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第8話


 小鳥にとって、今いる世界について教えてくれるおばばさまは得難い先生だった。

 おばばさまのテントの中の独特の薬草の匂いがするそこはいつしか安心できる場所になり、他愛のない話からこの世の摂理までおばばさまはよく知っていて孫に物語を語るように小鳥がわかるまで話してくれる。

 マリーおばさんやマシューおじさんたちも優しかったが、おばばさまは安らぎがあった。

「おばばさま。魔法って具体的にどのように使うのですか」

「この世界の五つの力については説明したね。この世界の万物にはすべてその力が流れている。それに作用させて起こす現象を『魔法』というんだよ」

 小鳥のファンタジーの知識よりなんだか小難しい。

「呪文を唱えてドカーンとかなんないんですか?」

 ある意味、無知丸出しの質問も嫌な顔ひとつせず教えてくれる。

「そんなこと出来たら私はこんなところで暮らしてないさね」

 確かにおばばさまの生活は質素である。

 日々自らの手で森で食糧を調達し、薬草を村人に分け生活している。

「人が言葉を使い始め、すべてのものに名がついた。特にそのものに刻み込まれた名をという。魔法使いはを知ることによって万物に作用させるのさ」

?」

「例えば……お前さんのは『小鳥』だね。それは親から与えられた特別なものだ。お前自身をお前自身とたらしめんとするものだね」

「私自身を私自身とたらしめるもの……」

「すべてのものは流れている。その中で、自分自身というものを認識するものはなんだ?」

「それがですか」

 よくできました、とばかりにおばばさまは小鳥の頭をなでた。

「そうさね。だからお前さんはお前さんの名前を大事にするんだよ。それは祝福を与えるという一方で縛り付けるものにさえなるからね」

「祝福……縛り付ける……」

「世界に言葉ができ、すべてのものに名をつけることによって人はそれを知り支配下に置いた……親からもらう名もその一つさ。それはその子の幸せを願ってつけられ、一族としての繋がりと束縛をあたえるからね」

「おばばさま」

「なんだい?」

「私、こちらに来て思うんです。村の人たちから『トリィ』と呼ばれると、この場所に受け入れられたような気がして嬉しい気持ちと……いつか、元の世界の家族を忘れてしまうんじゃないかってすごく胸が痛くなるような悲しい気持ちなるんです」

 おばばさまは愛しむように小鳥の頭をなでる。

「それはそうさ。それはこちらに来てからの名じゃからの。それに、小鳥、お前さんが日々口にするものはこの世界のもの。人も植物も動物、この世界のすべてのものは同じようでいて日々少しずつ生まれ変わっておる。それは誰も抗えない。だから、お前さんの名前、野山小鳥のやまことり、親からもらった名を忘れないようにしなさい。そうすれば、お前と家族の繋がりは消えないよ」

「はい」

 おばばさまの言葉はいつも小鳥を助ける。

 突然違う環境に置かれると植物が枯れてしまうように、少しずつ少しずつ知識を与えこの世界に順応できるよう導いてくれる。

 小鳥の疑問や不安をずばりと言い当てるおばばさまはやはり魔法使いなのだ、と小鳥は思った。

 


 おばばさまは腰の曲がった見かけによらず健脚だった。

 日中、テントの中にはあまりいない。

 森の中に入り薬草やきのこや木の実や山菜などを採ったり、かとすれば大樹に手を当ててなにやら瞑想をしていたりする。

 もちろん森にいるおばばさまの傍らにはいつも漆黒の翼のイルディーカがお伴している。

 そして、小鳥も畑仕事の手伝いも終わる午後には、おばばさまに伴って森の中にわけ入ったりもした。

 こちらの世界にさ迷いこんだときは恐怖の中やみくもに歩き回った森もおばばさまの知恵を持ってすれば生き物の揺りかごのように感じられる。

 もともと山村育ちの小鳥だ。

 木々の種類は違いはあるが、森の中はどこか懐かしいような気がする。

「小鳥、森はいろいろなものを与えてくれる。でもだからってなめてはいけないよ。この森にとって蟻もお前さんも同じようなもんなんだからね。自然はひとのおよびのつかない意思で動いておる。油断していると呑まれるよ」

 おばばさまは釘をさすのも忘れない。

 おばばさまのもとで薬草や食べれるきのこなどさまざまなことを小鳥は学んでいった。

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