情熱とコインと
ドローンが空を舞い、校庭では生徒たちが「うおー!」と叫びながら校長を追いかけていた。怒号や笑い声が飛び交うなか、俺――皇 岳人は、ひとり静かにその喧騒を眺めていた。
「……やっぱり違うな、これ」
呟いた声に気づいて、ジャージのファスナーを上げ直していた朝比奈先輩が近寄ってくる。
「岳人くん、どしたの?」
「……いや、これは多分“本筋”じゃないんです」
その言葉に、しまじろうこと島田が「マジっすか!?」と元気よく飛び跳ね、沙羅も顔をしかめた。
「うそっ、だって先生たちもノリノリだよ? あの校長の変装とかドローン、お金かかってそうだったし」
「それが怪しいって話なんだよな」
鈴木が腕を組み、半ば呆れたように言った。
「またそういう陰謀論っぽいこと言い出すと思ったよ、皇~。でもまあ、確かに…校長、そういう演出好きそうだけどさ」
俺は歩道脇の芝生に移動し座り込み、ポーチから例の“謎のコイン”を2枚取り出す。後をついてきた全員がそれをのぞき込んだ。
俺はかまわず2つのコインをマジマジと凝視する。表、裏、フチ、小さな文字……
そしてあることに気づく。
「聞いてくれ」
俺の声に周りを囲んでいたメンバーが身を乗り出す。
「今回配られたこのコイン。1枚目はアルファベット3文字と数字が17桁。2枚目はアルファベット4文字と数字が16桁だ」
「マジマジ見てなかったな……」と新井がボソッと言うと、朝比奈先輩が興味深そうに顔を近づけた。
「岳人、それで?」
「校長の開会の言葉、覚えてるか? 地図を信じるな、コンパスも要らん。最後に頼るのは……情熱だって」
「情熱?確かに自転車に乗っているときも叫んでいたよね!」
沙羅が言い、鈴木が続ける。
「それがなんなの?」
「情熱は英語でなんて言う?」
「Passion?」
俺の問いに沙羅が呟いた。
「そう。そしてこの2枚のコインの数字の間に書かれているアルファベット、1枚目が“pas”、2枚目が“sion”。合わせて“passion”だ」
「え、それって偶然じゃ……」と智子が言いかけたとき、俺はスマホを取り出し、数字部分を打ち込み始めた。
「数字は、35.64……と139.85……。これ、緯度と経度なんだ」
「うそ……まさか……」
「本当だって。地図アプリで検索したら、ここにヒットした」
全員の視線がスマホに集中する。
表示されたのは、**海浜公園のシンボル「金剛石とフラワーの大観覧車」**だった。
「観覧車……!」
沙羅の目がキラキラと光り、島田が思わず両手を挙げた。
「うおーっ!マジでラブコメみたいな展開じゃないっすか!? 俺、恋始まっちゃう?」
「お前の恋じゃねぇ」と新井が即座に突っ込む。
「でも、行くなら今しかないよね」と朝比奈先輩。
鈴木がちょっとだけ眉をひそめて、「他のチームには黙っとくか」と呟く。
俺たちは顔を見合わせ、そして、うなずいた。
「よし、行こう。最終チェックポイントは――観覧車だ!」
「「おーー!!!」」
元気よく叫んだのは島田だけだったが、俺たちはすぐに移動を開始した。
「岳人、やっぱりすごいね。こういうときのひらめき、前から得意だったもん」
「まあ、たまたま思い出しただけだけどな」
「ふーん。じゃあ、今度は“僕”のこともちゃんとひらめいてよね」
「え?」
「べ、べつに深い意味じゃないよっ!」
顔をそらした沙羅を横目に、俺は自然と笑みをこぼした。
しばらくして、大観覧車の姿が見えてくる。
遠くからでも分かるあの巨大な輪。きらびやかに照らされる骨組みと、回転するゴンドラ。
それを見たとき、朝比奈先輩が感慨深げに言った。
「……なるほど、これがゴールか。情熱の象徴としては、悪くないじゃん、校長」
鈴木が鼻を鳴らす。
「観覧車に情熱なんてあるわけ……あ、いや、なんでもない」
新井がぼそっと呟く。
「これ、優勝してもきっと校長の演説があるんだよな……」
島田が叫ぶ。
「行こうぜみんなー!一番乗りで観覧車のてっぺんまで登ってやろー!!」
「いや、そういうゲームじゃないから」と全員でツッコむ。
そして俺たちは、観覧車に向かって、歩いて行った。




