公園のトラウマ
そのコインの裏にはパスワードが彫られており、アプリに入力すると次のチェックポイントが表示された。
「次は……海浜水族館?」
「おお、ちょっとテンション上がるな」
「てことは、ポイントごとに問題出たりすんのかな?」
「うわ、また変なクイズ来たらどうしよう……」
メンバーがワイワイ言いながら歩き出す。
道には、まだ4月末だが初夏の様な陽気が満ちていた。柔らかな陽射しに新緑がきらめき、潮の匂いが風に混じる。ベビーカーを押す家族連れ、犬の散歩をする年配の夫婦、そして同じくオリエンテーリング中の生徒たちの姿がのんびりとした時間を彩っていた。
水族館に向かって歩いていると、沙羅が俺の隣にぴたりと寄ってきた。
「……ねぇ、覚えてる? 昔、この公園でバーベキューしたこと」
言われて、思い出す。あれは、俺が小3で沙羅が小2の頃。
うちの家族と沙羅の家族、総勢6人でこの公園に来て、近くでバーベキューをした。
肉を焼いて、スイカを割って。俺と沙羅は、食後にふたりで公園内を探検していた。
その時だった。急に雷鳴が響いた。
「雷鳴ったな、雨はまだ降ってないけどこっちに来そうだな。」
そう言って、大人たちは急いで撤収作業を始めたが——
沙羅だけが、怖い物知らずのまま、どこかへ走っていった。
「あぶないから戻れ!」という声も届かず、沙羅は大きな木の方へ。
「沙羅! 木に近づくな!」
俺は必死で追いかけた。
その瞬間だった。
空が真っ白に光り、雷が、沙羅の目の前の木に直撃した。
バチィィィン!!
目の前で、枝に止まっていたカモメが雷に撃たれ、黒い影になって落ちた。
沙羅は、その場にうずくまり、震えていた。
おそらく沙羅はカモメが雷に打たれるところを見ていたんだろう。
「……大丈夫だから!」
俺は沙羅を抱き寄せた。
やがて、家族が駆けつけた。
——その日以来、沙羅は雷に極端に弱くなった。
屋内にいれば大丈夫だが、屋外で雷が鳴ると、過呼吸になるほど怯える。
俺にとっても、忘れられない日だ。
そして今、その時の木の前に、沙羅が足を止めていた。
「……懐かしいね」
俺は無言でうなずいた。
言葉はなくても、あの日のことは、二人とも覚えている。
数秒後、沙羅は「行こっか」とだけ言って、また俺たちのチームに戻っていった。
海浜水族館までは、もうすぐだった。




