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俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
オリエンテーリング編
29/113

観覧車のてっぺんで

金剛石とフラワーの大観覧車は、海浜公園のやや西側にそびえる真っ白な巨輪だ。

一周およそ17分。地上117メートルの高さからは、東京湾もレインボーブリッジも、そして桜が丘高校も当然見渡せる。春の光に照らされ、青い空の下でゆっくりとその大きな輪が回っていた。


6人乗りのゴンドラに、俺たちのチームはぎゅっと詰まって乗り込んだ。


「……でさ、この観覧車、乗ったはいいけどさ」


鈴木が腕を組み、金属の手すりに寄りかかる。


「これって結局、なんなの?チェックポイントなのは分かるけど、ヒントとか仕掛けとか、何もなさそうじゃん」


「確かに」と俺。


島田がゴンドラの床をコンコンと叩き、「隠し床とか?トラップ?ぴょーん!って床が開いたりとか?」


「ねーよ!」


すかさず鈴木が突っ込む。


沙羅は小さく笑って……


「でも、なんかこうやって皆で一緒に乗ってるの、僕は楽しいな」


そう言って俺の方を向く沙羅の表情が、どこか無邪気で、そしてやけに可愛らしく見えて、俺は思わず視線を逸らした。


(……ああ、やっぱり……可愛い)


「新井!お前何動いてんだよ!」


朝比奈先輩の声が跳ねた。


「ひえっ、す、すみませんっ!」


立ち上がって、外をのぞき込んでいた新井先輩が、申し訳なさそうに座席に戻る。彼がちょっと立ち上がっただけで、ゴンドラは意外と大きく揺れた。


「お前の筋肉の質量は危険なんだよ。動くな、絶対!」


「……はい……」


「朝比奈先輩きついっすー!」


島田が笑いながら突っ込み、車内の空気が和んだ。


沙羅が明るく言う。


「でもね、このオリエンテーリングが始まるまで、僕、祐子先輩と岳人以外、ほとんど皆と話したことなくて。……でも今は、すごく嬉しいの。仲良くなれて」


その言葉に、一瞬だけ沈黙が流れた。


「……そっか」


俺が返すと、朝比奈先輩が肩をすくめる。


「そういう意味では、オリエンテーリングって“親睦目的”としては大成功かもね。……なんか雪乃に負けた気分」


「祐子先輩って、生徒会長のこと嫌いなんですか?」


沙羅が素直に聞いた。


「え、そ、それは……っ」


朝比奈先輩が珍しく言いよどむと、新井先輩がニヤニヤしながら口を挟む。


「実はな、朝比奈って1年の時、生徒会長選に立候補してたんだよ。俺ら3年は知ってるんだぜ?」


「おいコラ新井!それは言うなって!」


「2年3年も立候補者いたけど、雪乃――いや、小早川が圧勝だったんだよな」


「ぐ、ぐぬぬ……!あれはっ、私は陸上もやってたから、時間的にハンデがあったんだよ!全然ガチじゃなかったし!」


「ハンデって言った時点でもう負け惜しみだよな」


新井先輩が笑い、ゴンドラが再び揺れかける。


「ちょ、新井!また動いてるってば!」


「……すんません……」


ゴンドラの中が、笑いとからかいとツッコミで溢れる。

ふと、俺は少し遠くを見た。


「……あ、見えてきた」


最上部に近づいたゴンドラの窓から、遥か彼方までの景色が広がる。青く広がる海の向こうに、南側の湾岸地帯、そしてそのさらに向こうには――


「ほら、あれ。“しらせ”だよ。南極観測船の」


「は!? なんで分かるんだよ!」


「船オタクなの?」


「いや、男って妙に詳しい分野あるよね……」


一斉に飛んでくるツッコミに、俺は「いや普通に地理の授業で出ただろ」と返しつつ、わちゃわちゃとした空気を楽しんでいた。




そして――そのとき。


「あっ……あれ、見てくださいっ!」


島田の声が、急に真剣なものに変わった。


「ん?」


皆が一斉にその指差す先を見た。


公園の西の端、地図で言うところの“足ヶ池”の周辺。その空中に――


「……え、あれ……?」


中途半端な高さでぷかぷかと浮かぶ、巨大な風船。


いや、ただの風船じゃない。そこに繋がれた横断幕には、はっきりと――


**「ゴール」**の二文字。


「「あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」」


全員が声を揃えて叫び、ゴンドラがミシミシときしんだ。


「なにあれ!?」


「見落としてた!?」


「ってか、目立ちすぎじゃね!?」


「完全に校長のブラフにやられたわね……」


「てか、ちゃんと地図に載ってる場所だし!」


「よしっ、降りたらダッシュね!」


最後に朝比奈先輩が言い切った。


誰かのためにでも、勝ちのためでもなく――

今はただ、このチームで最後まで駆け抜けたい。

皆そう思っていた。


そして観覧車は、ゴールが見える高さで、風に揺れていた。

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