんだけどさ、お前、プラモ好きだったよな?」


 と、俺の目の前に出されたのは、まるで宝箱のような詰め合わせだった。


 ロボットのプラモ、知らないアニメのDVD、可愛い女の子のフィギュア(未開封)、謎のノート、イラスト集、さらには「邪神召喚!」みたいなタイトルのラノベが何冊も。


 「え、マジで全部もらっていいの?」


 「いいよいいよ。どうせ持ってっても怒られるし。あ、フィギュアは親に見つかると説明が面倒だから隠しとけよ」


 「……了解っす」





 その後、中学校に進学した俺は、気がつけば放課後になると家にダッシュして、押し入れの奥の「禁断の箱」を開けるようになっていた。


 最初はプラモをいじっていたが、ふと手に取った一枚のDVDが、すべてを変えた。


 《聖機騎士ヴァルフェイン》。

 それが俺の魂に火をつけた“運命の番組”だった。


 「我がソウルはこのブレイドに宿る……応えろ、ヴァルフェイン!!」

 「破壊のことわりに抗い、命の光を掲げよッ!!」

 「貴様に正義を語る資格はない。なぜなら、この手は……一度、すべてを壊したからだッ!!」

 「俺はもう、過去には戻らない。たとえ……あの日の笑顔にさえもッ!!」


 見れば見るほど、かっこいい。

 主人公・カイ=レヴァンスの孤独な戦いに、俺は完全に心を奪われた。


 その日から、俺は“変わった”。


 帰り道で一人、ブツブツとアニメのセリフを唱えるようになった。


 「見ろよ、この空を……青すぎる。まるで……なにも知らないかのように、清らかだ……」

 「俺が、世界を壊すことになるなんて……まだ、誰も知らない」

 「クク……我が刃が唸る。狂い咲け、終焉のフィナーレ・ブレイカー!!」


 ついには、夕方の公園で、模造刀(百均のプラスチック製)を背負い、滑り台の上で名乗りを上げてしまった。


 「我が名は“黒翼の騎士ナイト・オブ・ノクターン”!!この地に仇なす邪悪よ、塵となれッ!!」

 「くらえぇぇぇぇ! 黒炎斬ダーク・フレイム・スラッシュ!!!」

 「――ッ! まだだ……まだ俺の奥底には、“封印された力”が残っている……!」


 近所の子供がこっちを見て「何してんのあの人……」と引いていく中、俺は完全に覚醒していた。


 家のノートには、自作の魔法陣と必殺技の名前がびっしり。

 「天魔翔破テンマショウハ」「混沌穿光弾カオス・レイ・バスター」など、オリジナル技をメモしてはニヤけていた。


 朝の登校中には、通学路の電柱を見上げてつぶやく。


 「この世の秩序オーダーは、あまりに脆い……」


 そして——運命のあの日。


 黒いフルフェイスの仮面をかぶり、背中に模造刀を背負い、通販で買ったマントを羽織った俺は、公園の闇で叫んでいた。


 「漆黒の契約は成された! 魔核、解放!!」

 「我が剣よ、汝の主の怒りを知れ!!」

 「断罪の炎よ、我が身を焦がせぇぇぇぇ!!!」


 そこに。


 「……岳人、なにしてるの?」


 振り向いた先には、塾帰りの沙羅がいた。


 ライトグレーのパーカーに小さなトートバッグ、肩からかけた塾のカバン。

 小学六年、少し背が伸びて大人びた顔つきになった沙羅が、驚いた顔でこちらを見ている。


 沈黙。


 夜風がふたりの間を吹き抜ける。


 「……え、いや、その……月が綺麗で……な?」


「ふ~ん……」


 「……その仮面、どうしたの?」


 「いや、これは“封印”を抑えるための……」


 「ていうか、夜に一人で何と戦ってたの?」


 再び沈黙。


 「……中学生って、色々大変なんだね」


 俺は何も言えなかった。

 その場でマントを羽織り直すでもなく、剣を構えるでもなく、ただ立ち尽くしていた。


 沙羅は肩をすくめて、すたすたと通り過ぎる。

 そして、最後にこちらを振り返り……


 「……風邪ひくなよ、闇の戦士さん」


そして、笑いながら走っていった。


 俺は、その場に立ったまま、月を見上げる。

 月明かりがやけに眩しかった。


 そして俺は気を取り直して叫ぶ。


 「闇の豪火に焼かれて……眠れッ!!」


 それからおよそ2年間、俺は世間では“オタク”と呼ばれる人種になった。

 後に俺はそのオタクを全否定する方向へ走ることになるのだが……


 だけど、忘れない。あの冬の夜、俺は確かに“闇の騎士”だった。


 中学一年の春、俺はこうして生まれ変わった——

 《黒歴史の化身》として。

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