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プロローグ

かつて中二病をこじらせ、アニメとミリタリーに青春を捧げた少年・すめらぎ 岳人がくとは、剣道全国出場の実績を持つ硬派な高校生に生まれ変わった!

過去の自分と決別し、順風満帆な新学期が始まる――はずだった。


だが、彼の前に現れたのは、ツンデレで僕っ子な“最強の幼なじみ”妙義 沙羅。再会早々、自転車に飛び乗り、怒鳴り、絡みまくる彼女に、岳人の平穏な日々は崩壊寸前!?


恋か、友情か、それとも…黒歴史の再来か!?

過去と現在が交差する、ドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕!

東京の東の端――

誰もが「23区」と聞いて思い浮かべるような、煌びやかなビル群も、洗練された流行も届かない。

古ぼけた家と、ところどころに残る緑の住宅街。

その片隅で、俺は生まれ育った。


親はどこにでもいる会社員で、家はよくある木造の二階建て。

近くにコンビニがひとつ、駅まで徒歩十五分。

なんてことのない、ありふれた中流家庭のひとり息子。それが俺――すめらぎ岳人がくとだ。


小学生の頃は、家の裏手にある河原の土手を駆け回り、雨上がりの公園で泥だらけになって遊んだ。

ズボンの膝はいつも破れていて、ランドセルの中身はぐちゃぐちゃ。

それでも、太陽の下で笑っていたあの頃の自分は、今でも心の中でまぶしく輝いている。


――あれは、宝物だった。

……少なくとも、中学に入るまでは、そう思っていた。


中一の春、俺は人生を狂わせる“光”に出会う。


――アニメ。ゲーム。そしてミリタリー。


煌めくビジュアル。躍動感あるストーリー。鋼鉄の美学に彩られた兵器たち。

俺はその世界に夢中になった。雑誌を漁り、掲示板を覗き、気になる作品は徹夜で一気見した。

フィギュアも集めたし、キャラのセリフを真似した。軍事系の知識は、小テストで引かれるレベルまで極めた。


そう、俺は……間違いなく、幸せだった。


だが、それは世間的には“黒歴史”と呼ばれるものだったらしい。


ある日、クラスのやつが俺を指差して言った。


「皇ってさ、オタクじゃね?」


その瞬間、俺の中で何かが、音を立てて崩れた。


オタク……?

違う。俺は、好きなものを好きって言ってただけだ。

キャラのセリフを覚えてただけで、戦車のスペックを語ってただけで――

なぜ、そんなレッテルを貼られなきゃいけない?


俺は反発した。そして、逃げた。


持っていたアニメ、ゲーム、ミリタリー雑誌やフィギュア。

全部、箱に詰めて押し入れの奥に封印した。

そして、“華やか”で“モテそう”な、「テニス部」に入った。


ラケットを持って歩くだけで、少し爽やかになれた気がした。

けれど、そこにいたのは俺の想像とは違った連中だった。


無駄に明るくて、ノリが良くて、男女で遊びに行って、インスタに写真を上げて、彼女がいるのが普通。

いわゆる“陽キャ”――パリピってやつだ。


俺は浮いた。けど、それでもしがみついた。


会話についていけなくても、ノリだけで返した。誘いは全部受けた。

部活では声を張り上げて、中心に食い込もうとした。

だんだん、心と体のバランスが崩れていく。


でも、顔には出さない。


そんなある日。

俺に告白してきた、二つ年下の女の子がいた。


その子とのやり取りは、やがて俺の“安らぎ”になった。


疲弊と癒し。


その二つを抱えたまま、春が過ぎ、夏が過ぎ、冬を迎えた。


そして、卒業式。


俺は思いきって告白した。

「もっとちゃんとした関係になりたい」――そう伝えた。


彼女の返事は、たった一言だった。


「なんか違う」


その日、俺の“青春ごっこ”は終わった。


――そして、高校生になった。


高校に入った俺は、剣道部に入る。


小学生の頃から唯一続けていた、“ちゃんとしたもの”。

中学に入ってからはやめてしまっていたけれど――

今の俺には、それしかなかった。


黙々と練習し、黙々と走り込み、黙々と竹刀を振る。


鍛えて。

鍛えて。

鍛えて。

……鍛えた。


そして――


高校一年の夏。

俺は、インターハイの全国大会に出場した。


結果は三回戦敗退だったけど、学校には横断幕が張られ、クラスメイトからは拍手を送られた。


「皇って、すごいんだな」

「剣道部のエースでしょ?」

「かっこよかったよ!」


……そうして俺は、「元中二病オタクのエセパリピ」から、

**「剣道の出来るすごい奴」**へと、生まれ変わったのだ。


そして今。新しい春。


桜が舞い、新入生たちの制服のシャツがまだ馴染まない四月の朝。


俺は高校二年生になった。


これは、そんな俺と――ある“最強幼なじみ”との物語。

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