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第17話

 『彼』は気配を消してその人間の様子を見ていた。


 チイサイ


 その小柄な人間は、普通の被食者ひしょくしゃならばパニックを起こして自滅するか、恐怖にただ身を縮めるものだが、囲まれた状態なったなおも群れのボスから目を離さず牽制している。

 その瞳に宿る強い生きる意思。


 オモシロイ


 茂みの中で彼らの様子を見物をしながら『彼』は思った。

 今まで森の中で暮らす中で感じたことのない感情が溢れてくるのを感じた。

 しびれを切らした群れのボスがその小さい人間に飛びかかった。

 しかし、その小さい人間は驚いたことに冷静に狙いを定めボスの鼻面をけり上げた。 

 そして気がそれた瞬間をねらって群れの手が届かない気に登り始める。

 すぐに群れも飛びかかろうとするが一歩遅くもう手の届かないところまで小さい人間は登りきった。 自分たちの四足は大地を駆けるに得意としているが、木に登ることはできない。

 そこで『彼』は自分の気配を隠すのをやめた。

 すると小さい人間を追いかけていた群れは『彼』の気配を感じて離れていく。

 小さい人間のほうは『彼』に気づいていない。

 それも当たり前だ。

 人間の感覚は他の動物に比べて極端に鈍い。

 しばらく群れが戻ってこないか様子を見ていた小さい人間は危なっかしい足取りで木から下りると、大地に寝転んだ。

 しばらく見ていた動かない。


 ドウシタノダ


 気付かず『彼』は一歩踏み出していた。

 平素の『彼』ならありえないことだ。

 どんな時も冷静に気配には気を使う。

 厳しい野生の世界では当たり前のことだ。

 小さな落ち葉を踏む音に小さい人間も気がついたようだ。

 自分のいる茂みのほうを見つめる。

 

 ドウスル?


 少し考え『彼』は小さい人間の前に姿を現した。

 『彼』を視界に認めた小さい人間に驚きはあるが恐れは見えない。

 それも『彼』の興味をさそった。

 ふっと小さい人間がこちらに手を伸ばす。

 『彼』は鼻をよせた。


 ヤハリ イイニオイ


 『彼』の反応に満足したのか、小さい人間は笑みを浮かべた。


「私は小鳥。あなたは?」


















 不思議なものだと『彼』は、自分の毛皮に埋まりすやすやと眠る小さい人間――――――小鳥を見て思った。

 『彼』ももうロウランという名がある。

 彼の種族は生後数カ月で母親から離れる。

 それからずっと一匹でいた。

 子をなすため一時いっときつがいで行動したりするが、ほとんどで生活する。

 それが寂しいと感じたことも、悲しいと感じたこともなかった。

 しかし、小鳥と意識を共有し、名前を与えてくれた。

 あの歓喜と呼べる喜びは何なのだろう。

 獲物を得た喜びとも違う暖かい感情。

 ロウランは新しい感情に戸惑いながら、それが嫌でなかった。

 そもそもロウランは『言葉』ですべてを区別し思考する”人間”とは違う。

 ロウランはその不思議なものに答えを求めようとせず、体に寄り添う暖かさをただ感じてた。



 




 


 小鳥が目をこすりながら起きると辺りはもう暗かった。

 肌寒さを感じるようになった最近だが、小鳥は自分をくるむように毛皮に囲まれ暖かい。

「ロウラン……」

 小鳥が身じろきして頭をあげる色違いの瞳と視線が合った。

 闇の中に光るロウランの瞳は、右目は冷たさを感じる青い満月、左は暖かく見守るような黄色い満月だ。

 ロウランをそのまま映したようなそれに小鳥は魅入る。

 弱者を圧倒し食す冷徹な征服者であり、そして自分に属するものを見守ることができる相反するようで両立する性質。

 べろっと小鳥の顔をロウランがなめる。

「うわっくすぐったい!」

 小鳥は思わず笑う。

 久しぶりに安心して眠った小鳥だが、ロウランに『まだ休め』と言われているようでまた頭をロウランの腹にもたれる。

「ありがとう……おやすみ……」

 連日の疲れもあり小鳥は目を閉じるとすぐ寝息をたてはじめる。

 ロウランも目を閉じ頭を伏せた。

 しかし、彼は熟睡はしない。

 何か起きればすぐさま起きれるほどには緊張感を持ちまどろむ。

 

 寄り添う一人と一匹を半分になった月が見守っていた。

 

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