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俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
オリエンテーリング編
21/113

水族館でマグロウォッチング!

 海浜公園の人工海浜でチェックポイントのコインを手に入れた俺たちは、アプリに記された次の目的地――海浜公園水族館へと向かっていた。


 「水族館って、ちょっとテンション上がるよね」


 「うん!楽しみ〜!」


 沙羅が嬉しそうに手を振って跳ねる。



 「どうせまた変な問題出るんじゃないの?」


 鈴木があきれたように言うが、どこか楽しそうでもあった。


 公園の道には、やわらかな陽射しが降り注ぎ、新緑の葉が風に揺れていた。どこからか潮の香りが漂い、道を行き交う家族連れや犬の散歩をする人たちの姿が、穏やかな風景を形作っていた。


 水族館の入り口では、理科担当の森田先生が立っていた。汗をぬぐいながら、一人ひとりの生徒のアプリとチェックポイントメダルを確認している。


 「次、二年、皇岳人くんのチームねー。はい、メダル見せてー」


 俺がメダルを差し出すと、先生はタブレットで確認し、スタンプのようにスマホの画面をタッチしてくる。


 「はい、入場OK。チケットはこのQRコードで。いってらっしゃーい」


 俺たちはゲートをくぐり、水族館の中へと足を踏み入れた。


 薄暗く、涼しい空間に、一歩入っただけで全員の目が輝く。


 「うわーっ……!」


 「ひゃー、すごっ……」


 「おーい、こっち熱帯魚がいるぞ!」


 メンバーがそれぞれ気になる水槽に散っていく。


沙羅と朝比奈先輩も、水槽前で何やら盛り上がっている。


 「ねえ先輩、これって“ホウボウ”っていう魚ですよね?」


 「そうそう、ヒレが鳥の翼みたいでしょ? 音を出すんだよ、ぐごごごって」


 「えっ、魚なのに音鳴るんですか!?人間でも出来ないかな?」


 そう言いながら腕を虫の羽のように動かす。


 「沙羅ちゃんが鳴き出したら、魚より騒がしいよ〜」


 「そんなことないですよ!? 先輩〜っ」



 俺はふと、色とりどりの魚が泳ぐ小さな水槽の前で足を止めた。


 「おっ、ハコフグだ」


 その丸っこい体と、四角くてちょっと間抜けな顔。なんとも言えず、癒される。


 「……ふむ。ハコフグ、正式には“アミメハコフグ”ですね」


 突然、後ろから聞き覚えのある声がした。


 「……五郎丸?」


 「はい、五郎丸隆です。いやー偶然ですね。いや、偶然ではないか。水族館とあらば、僕のような知的好奇心旺盛な生徒が来るのも当然のこと!」


 そう言って、眼鏡の奥の目をキラキラさせながら語り始める。


 「このハコフグ、毒を持っているって知ってました? 皮膚からパフトキシンっていう毒を分泌するんですよ。フグ毒とはまた違うんですが、これが意外と侮れない!」


 「へえ、毒あんのかこいつ……」


 「ちなみに、ハコフグって泳ぎは下手なんですけど、水の抵抗を減らす特殊な鱗構造をしていて、それが研究されて新幹線の先端設計に使われたりもしてるんですよ。すごくないですか?」


 「お前、それどこ情報?」


 「MHKの“海の不思議100連発”って番組です!」


 「お、おう……」


 そのとき、向こうから声がした。


 「岳人くーん、置いていくよー?」


 朝比奈先輩が、笑いながら手を振っていた。


 「うわ、やべっ!」


 俺は五郎丸に軽く手を振り、先輩たちの方へと駆け足で戻る。




 そして、館内最大の展示エリアへと足を踏み入れる——


 「うわ……」


 思わず、感嘆の声が漏れた。


 高さ数メートル、円形に広がるドーナツ型の巨大水槽。そこを、何十匹ものマグロがぐるぐると回遊している。


 その迫力、重量感、そして美しさに、息をのんだ。


 「……皇でも感動するんだね?」


 隣で鈴木が、意外そうに笑っていた。


 「……そりゃ、感動するだろ……」


 そんな風に、俺たちが過ごしているとマグロの水槽の脇に、何やら異質な光景を見つけた。

 大きなガラスのすぐ手前、場違いな学校の机と椅子が並んでいたのだ。


 その椅子に座り、頬杖をついて水槽を見ていたのは——


 「……日比野先生?」


 俺が声をかけると、養護教諭の日比野先生は振り向きもせず、低く笑った。


 「見て分からないのかしら、皇くん」


 机の上には手作り感のあるプレートが置かれていた。

 『チェックポイント』と、達筆な字で書かれている。


 「まさか……ここが?」


 「ええ、チェックポイントよ。ほら、これが問題」


 日比野先生は指で机に貼られた一枚の紙を示す。


 《問題:この水槽内にいるクロマグロの数を数えなさい。チャンスは3回まで。3回間違えると、第一チェックポイントに戻り、再度コインを入手してくること。》


 「……マジかよ」


 「ええ、マジよ。失敗したら、今持ってるコインは私が回収しますから」


 日比野先生はさらっと言った。


 「ちょっと厳しすぎません!?」沙羅が抗議するが、日比野先生は微笑んだまま揺るがない。


 「ゲームってそういうものでしょ?さあ、数えてごらんなさい」


 俺たちは再びマグロの大水槽に向き合った。


 水槽内には、確かにマグロらしき魚影が多数泳いでいた。

 しかしよく見ると、カツオや他の魚も混ざっていて、遠目には判別がつきにくい。


 「じゃあ、いくぞ……1、2、3……あっ、あれ今の数えたっけ?」


 「今ので40……いや、41?」「くっそ、わかんねぇ……」


 最初の挑戦。俺たちは話し合い、仮の答えとして「45」と出す。


 「違います」


 日比野先生の一言は冷たいくらいに淡々としていた。


 「くっ……もう一回!」


 二回目は慎重に。沙羅と朝比奈先輩、しまじろうが三方向から見て数えた。


 「46……だと思います!」


 「外れです」


 肩を落とす一同。


 「あと1回……」


 俺は焦る中で、ふと隣にいる新井先輩のスマホが目に入った。


 「新井先輩、それって……最上種のマイフォンですよね?」


 「おおっ、わかるか!?これな、最新のPro-Z型だぞ!」


 「それで水槽全体を撮ってもらえませんか?最高画質で!」


 何をするかを察した新井先輩は目を輝かせ、即座に構えた。


 「任せろ!」


 カシャッとシャッターが切られ、大画面に写る水槽の映像。


 「よし、ここで全員で数えよう!」


 写真を拡大しながら、ひとりひとりが指をさして確認する。


 「……ここにもいた!」「あ、見逃してた……」


 「……43、ですね!」


 俺の声に、日比野先生がわずかに眉を上げた。


 「……正解です」


 「やったー!!」


 歓声があがり、チーム全員がハイタッチを交わす。


 日比野先生は、引き出しから銀色のコインを取り出し、俺に渡してくれた。


 「これが次のコインよ。おめでとう」


 スマホのアプリにコイン裏のパスワードを入力すると、新たなポイントが地図上に表示される。


 「よし、次は……東エリアの森の奥のバードガーデン?」


 「また歩きか〜」「でも今の達成感すごい!」


 そんな声を背に、俺たちは次のチェックポイントへといそいそと歩き出す。


 「走っちゃダメよ〜」


 後ろから日比野先生の声が飛んでくる。

 

 「ふふ……若いっていいわね。」


 そう呟いた日比野先生の手元には、水族館のパンフレットがあった。

 そこには「現在この水槽には42匹のクロマグロがいます…」と書かれていた。

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