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俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
オリエンテーリング編
19/113

情熱アプリとトレインカー

 「それでは、桜が丘高校・親睦オリエンテーリング、スタートです!」


 生徒会長の小早川雪乃の合図とともに、生徒全員のスマホに通知が届く。原っぱ中が一斉にざわめき出した。


 「これって……アプリ?」


 表示されたのは、嵯峨野校長の顔がドーンと中央に表示された謎のアプリだった。


 「何これ!」「うわ、校長の顔……こっち見てる!?」「情熱アプリって書いてある……」


 「おいおい、これマジかよ……」俺と鈴木はほぼ同時にうんざりした声を漏らす。


 「わあ……面白そう!」


 沙羅がにこにこしながらアプリを開く姿を見て、朝比奈先輩がまた顔をほころばせる。


 「沙羅ちゃんはほんと素直で可愛いなぁ〜」


 一方、新井先輩は真剣な顔でアプリの説明文を読み進めていた。


 「ふむ……GPSを使って位置管理……全員の起動確認か。なかなか考えられてるな」


 その隣で、島田こと“しまじろう”はアプリのタイトル画面を見た瞬間に吹き出した。


 「ぶはっ……“君の情熱が未来を切り開く!”って……マジっすか!うひゃっひゃっひゃっ!!」


 そのまま原っぱに転げ回るように笑い転げるしまじろう。


 そんな中、俺はピンと来た。


 「学校特製のアプリだな。多分、IT研究会のしわざだろ」


 実際、俺はその部長である流山大紫ながれやま・おおむらさきのことを知っていた。白衣にそばかす、メガネをかけた二年女子。極度のITオタクで、すでにいくつものアプリを企業に売り込み、部費は自分たちで稼ぐスタンス。少数精鋭の最強集団だ。


 彼女が作ったアプリが、単なるGPS連動ナビなわけがない。


 アプリの起動条件は、チーム全員がアプリを開き、GPSをオンにすること。


 全員の端末でそれを完了すると、注意事項と共に海浜公園のマップが表示された。


 指定されたエリア外には立ち入らないようになっており、運営側が各生徒の位置を“オリエンテーリング限定”で把握できる仕組みだった。


 「常時やってたら人権侵害だよな、これ……」


 地図の読み込みが終わったあと、表示されたのは最初の問題だった。


 『問い:以下の問題を解き、該当の場所に向かえ

 モントリオール年

 浜なのげい』


 「なんじゃこりゃ……」


 チームの全員がアプリ画面を覗き込み、ポカンとした。


 「モントリオール年……?浜……のげい?芸?ゲイ?」


 「良いこと考えた!」しまじろうが突然ひらめいたように叫ぶ。


 「なになに?」沙羅が身を乗り出す。


 「問題を解いた人の後をついて行けばいいんじゃないっすか!?」


 「……ズルじゃない、それって?」沙羅が眉をひそめた。


 「ふふっ、まぁ気持ちはわかるけどね〜」朝比奈先輩が笑う。


 俺は考えを巡らせた。


 「あの流山がそんな単純な戦略を見逃すとは思えない。もう何チームかが歩き始めてるけど、ルートが一つだとは限らない」


 「で、皇はどうすんの?」鈴木が腕を組んで俺を見る。


 「まずはこの広場から出るのが先決な気がする。トレインカー……あれを使うぞ」


 「お、観光気分!」「ええ〜っ、いいなそれ!」


 話がまとまりかけたその時だった。


 「おい!なんで皇が仕切るんだ?ここは3年で男子の俺がリーダーだろ?」


 新井先輩が口をとがらせて抗議する。俺は少し困った顔をして肩をすくめた。


 「……いや、別に俺じゃなくてもいいですよ。新井先輩が仕切れば」


 しかしその言葉に即座に反応したのは、朝比奈先輩だった。


 「却下。新井がリーダーとか、無理に決まってるじゃん。空気読めないし、方向音痴だし」


 「えっ、先輩ひどくないっすか!?」


 沙羅も頷きながら言う。


 「僕、岳人がいいと思う!意外と頭切れるところあるんだよ」


 「意外とって何だよ……」


 鈴木も腕を組みつつ、渋い顔で言った。


 「ま、他に任せられるやついないしな。あんたでいいよ」


 最後に島田が両手を上げて笑いながら言った。


 「え〜、じゃあ俺もそれで〜」


 ……流れってこわい。


 「……じゃあ俺も……俺でいいです」


 多数決の結果、文句なしで俺がリーダーということになった。


 「……なんで俺が……」


 新井先輩はブツブツと不満を漏らしつつも、一応は納得してくれたようだった。


 なにはともあれ、俺たちはトレインカーに乗ることにした。


 広場の端にある停留所へ向かうと、同じように後をつけてきたチームが数組いたが、俺たちがトレインカーに乗るとわかると、「なんだよ!」などと文句を言いながら去っていった。





 トレインカーは園内を一周する連結された小型の乗り物で、無料で誰でも乗れる。時速5キロほどののんびりとした移動車だ。


 俺たちは車両の中に分かれて座った。なぜか俺は朝比奈先輩と沙羅に挟まれる形で中央に座る羽目になった。

沙羅は真っ先に窓際の席をゲットして、興奮気味に叫んだ。


 「見て見て岳人、これ!海見える〜!ちょっとした修学旅行みたいじゃん!」


 「うっせぇな……はしゃぎすぎだろ」


 一方、鈴木はちょっと遅れて乗り込みながら、俺の前の席にドスンと座った。


 「ま、たまにはこういうのも悪くないかもね。……ってか皇、あんた座る位置なぜに朝比奈先輩と沙羅の間?」


 「しらんわ!」


 「ふーん……ふーん……」鈴木はじと目で睨みながら、わざとらしく背もたれに深く沈んだ。


 「まぁまぁ、騒ぐのも今のうちよ〜」と朝比奈先輩が笑う。「どうせすぐ迷子になるチーム出るから!」


 「うわ、それうちのチームじゃないことを願います……!」としまじろうが両手を合わせて祈る。


 新井先輩は後方の席で腕組みしつつも、スマホをいじりながらアプリを真面目に確認していた。


俺もスマホをいじりながら、問題の解読に集中する。



 『問い:以下の問題を解き、該当の場所に向かえ モントリオール年 浜なのげい』



 「モントリオール年」は簡単だった。モントリオールオリンピックが開催されたのは1976年。スマホで検索すればすぐに出てくる。

 後部座席で新井先輩が同じ答えにたどり着き騒いでいる。


 問題は「浜なのげい」だ。


 「単語の区切りを変えてみたらどうかな?」朝比奈先輩が真面目な顔で提案する。


 「“浜な・のげい”? “のげい”って何? 芸?」


 「逆から読んでみる?」沙羅が俺のスマホをのぞき込む、顔が近すぎてドキッとする。


 「いげのな浜……? 意味わかんない……」


 俺はスマホを見つめたまま、ポツリと呟いた。


 「“いげのな浜”……なんか聞き覚えあるな……」


 「浜ってことは、海っすよね?」しまじろうが首をひねりながら言う。


 「いや……たしか、去年の夏。剣道部のメンバーで出かけた千葉の海岸に“いなげの浜”ってあったんだよ。」


 「へー、いいなぁ。部活でそういうとこ行けるの」沙羅が少し羨ましそうに言った。


 「ちょい待て、“いなげの浜”って……この公園の外だろ?」新井先輩が眉をひそめる。


 「だから俺も一瞬違うのかと思ったんだけどな。調べたら、“いなげの浜”って日本で初めて作られた人工海浜なんだって……あれ?」


 俺は検索をして気づく、いなげの浜は日本最初の人工海浜で、作られたのは1976年。


 「……いなげの浜は1976年に日本で初めて作られた……人工……海浜……?」


 俺がこぼした声に、誰よりも早く反応したのは鈴木だった。


 「それだ!この公園にも人工の海浜あるじゃん!“ウエスト・ナギサ”!」


 得意げに鼻を鳴らして振り返った鈴木に、俺は思わず「ビンゴ!」と声を出す。


 「……なるほど、そういうことか」


 「はいはいはーい!この問題、鈴木先輩が華麗に解決いたしましたー!」しまじろうが拍手しながらふざける。


 「ドヤッ! どーよ皇、たまにはアタシに感謝しなさいよね?」鈴木がぐいっと身を乗り出してくる。


 「お、おう……さすがだな」


 「そのテンション低い感謝なによ!」


 「でも、さすが鈴木先輩だよー!」と沙羅も笑いながら言うと、朝比奈先輩がニコニコしながら言葉を添える。


 「うんうん、みんな冴えてるねぇ〜。沙羅ちゃんも可愛いし、鈴木もやるじゃん」


 「へっへーん♪」鈴木は誇らしげに胸を張った。


 「じゃ、決まりだな。次の停留所“ウエスト・ナギサ入り口”で降りるぞ」


 「了解ーっ!」しまじろうが手を上げて返事する。




 そしてトレインカーは、人工海浜「ウエスト・ナギサ」近くの停留所で止まった。


 「本当にあってるのかな〜」


 「いや、これは絶対に正解だろ」


 口々に言いながら橋を渡ると、綺麗な人工の浜が広がっていた。


 一般の来園者もいて、親子が水遊びを楽しんでいる。


 沙羅が叫んだ。


 「あった!チェックポイント!」


 そこには、汗だくの上山田先生が立っていた。


 「おお!お前らがこのチェックポイントでは1番だぞ!」


 「ってことは……やっぱり複数ルートがあるんですね?」


 俺の問いかけに、上山田先生は「あっ」と口を開きかけて、ごまかすように咳払いをした。


 「ま、まあ……ほら、あとは進んでからのお楽しみってことで!」


 先生から渡されたのは、数字とアルファベットのパスワードが刻まれた金色のメダル状のコイン。


 「これは1チーム1枚、各チェックポイントにあるコインだ。記念品だからな、大事に持っておけ。あとコインの裏に刻まれたパスワードをアプリに入れてみろ、次のポイントにいくヒントが出るはずだ。」


 ちなみに表には、情熱の笑顔を浮かべる嵯峨野校長の顔がしっかり刻まれていた。


 「……どこまでも校長推しだな」


 俺たちはコインを掲げて笑い合った。

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