Ep.5 adults & childrens「大人と子供」
ガチャ
扉がゆっくりと開く。
「. . . 」
あの日見た灰色の木々が森の奥深くまで続いている。
少女は怖かった。だけど、このままではきっと何も変わらない。
「. . っ」
勇気を振り絞って一歩前に進んだ。
「すぅ. . . はぁ」深い息を吐く。
目を閉じ、覚悟を決めて前に進んだ瞬間
ドサっ
何かにぶつかる。
少女は後ろに転んでしまい、腰の痛みで涙目になった。
しかし、目を開けるとそこにはハイルが立っていた。
「. . . すまない」
少女はハイルを前にどこか安心感を覚えた。
心にはまだあの日の出来事が鮮明に残っている。
「そとにでるのこわい」
ハイルは少し考え込んだあと、少女に手を差し出した。
「そうか」
その言葉に少女は少しイラッとした。突然ギュッと両手で彼の手を掴む。
「はなさないで」
「. . .」
相変わらず何考えているのか分からない表情をしているが、少女の手は彼の手で優しく包み込まれていて、とっても暖かった。
「行くぞ」
少女はハイルの後ろの方に隠れる。息を止めて、目を閉じゆっくりと彼とともに前に進む。
一歩、一歩、また一歩足を前に伸ばす。
目を開ける。
ただ何も無い灰色の世界が少しだけ明るいと思えた。いや、世界というよりもおじさん(ハイル)の手が自分の体中に伝わるほど温かっただけなのかも知れない。
外に出られた。これからまた怖い物を見ちゃうかもしれない。だけど、今は勇気に満ち溢れている。なぜなら、目の前にすっごく勇気と安心をくれる人が手を繋いでいるから。
「おじさん」
「なんだ?」
「おんぶして」
「分かった」
彼は立ち止まり、少女を背中で抱えた。
「あたたかい」
彼から感じる背中の温かさが、あの日、感じた広い背中と一緒だと気づく。
「. . . . 」
男は屋根に吊るされてある玉ねぎの方に向かった。
自分で取ろうとしたが少女に止められた。
「わたしがとりたい」
無言のまま彼は反対側に向き、少女が取りやすいように少女の真上に玉ねぎが来るようにしてくれた。
「ん〜!」
彼女の手がほんの少し届かない。
それを察したハイルは少女を持ち上げ自分の肩に乗せた。
「わあ」
「届くか?」
少女はしっかりと玉ねぎを手に取ることが出来た。笑顔で玉ねぎを彼に渡す。
「ハイっ!」
「. . ありがとう」
少女は照れてハイルの黒い髪に顔を埋めた。
「んふふ」
その光景を遠くから眺める2人組がいる。
少年「僕も背中乗りたいよ!」
青年「言えばいいじゃない」
少年「言えないよ、断られたら落ち込んじゃうよ」
青年は溜息を吐いて頭を抱える。
青年「子供何だから正直に話したら?」
少年「でも. . . 」
少年は言うべきか迷っていた。
青年は呆れた様子。
青年「後先考えないのが子供、深く考えるのが大人なんだよ」
少年「. . .うん」
青年「君はまだ大人になるには早すぎる。」
青年はニッコリと少年の背中を押す。
「うわっ!」
少年は照れくさそうにハイルの元まで歩く。
ハイル「. . . 」
少年「ぼっ僕も乗りたい. . 」
少年はうずうずする。
ハイル「分かった」
そう言い少年を片腕で持ち上げ、両肩ずつ少年と少女を乗せる。
少年「わあ!」
少年は目をキラキラさせる。
「わああ、高ーい!」
子供達は沢山遊んで時を楽しんだ。
青年は子供達のことを思う。
(2ヶ月前と1週間前にあの二人が来たんだったな、二人の故郷も知らない、親が生きてるかも怪しい、辛いはずなのに元気に満ち溢れていて前に進もうと頑張ってる。あの子達の心の支えなってるのはあの人のおかげだな。)
青年はハイルと自分を重ね合わせる。
青年「いい加減前に進まなくちゃな、フィリップ」
青年はあくびをしながら二度寝をしようと家の中に入ろうとした。しかしハイルが声を掛ける。
「フィリップ、話がある」
ハイルは子供達を肩に乗せたままだった。
「ふぁ〜、何でしょうか?」
「1週間後、人類存続の道を歩む最後の基地、エターナルに向かうぞ」
その話を聞いたフィリップの表情が固まる。
「り、了解です. . . 」
つづく
子供を見守ることは素晴らしいこと、でも、たまに背中を押してあげるのも大人の役割。