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俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
恋のライバル編
104/113

俺らしい戦い方

 校庭の白砂が陽射しを照り返し、午後の熱気がじわりと試合場全体に広がっていた。


 準決勝第一試合――俺、皇岳人と、新田芳樹の戦いは、まさに静かなる火花を散らしていた。


 刈谷の実況が、ざわつく会場に響く。


「皇選手が一本先取で先行のあと、長いにらみ合いに突入しております……えー、これは……まさに“気”の勝負ですね、朝比奈先輩?」


「……うーん、動かないのが逆に怖いね。ガクトくん、油断しないでよ……!」


 その前、試合場で新田がわずかに足を開いた構えを見せたとき。


 そのぎこちない姿に、会場の観客がざわついた。


「えっ……なに、あの構え?」「皇なら楽勝じゃない?」


 見た目はかっこ悪い。重心は低いが、膝の角度が不自然で、構えに安定感がない。素人のフォームにすら見える。


 だが――


「……違う」


 それは、観客席の端で試合を見つめていた服部真蔵だった。


「お兄ちゃん? どうしたの?」


 隣に座っていた妹の千奈が、小声で尋ねる。


 服部は目を細めたまま、静かに言う。


「あの新田って奴は……素人なんかじゃない。もしかしたら、先輩よりも強いかもしれない」


「……えっ」


 千奈の表情が強張る。


「もし皇先輩が負けちゃったら、どうするの?」


「どうもしない。俺があいつを倒して優勝するだけだ」



 一方の試合場。


 俺は新田に対する攻撃の機会をうかがっていた。


 まずはフェイント――足先で細かくステップを刻み、わざと重心を左右に揺らして揺さぶる。

 だが新田は一切反応しない。


 次に、剣先での挑発。わずかに剣を前後させ、突きをちらつかせる。

 ……それでも新田はまるで石像のように微動だにしなかった。


 さらに、気合を込めた踏み込みだけを見せ、打突はしない“空撃ち”。

 普通なら身体が反応するが、新田の眼は微動だにせず、ただ俺の中心線を見つめている。


 ――効かない。


 こちらの動きに一切反応しない、無感情な表情のまま、ただ立っている。


「……領域展開…つまり、自陣に俺が入ってくるまでだんまりってわけか」


 相手の領域に不用意に入れば俺が不利になる。そう考えた俺は、戦い方を“後の先”に切り替える。


 剣道における後の先――相手の攻撃を見てから、その動きに合わせて打ち込む戦法。


 結果。


 動かない新田。

 仕掛けられない俺。


 試合は、完全な膠着状態に入った。


「おい、打ち合えよー!」「見合ってるだけじゃん!」


 観客からのヤジが飛ぶ。


「これは……試合として成立してるんでしょうか?」


「いや、刈谷、これ以上長引くと……あ、来た来た、たっちゃん先生!」


 教頭・大山田が試合場に入り、マイクを通して静かに告げる。


「両者とも、打ち合う意思が見られない場合は反則を取ります」


 その声に、沙羅がセコンド席から叫んだ。


「たっちゃん先生! 反則とっちゃおーよー!」


「大山田先生です!」


 沙羅に反応する教頭、苦笑いする沙羅。


 (このまま時間を潰せば……お互い反則でポイントを失う。でも、俺は先取してる。判定で勝てるな…)


 そんな考えが、一瞬、頭をよぎった。


しかし…


「……そんな消極的な戦い方は俺らしくないな」


 その時。


 新田が、低い姿勢からまるでレスリングのタックルのように突っ込んできた!


「なっ……!」


 不意を突かれた俺は思わず身を翻し、後方へジャンプしてかわす。


 ――が。


 それを読んでいたかのように、新田の短剣が俺の左足を狙って伸びてきた!


 「パシィ!」


 鋭い打撃音。


 「やられちゃったの!?」


 沙羅の悲鳴が響く。


 だが俺は、その打撃を長剣で防いでいた。


 そして、わざとバランスを崩して転倒。


「やめ!」


 審判の声が響き、試合は一旦仕切り直しとなる。


 俺は立ち上がりながら、息を吐いた。


「……危ねぇ……」


 対面に戻る新田が、こちらを睨みながら舌打ちをしたのが聞こえた。


(ああ。想定外だったんだな、新田くん)


 この一撃を機に、俺は戦い方を変える。


 剣道の師範のような、無駄のない所作。


 攻めない、だが隙を見逃さない。


 “勝つための情報収集”に切り替えた。


 こういう戦い方は、昔の俺なら“らしくない”と思っていたかもしれない。


 だが本来俺は準備を固めて考えながら戦う方が性に合っている。


 つまり、これが“俺らしい戦い方”だ。


 構えを低く保ち、じりじりと距離を詰めながら、新田の呼吸・肩の揺れ・わずかな重心移動……それらを見極める。


 少しずつ、見えてきた。


 ――謎に包まれた新田芳樹の“正体”。



 そして、観客席の片隅。


「お兄ちゃん、どこに行くの?」


 千奈が声をかけた。


 試合場を背にして、控室に向かう兄の背中が応える。


「勝負はついた。先輩の勝ちだよ」


「……?」


 首を傾げる千奈だったが、すぐに気を取り直して兄のあとを追っていった。

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