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エピローグ?

「日比野先生!こっちです!」


 騒然とする廊下に救急箱を持って駆けつけたのは、養護教諭の日比野先生だった。

 ストレートの黒髪を後ろにきっちりとまとめ、白衣の袖を軽くまくり、口元にはおなじみの無香性の禁煙スティック。静かな迫力すら感じさせるその姿に、周囲の空気がすっと落ち着いた気がした。


「うん、大丈夫。これなら跡は残らないわね」


 廊下に座り込んだ沙羅に労りの言葉を投げつつ、脇に屈み込んだ日比野先生は頬の傷を見ながらそう言うと手際よく応急処置に入る。沙羅の頬の血を丁寧に拭き、消毒をしてから医療用のガーゼで傷を保護。あっという間に応急処置を終えると、スッと立ち上がる。


「保健室へ行くので誰か、妙義さんに付き添ってくれる?」


「私が行きます」


 名乗り出たのは騒ぎを聞きつけて来たのだろうか?沙羅の友人の1年生、遠ヶ崎由比だった。声をかけながら沙羅の腕にそっと手を添える。


「上山田先生、後はお願いします」


「了解しました」


 無駄のないやりとりのあと、日比野先生と由比に支えられて、沙羅は保健室へと連れて行かれる。

 

 去り際に沙羅は俺の方を見て何か言った。周りには聞こえないけれど……


「ありがとう……」


 静かに少し微笑みながら、たしかにそう言ったように見えた。





 その後、上山田先生は、佐々木とその仲間、そしてなぜか俺までまとめて睨みつけると、顎で「ついてこい!」とジェスチャーをすると黙って職員室へと歩き出した。





 職員室での聞き取りは、思っていたよりも長く、そして静かだった。


 佐々木とその取り巻きは、最初こそ言い訳を並べていたものの、教室にいた鈴木や、廊下で見ていた生徒たちの証言で追い詰められた。


 結果、沙羅に対して顎を掴んだり手首を強く握ったという“過剰接触”が確認され、佐々木には後日「停学処分」が下されることがほぼ確定。他の二人は反省文提出で済むようだった。


 そして、俺――。


 もちろん“校舎の外壁をよじ登った件”については、上山田先生にみっちり説教された。


「命綱もないのに3階まで……お前はスパイダーマンか?」


「……すみません」


 でも、鈴木や五郎丸、他の生徒達の目撃証言で「暴力はなかった」と認められて、おとがめはなし。


「皇はもういい。下がってよし」


 上山田先生のその言葉に背中を押されるようにして、俺は職員室を出た。


 



「お疲れ様でした、皇くん!」


 職員室を出た瞬間、廊下の柱の陰から声をかけてきたのは――五郎丸だった。


「お前……まだいたのかよ」


「当然ですとも。“戦い終わって日が暮れて”って、僕もエピローグに参加させて貰いますよ!」


 いつも通りの調子で言いながら、五郎丸は俺のスマホを差し出してくる。


「皇くんの“馬息子ガチムチダービー~最後の戦い~”ログアウトしてませんでしたから落としときましたよ!あと……ついでに友達登録もしておきました!」


「……サンキュ」


俺は少しあきれ顔でスマホを受け取る。俺は訊ねた。


「沙羅は?」


「まだ保健室みたいですね。さっき日比野先生が“お母さんが来るまで安静に”って言ってました」


「……そうか」


 俺が歩き出すと、ちゃっかりと後ろについてくる五郎丸。


「……ついてくんな」


「えっ……!? あ、あ、はい。じゃあ僕はここで……あ、でも、見届けるというのも友情の――」


「……ついてくんなって言ってんだろ」


 しょんぼりと廊下の隅に立ち止まる五郎丸を背に、俺は保健室へと向かった……が。


「……明日話してやるよ」


 それを聞くと、五郎丸は嬉しそうに手を振りながら去って行った。

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