仕組まれた追いかけっこ
俺たちのチームを含む桜が丘高校の生徒たちは、逃げる校長を追いかけて周遊歩道を疾走していた。
遠ヶ崎、五郎丸、佐々木まで、怒号と笑いが入り混じる中で混沌とした“追走戦”が繰り広げられていた。
その中で、朝比奈祐子先輩だけが、他の生徒とは違っていた。
彼女は、最初から一定のペースを守って走っていた。焦ることなく、加速することもなく、まるで計算されたリズムでMTBに乗った校長のほぼ真後ろを追う。
そして、校長が周遊歩道の急なコーナーに差しかかった、その瞬間——
朝比奈先輩は芝生に身体を滑らせるようにして周遊歩道をショートカットする。
芝生の道を切り抜けた彼女は、次の瞬間、校長の前に回り込んでいた。
「校長、年を考えてくださいね」
息を切らしながらも、涼しい笑顔で言い放つ朝比奈先輩。その姿に、後方から追いついた生徒たちは一斉に歓声をあげた。
「もう逃げられませんよ!」
「観念してください、校長!」
「よっしゃー!捕まえたー!」
四方八方から囲むように生徒たちが詰め寄る。
しかし——
「いや〜、さすがさすが!」
校長はにこにこと笑いながら、MTBのハンドル部分のボタンをカチリと押した。
ブゥゥゥンッ!
鈍く唸る音とともに、MTBの後部荷台から何かが浮かび上がった。
「な、なに!?飛んだ……?」
小さな旗と共に、チェックポイントの小さな旗付きのドローンがふわりと舞い上がった。
「ちょ、ちょっと!?空は反則でしょ!!」
「校長、ずる~い!!」
沙羅が抗議の声を上げる。
それをきっかけに生徒たちのブーイングが一斉に上がる中、朝比奈先輩が呆れたように腰に手を当てる。
「さすがに空は走れないわ〜」
「いやいや!あれ、どうやって捕まえるのよ!」と島田。
「マジで手段選ばなすぎ……」と鈴木が毒づく。
「もしかしてこれ……ずっとこの調子かよ」と新井先輩も呆然。
飛びつけば届きそうなところを飛行するドローンに、再び群がるように走り出す生徒たち。
それでもドローンは軽快に空を滑り、生徒の頭上を逃げ続ける。
そして……しばらくすると、ドローンは再び校長の荷台にスッと舞い戻った。
「は?」
生徒たちの間に、奇妙な沈黙が流れた。
その直後、校長は再び自転車のペダルを踏み込み、次の加速をかけた。
「え?また走るの!?マジで!?」
「ねぇ、これって……絶対に追いつけないようにできてない?」
鈴木が俺の隣でぼやく。
「……だよな」
俺もスマホのアプリを確認しながら、ふと呟いた。
チェックポイントは確かに校長の荷台にある小旗付きドローンだ。
「これ、もしかして、元々“追いつかせない”ようにプログラムされてるんじゃないか?」
朝比奈先輩が追いつき、囲まれたと思ったらドローン。
追いかけたら戻ってきて、再び校長が逃げ出す。
「……仕組まれてる?」
俺の疑念が、少しずつ確信へと変わっていく。
「もしそうなら……次の手を考えないと」
そう呟き俺の目は、空を舞うドローンから離れていた。




