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俺思う、ゆえに俺あり!  作者: ミスター小町
恋のライバル編
103/113

世界の端で待つ者

 夏の日差しが、校庭の白砂をますます白く照らしていた。試合場で準決勝の一戦が始まろうとしている。観客席は騒がしく、風は生ぬるく、空はどこまでも青い。


「続いての試合は準決勝第一試合! 桜が丘剣道部の皇岳人選手、そして対するはスポーツチャンバラ同好会の新田芳樹選手!」


 放送部の刈谷が声を張り上げると、場内から一段高い歓声が巻き起こった。


 俺は紺色の剣道着を着て、素足のまま試合場に立つ。長いウレタン剣を両手でしっかりと構えた。着古して少し色の落ちた道着の肩が、陽射しを受けて淡く照らされている。


 対する新田は、さきほどと変わらず学校指定の青ジャージに足袋。そして片手に持つ短刀型のウレタン剣。どこか気だるげな姿勢のまま、しかし、すでに試合場の空気を自分のものにしていた。


 準決勝ということもあり教頭の大山田先生が、ハンドマイクでルール説明を改めて行う。場内の空気が徐々に張りつめる中、新田がこちらに顔を向け、ふっと微笑んだ。


「皇くんって、桜が丘高校最強を自負してるんだって? でもね、世界は広いってこと……僕が教えてあげるよ」


 その言葉に、俺も口元だけで応じる。


「ありがとう。……でも俺はもう知ってるんだ、世界が広いってことはね」


 新田は、それに対して一切の表情を変えなかった。まるで最初から、どんな反応も“織り込み済み”とでも言わんばかりに。


 試合開始の合図が鳴った。


 その瞬間、俺は一気に距離を詰め、真っ向から面を狙った。


 “パシィィッ!”


 鋭い音が響き、観客がどよめく。新田の額を、俺の長剣が正確に捉えた。


「一本! 皇岳人!」


 場内が盛り上がる中、セコンド席の沙羅が両腕を振って騒いでいた。


「きゃー! ガクトすごいすごいっ! ほら、五郎丸先輩も見てくださいよー! ……あれ? ごろーまるせんぱーい!?」


 沙羅の声が試合場の外で響いていたが、俺はそれを聞きながらも、新田の顔から目を離さなかった。


 新田は……笑っていた。

 あれは、明らかに"わざと受けた"顔だった。俺の一撃が見えなかったわけじゃない。


 むしろ、俺を“試していた”。


 (……ここまでは、想定内って顔かよ)


 腹の底が微かに熱くなる。だが、俺もここまでは想定内だ。


 むしろこれからが本番。


 ――新田芳樹。


 こいつのことを、俺は本当に知らない。


 桜が丘高校の二年生は全体で250人ちょっと。名前は知らなくても、顔くらいはほとんどのやつを見たことがある。


 でも、新田は見覚えがない。


 しかも――


 スポーツチャンバラ同好会、という存在も、この大会で初めて知った。


 俺は一応、生徒会の補佐だ。あの26億円問題の影響で、全ての部活動・同好会・それに満たないかクラブ活動のリストにも目を通していた。


 なのに、その名は記憶にない。


 この事実から導かれる推測は二つ。


 ――スポーツチャンバラ同好会は、この大会をきっかけに新設された団体であること。


 ――そして、新田芳樹はその創設者、または中心人物。


 つまりこの試合は、ただの準決勝なんかじゃない。


 この男がどこから来て、何を狙っているのか。それを見極める戦いでもある。


 風が吹く。夏の熱気に混ざって、砂埃がふわりと舞った。


 新田が足をわずかに開いた。

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