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2-第6話

 夜も更け街が眠りにつく頃、明かりを放ち賑わう場所がある。

 ドークの酒場は街道沿いにあるレクテの街にある唯一の酒場である。

 仕事終わりの男たちや交易のため訪れた商人、また商人たちを護衛するためなどの目的でついてきた傭兵や旅人などで賑わっていた。

 酔った男たちの笑い声や吟遊詩人の歌声、男を誘う婀娜っぽい女の声――室内はさまざまな音で溢れ煙草の煙で満たされ一種独特の空気で満たされている。

 その一角のテーブルに座る旅人らしいフードを目深に被った三人の男が人目を忍ぶように話し込んでいた。

 フードで隠れて髪の色は見えないが、ランプの明かりで照らされて垣間見える男たちは褐色であり南方からの旅人であると見て取れた。

「ほんとに行く気か?フギト」

 フギトと呼ばれた細身の男は他の二人が周りを気にする様子もお構いなしに、のんきに椅子を頭の後ろに両腕を組んでいてむしろそれを楽しんでいるようだった。

「おう!リク、当たり前だろ!それじゃなきゃ、わざわざこんな片田舎まで来た意味がねえじゃねえか」

「おい、フギト!声がでけえよ!」

「デルクのほうがでけーよ」

 そう言ってすかさずその中で一番体がでかい男の頭をリクと呼ばれた男が殴った。

「ってー……本気で殴るなよ」

 巨体を縮こませてデルクが頭を抑えた。

 それを見ていたフギトが笑って酒を口に運ぶ。そして渋面をつくる。

「よくここらのやつらはこんなもん飲めるな。苦くてまずいもんよく飲めるな」

 彼らの故郷は乳や果物を醗酵させて作った甘い酒が一般的で、この土地の麦酒ビールはどうも口に合わない。

「のん気に酒なんか飲んでいる場合じゃないだろ」

 リクが苛立ったように言った。それに追従するようにデルクも続ける。

「そうだぞ!フギト!お前の気まぐれにオレたちも渋々付き合っているんだからな!」

「だから声がでけーって」

「いてえ」

 間髪いれずに飛んできたリクの鉄拳にデルクが頭を抑える。

 なんだかんだ言いながら飲み干したコップを手で弄びながら二人を見ていたフギトはコップを置いて言い放った。

「誰もついてきてほしいなんて言ってねえだろ。俺はあの『血濡れの皇子』がどうなったかこの目で直接見たいだけだ」

 フギトはふと笑いをやめ鋭い表情をつくった。

 この男は普段のへらへらとした言動からは考えられないほど、大胆で冷酷な一面を持つ。

 それを知っているリクとデルクは顔を見合わせた。

「お前を放っておくと禄でもないこと仕出かすからな」

「そうだそうだ。長たちからも見張ってろって言われた」

「リクお前まだ若いのに気苦労が多いと禿げるぞ」

「気苦労が多いのは誰のせいだと思っているんだよ!!」

 どこまでも飄々としたフギトの様子に切れたリクがテーブルを叩いて立ち上がった。

「……リク静かに」

 デルクがどうどうとリクを落ち着かせるとフギトに向き直りフギトにまじめな顔をつくった。

「裏の情報屋の話じゃもう皇子は暗殺者たちにやられたのは確からしいぞ。それでも行くのか?」

「確かも何も”らしい”じゃねーか。生憎俺は自分の目で見たもんじゃなきゃ信じねえ。それに……あいつが簡単にやられるとは思えない」

「随分、あの皇子さまを買っているじゃないか」

 リクの揶揄するような言葉に、フギトは口の片端を上げて不適に笑った。

「残念ながら俺の勘はあたるんだよ」

 そう言ってフギトは立ち上がる。

「お、おい。フギトどこ行くんだよ」

「ここからは俺一人で行く。お前らはここで待っていろ」

「なに言って――」

 そう言って後を追いかけようとするリクの肩にデルクの大きな手が乗った。

 リクが振り返るとデルクが首を振っている。

 フギトの諦観した様子にリクも肩を落とし椅子に腰を下ろした。

 フギトと幼馴染でもある二人はフギトがこうと決めたら梃子てこでも動かないことをよく知っている。

 フギトは後ろでに手を振り、ひょいひょいと酔っ払いを避けながら酒場のホールを抜けると出口の闇に消えた。

 それを見届けたとリクはやけ酒のとばかりに麦酒を一気に呷った。


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