闇の戦士(中学1年)
夜の公園。
人影も少なく、風が木の葉をゆらゆらと揺らしている。
街灯に照らされたブランコが、誰も乗っていないのにギィ……ギィ……と不気味な音を立てていた。
その闇の中。
ひとりの少年が立っていた。
黒いマントが、風になびいている。
頭にはバイクのフルフェイスヘルメットを改良した黒い仮面。
足元は通販で買ったゴツめのブーツ。
背中には、光を反射する模造刀。
――すべて、親の目を盗んでこっそり自室で装備し、抜け出してきた。
「……フッ。来たな、影なる者よ」
少年は静かに、仮面の下で笑った。
声は低く、ゆっくりと。だが確信をもった口調だった。
「闇の豪火に焼かれて……眠れッ!!」
「漆黒の断罪を喰らええええッ!!」
「貴様に救いなど、断じて無いッ!!」
両腕を振り回し、背中の模造刀を引き抜いて、虚空を斬る。
地面に回転して飛び込み、何かと格闘しているつもりの演技。
「クッ……やるな……だが!!!」
「俺の中に眠る魔核を解放すればッ!!」
滑り台のてっぺんに仁王立ちし、夜空を睨みつける。
目はガチ。完全に世界に入り込んでいた。
だが、そのとき——
公園の向こう側から、スーツ姿のサラリーマンがふらりと歩いてきた。
コンビニ袋を手に提げ、明らかに仕事帰り。疲れた顔で公園を横切るつもりらしい。
少年は、瞬時に仮面を外した。
マントを背中でくるりと畳み、模造刀を背中に背負い直し、何事もなかったかのようにベンチに腰を下ろした。
足を組み、膝に手を置いて、じっと星空を見上げる。
完全に「詩的な中学生」の顔だった。
サラリーマンが通り過ぎ、気配が完全に遠ざかったのを確認してから……
「ふっ……奴もまた、この混沌に巻き込まれることのない存在だったか」
「俺が動く時代は、まだ来ていない……それだけの話さ」
再び仮面を装着。
「さあ、闇の戦士よ!時は満ちた!我が同胞のために、再び力を振るうのだああああ!!」
茂みに飛び込み、木の陰から現れた敵(※もちろんミエナイ)に、ローリングで接近して模造刀を一閃。
「断罪完了……俺はまだ、生きている」
そして、マントをばさっとはためかせ仮面を手に持ちながら、公園の隣にある人気のない川沿いの遊歩道を颯爽と歩き出す。
その背中で、ふっと立ち止まり、つぶやく。
「この街の夜は、俺が守る——」
風が吹き抜ける。
……その直後。
「岳人、何してるの?」
背後から、ごく自然な声が飛んできた。
びくぅっ、と身体が固まる。
ゆっくりと振り返ると、そこには小学六年生の沙羅がいた。
私服姿。ライトグレーのパーカーに、キャメル色のスカート。塾帰りなのか、バッグを肩にかけたまま、驚いたような顔でこちらを見ている。
沈黙。
夜風がふたりの間を吹き抜けた。
「……え、いや、その……月が綺麗で……な?」
「ふ~ん……」
沙羅は俺のマントと模造刀、手に持った黒いフルフェイスの仮面を順番に見て何かを察したのか。
「……中学生って、色々大変なんだね」
俺は何も言えなかった。
その場でマントを羽織り直すでもなく、剣を構えるでもなく、ただ立ち尽くしていた。
沙羅は肩をすくめて、すたすたと通り過ぎる。
そして、最後にこちらを振り返り……
「……風邪ひくなよ、闇の戦士さん」
そして、笑いながら走っていった。
俺は、その場に立ったまま、月を見上げる。
月明かりがやけに眩しかった。




