移動するチェックポイント
俺たちのチームは、草木が生い茂るバードガーデンから抜け、海浜公園周遊歩道を目指して歩を進めていた。少し開けた場所に出ると、同じ方向に急ぐ別のチームと遭遇する。その中には、沙羅の親友である遠ヶ崎由比の姿があった。
「沙羅」
「由比!」
二人は手を軽く振り合いながら近づき、並んで歩きながら言葉を交わす。
「そっちもチェックポイント、追ってる感じ?」
「うん、周遊歩道に移動してるって分かったから、先回りしようって」
「負けないからね!」
「こっちこそ!」
チーム同士、自然と競争心が湧き、全員が早歩きになる。俺はスマホのマップを開きながら、変動するチェックポイントの動きを確認する。
「このまま行けば、チェックポイントとぶつかるはずだ!」新井先輩が声を上げる。
「妙だな……」
俺のつぶやきに朝比奈先輩が反応する。
「どーゆーこと?」
「この場所に近づくほど、周りにチームが増えてる」
案の定、周遊歩道に入った途端、他にも多くの生徒が押し寄せてきた。俺たちの他にも、いくつかのチームがスマホを見ながら同じ方向に進んでいた。
どうやら俺たちが目差す第三チェックポイントは、複数のチームにとってもチェックポイントになっているらしい。同じように移動するチェックポイントの進行ルートに先回りして、待ち構えようとしているのだろう。
そして——
「来たぞ!」
坂の向こうから、見えてきたのはチェックポイントらしきものではなく、ジャージ姿の桜が丘高校の生徒たちの大集団が、まるでマラソン大会のようにこちらへ走ってくる姿だった。そして、その集団を率いるように先頭を切っているのは——
「……校長!?」
電動アシスト付きのマウンテンバイクにまたがって疾走する、我らが校長・嵯峨野達平。スポーツタイプのサングラスをかけ、ニカッと笑いながら生徒たちの中を突き進む。
よく見ると荷台の部分に、チェックポイントと書かれた小さな赤い旗がはためいている。
「いやいやいや、校長がチェックポイントってどういうこと!?」
「やっぱりアプリの顔写真、伏線だったんじゃん!!」
「逃がすかーッ!!」
怒号や驚愕、そして笑いが飛び交う中、校長は生徒の群れを華麗なハンドリングで回避しながら、自転車のアシストパワーを全開にする。
「みんな走ってもいいけど、安全にじゃよ〜〜!!!」
左に鋭くカーブし、右に軽快にスラロームしながら、校長は追跡者を躱していく。前方で道をふさごうとした数人の生徒を、最後のひとひねりでスルリとかわす。
「なんだよアレ……バイクの達人かよ……」
「くそっ、止められないのか!? 誰か速いやつはいないのかーッ!」
その声に応えるように、一人の男子が人混みを抜けて前へと飛び出した。
「これは僕の出番だね!」
長身のその男は、颯爽と走りながら、背後から誰かが声を上げる。
「マックだー!」
「♪ちゃらっちゃっちゃちゃ〜〜〜」
「やめてーっ!っていつも言ってるだろ~ぉっ!!!」
俺の前を通り過ぎた瞬間、ドップラー効果でフェードアウトしていく悲鳴。
マックこと篠田・マーク・オブライエンが、全国決勝クラスのスプリントを披露する。
「うっわ……あれが短距離エースか……」
「いけー!マーック!!」
一方で、沙羅の隣では遠ヶ崎が走りながら、怒り心頭の表情を浮かべていた。
「生徒を弄んで……あの爺、許さない……」
「わっ、出た、怒らせると一番怖いやつ……」
そして佐々木の姿も人混みに紛れて走っており、俺たちを見つけるなり、
「おい、なんでお前らまで……って、お前らが仕掛けたんじゃないだろうな!」
「はあ!? 何言ってんだよ!」
「お前らがノリノリで追いかけてるだけだろ!」と、俺がツッコむ。
さらに、その後ろには、ちょこちょこと走ってくる五郎丸の姿も見えた。
「僕はですね! 校長があんなに速いなんて、極めて興味深い……ハァハァ……運動は苦手なのにぃぃ!」
「なら走るなよ!」
周遊歩道は、生徒たちの熱気と汗と怒号でごった返し、その中で俺たちも次の行動を決めるべく、走り出す準備を整えていた。
次なる決戦——その名は、追え!逃げる情熱校長!!




