決着の予感
試合会場横の校舎内に作られた控室は、午後の陽射しで少しばかり蒸し暑くなっていた。ドアが開くたび、外の蝉の声が一瞬だけ入り込んでは、扇風機の唸る音とともにかき消される。
普段は技術室として使われる広い部屋に、俺と服部、そして俺の側には、沙羅と五郎丸、それにいつの間にか遠ヶ崎由比、鈴木智子、新井信二、小早川雪乃らが集合していた。
「なんでこんなに集まってんだよ……」
「応援に来てやったんだありがたがれよ!」
「そうそう、私もクラスメートだからね。他意はないわ」
そう話す新井先輩と鈴木、そして、生徒会長の雪乃は…
「よくぞ屈指のメンバーを打ち倒してきたわねガクトくん!私はもう興奮しっぱなしよ!さぁ次の敵は…あいつよ!」
ビシッとかっこつけて服部を指さす。
「やめなさいって!」
苦笑しながら雪乃を止める俺に、沙羅が笑いながら肩を叩く。
「人気者は大変だね、ガクト~」
「なんだよ、その含みのある言い方は…」
「ああ、そうでした!差し入れ持ってきたんですよ!」
そう言って由比が差し出してきたのは、ぬるくなったスポドリ。
「いや、ありがとう……」
場の空気が和やかなのは、決勝直前とは思えないほどだった。
そんな中、俺はふと沙羅の方を向く。
「沙羅、試合が終わったら、話したいことがある」
言った瞬間、五郎丸が目を見開いた。
「それ死亡フラグですよ! 皇くん!」
「先輩、邪魔しないでくださいっ!」
ピシッと由比が睨み、五郎丸の背中を掴んでずるずると外に引きずっていく。
沙羅はくすっと笑って、頷いた。
「うん。じゃあ、ちゃんと勝ってからね」
その言葉と笑顔だけで、なんだか心が温かくなった。
一方、控室の反対側、服部のまわりには1年の剣道部男子数人と、妹の千奈。
「服部が勝てば、俺たちの世代も鼻が高いぜ!」
「どっちが勝っても、うちの部の格は上がるけどな!」
そんな声が飛び交うなか、千奈が穏やかな声で言った。
「そろそろお時間なので、皆さん。兄に集中させてあげてください」
部員たちは敬礼のような仕草をして、ぺこぺこと頭を下げて退室していった。
「悪いな、千奈」
「いいえ。私はお兄ちゃんの妹ですから」
千奈はにっこりと笑う。
「勝っても負けても、悔いの残らないようにしてくださいね」
「……ああ。勝って、自分の気持ちにけりを付けてくる」
服部の瞳に揺れる覚悟。
会場は、熱気とざわめきに満ちていた。
「さあ、いよいよスポーツチャンバラ大会・決勝戦です! 剣道部現エース・皇ガクト、そして次期エース筆頭の服部真蔵の激突です!」
「前の試合であの謎の強敵・新田芳樹を破った皇くん……ここで勝てば、正真正銘の校内最強!」
刈谷の実況が熱を帯び、朝比奈の声も興奮を隠せない。
「うーん……ガクトも服部くんも、本当に気持ちが乗ってるからね。これは名勝負になるよ」
場内の歓声の中、俺と服部は試合場へと進んだ。
照りつける午後の陽射しに、俺の少しくすんだ剣道着が汗を吸い込んでいく。
服部の剣道着は真新しく、真夏の空の下でも不思議と清々しさすら感じさせる。
両肩には紅葉川高校の刺繍。
使う武器は、どちらも長刀型のウレタン剣。
試合場中央に立ち、俺たちは向かい合う。
正眼に構える。
互いの目が、まっすぐにぶつかる。
(……俺はここで勝って、気持ちを伝える)
(……俺はここで勝って、先輩を越える)
教頭・大山田の静かな声が、空気を裂いた。
「――はじめ!」




