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2-第2話

「許さない……」

 小鳥の瞳に怪しげな光が宿る。

 ゆらゆらと燃え上がる紫の瞳。

 小鳥はただロウランが傷つけられたことに激しい怒りを感じていた。

 小鳥の頭は沸騰するような、そして目の前が真っ赤になるような感覚を覚えた。

 それに対し小鳥に飛びかかろうとしていた獣は戸惑いを見せる。

 

 ざあ、と森がざわめいた。


 小鳥は怒りを込めて獣を睨みつける。

 小鳥はこれからどうするのか、何をしようとしているのか頭で考えているわけではなかった。


 それは攻撃された相手に対する報復しようとする本能に近い感覚。


 小鳥の意識は相手の意識へと侵入しはじめていた。


 ロウランへ名付けたとき精神が共になったような共鳴シンパシーとは違い、相手の精神こころを害し壊すために無理やり押し入る。

 恐怖を感じた獣は目をそらそうとするが、それさえも小鳥は許されない。


「キュウウン」


 獣は怯えたように鳴き尻尾を丸めて震え始めた。

 小鳥がはっきりと、だが静かに言葉にする。


「コワレテシマエ」


 相手の精神をぎりぎりと手で締め付けるような感覚を小鳥は感じる。

 小鳥が怒りを強めるほどに、その力は強まった。

 小鳥の瞳の怒りの炎が強まるほどに、逆に獣の瞳の光が小さくなっていく。

 それに小鳥は残酷に微笑んだ。


――――オマエナンテ イナクナッテシマエ


 さらに力を強めると獣の精神はもはや体を支え切れず倒れた。

光を失った獣の瞳だけが小鳥を見つめる。

 小鳥はもはやロウランは視界に入っておらず、ただサディスティックで倒錯的な満足感が沸き上がるのを感じた。

 小鳥は今、強者だった。

――――――弱者の命を弄び喜ぶ強者……あと、少しで”コレ”は壊れる。


「やめな!!」


 突然、第三者の声がかかり小鳥の意識がそれる。

 精神の束縛から解放された獣の瞳に光が戻り起き上がって怯えて後退した。

 小鳥が我にかえり、周りを見ると傷つきながらも心配げなロウランと小鳥を見て怯えた目をした獣の群れ達がいた。

「私……」

 小鳥が茫然として呟くた途端、獣の群れは慌てたように逃げ出した。

 ぺたりとその場に小鳥はその場に座り込む。

 小鳥が自分自身の手を見れば震えていた。

 自分のしていたことが信じられず、今起きたことを頭で処理しきれず呆然とする。

「私何をしようとしていたの……?」

 小鳥は震える両手をしばし見つめたあと顔を覆った。 

「怒りに自分を支配されるのではないよ」

 小鳥を止めた主がランタンの小さな灯りを持ってたたずんでいた。

思い出せばおよそ半月ぶりの人工的な光を目に入れて小鳥は目を眇める。

「おばばさま……」

 おばばさまは小鳥に近付く。

「おばばさま……私……」

 小鳥はおばばさまに目を向けた。

 さきほどの力を失った小鳥の瞳が自分への恐怖で揺らめく。

「お前さんは自分の怒りに我を忘れ、相手の心を壊そうとしていたんだよ。それは、ある意味肉体を傷つけるより残酷なことだ」

「私……『コワレテシマエ』って……」

「自分自身の力と感情と力に振り回されてはいけないよ。お前さんはまだ魔法において生まれたばかりの赤子のようなものだ。制御しきれない力は己を傷つけることにもなる」

 小鳥の頬に暖かくざらりしたもの感じた。

 振り返るとロウランの色違いの瞳が心配げなに見つめていた。

「ロウラン!大丈夫!?」

 その時になってロウランが傷を負っていることを思い出す。

「大丈夫だよ。ロウランの傷は深くない」

 おばばさまがロウランに近づいて傷を確かめ答える。

 近づいてきたぼおっとしたランタンの光が小鳥を少し安心させた。

「それより、あちらのほうが危ないさね」

 おばばさまが顔を向けたほうに馬と人が倒れている。

「あの人は?」

「さあてね。この森にこんな夜更けに踏み入れるなんてよほど命知らずか愚か者だね」

 おばばさまは彼らに近付いて様子を見た。

「馬はもう死んでいるね……獣たちに引き倒されたときに首の骨が折れたんだろう。こっちはまだ息があ……小鳥!!」

「はい!」

「こいつを私の家まで運ぶよ。すぐ手当てしないと命が危ない」

「え!?」

 我を取り戻した小鳥は慌てておばばさまに駆けよった。










 森の中で倒れていた男は青年といえるような風貌だった。

 額にかかった深い藍色の前髪を小鳥そっとはらい、浮かんだ汗を濡れた布で拭う。

 うう、と小鳥の目の前に横になった青年はうめき声をあげた。


 おばばさまは小鳥の後ろで薬草をすりつぶしており、傷の手当てをされたロウランは小鳥の脇で目を閉じて横たわっていた。

 おばばさまのテントは広いとはいえ、いっぱいになっている。





 森の中で倒れていた青年をなんとか担いでロウランの手伝いもあり、おばばさまのテントまで汗だくになりながら運びこんだ。

 可哀そうだが死んだ馬はその場に残すよりなかった。

 おばばさまと小鳥はまず肩にささった矢をを抜くため上着を脱がした。

おばばさまは火であぶった針のようなもので傷口を広げてから、矢を抜く。

 矢を抜くとき青年は低く呻いたが、意識が戻ることはなかった。

小鳥の方がその痛そうな姿に気を失いそうになった。

矢を抜いた傷口に消毒と止血作用のある薬草を塗り清潔な包帯で巻く。

青年の顔色は死人のように白く小刻みに全身が震えている。

おばばさまは彼の瞼の裏の色を見たり抜いた矢についた付着したものを見て重々しく言った。

「これは……ギースの毒だね」

「ギース?」

「ああ、この森にも生えている植物だよ。黒い小さな実をつける。その実をすり潰して精製すると致死性の強い毒になる。量によっては麻酔なんかにも使われるんだがね」

「助かりますか?」

 小鳥は苦しげな青年の顔を見た。

 顔色は悪いのに息が上がっているし熱が出ている。

「ギースの解毒剤にはその根を使う。小鳥、その男の様子を見ていておくれ。あと、ロウランの手当てもね。私は解毒剤をつくるから」

「はい」

 小鳥はロウランの傷の手当てをした。

 苦しげな青年を見て小鳥は胸を痛める。

こちらの世界の人は体格が総じてよいので年の頃は変わらないのではなかろうか?

そんな年頃の青年が毒矢を射られるということが小鳥には信じられなかった。

馬から落ちた時に骨折をしなかったのは幸いかもしれない。

 ロウランはおばばさまが最初に見立てたように傷は深くなく小鳥はほっと安堵した。

 ロウランは状況をわかっているのか手当てをされている間大人しくしていた。

「さ、これを飲ませるから手伝っておくれ」

 木の椀に入った薄茶色のどろっとしたものを、おばばさまは手にしている。

 小鳥は青年の上半身を持ち上げ、おばばさまが椀から青年の口に流し込んだ。

 漢方薬のような強い匂いがしたが、青年は吐きだす力もないのか抵抗もなく流し込まれる。

「やれるだけのことはやった。あと助かるかどうかは彼の体力次第さね」

 おばばさまは少し疲れたように言った。

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