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第16話


 森の中を黒い影がすーっと飛んでいく。

 木が生い茂った中を実に巧みによけながら飛んでいる。

 それは煙が上がるテントの上まで来ると「クワア!」とひと声鳴いた。

「おお、帰ったかい。イルディーカ」

 テントから出てきた小柄な影が空へ手を伸ばした。

 イルディーカはおばばさまの手に止まる。

「ごくろうだったね」

 おばばさまは労いの言葉をかけ、粟を与えた。

 イルディーカの好物だった。

 手のひらをつつくイルディーカを見ながらおばばさまは呟く。

「小鳥はどうやら銀狼ぎんろうを名付けたようだね」

 おばばさまは、小鳥の様子を一部始終を見ていた。

 獣たちに追いかけられている時も、銀狼ロウランと出会ったときもすべてだ。

 おばばさまはイルディーカの目を通して――――――イルディーカの視界そのままを『見る』ことができた。

 今まで、イルディーカを通してずっと小鳥を見守っていたのだ。

「クワァッ!」

 抗議の声を上げるようにイルディーカが鳴いた。

「小鳥が怪我したって?……私もこんな荒療治したかなかったんだがね。小鳥はこの世界ではまだ希薄な存在だ。この世界で助けてくれるものが必要だったんだよ」

 おばばさまは空になった手でなだめるようにイルディーカの頭をなでた。

「魔法使いの中でも宿命を持つ者の多くが、そばにそのものを助けるものが存在する……私とお前……そしてウェルトォントォルとアディスのようにね。そして、アディスが消されてしまって以来ウェルトォントォルは行方不明になった……この世界の運命の歯車が一つかけてしまった。そして、それに代わるようにあのがこの森から現れた。私はあの娘を見た瞬間わかったよ。力をまだ自覚していないが光あふれるあの娘がこの淀んでしまったこの世界の流れを戻す鍵になるんじゃないかってね……小鳥はこれから辛い道を辿るかもしれない。代われるものなら代わってやりたいさ。私はもう年をとりすぎた……」

 そう言ったおばばさまは年相応に老けたように見える。

 およそ半世紀以上伴にいる美しい鳥はクゥゥとおばばさまを慰めるように唸った。

「ありがとうな、イルディーカ。お前が私を助けてくれるように、あの娘ももうひとりじゃない」

 おばばさま微笑む。

 すべてを悟ったすべてを慈しむ笑みだった。

「あの娘なら大丈夫じゃよ」

 それは、まるで自分に言い聞かせるような呟きだった。






 一方、おばばさまに見守られていたことも知らない小鳥は新しく出来た友達(?)と何とかコミュニケーションをとろうとしていた。

 『ロウラン』という名前はどうやら気にいってもらえたらしい。

 小鳥はほっと安堵の息をついた。

 すっと立ち上がろうとして、左足がずきっと痛み怪我をしていたことを思い出す。

「たたたっ」

 思わず声をあげると、ロウランが心配げな顔をして左足の匂いをかぐ。

「大したことないよ」

 見栄を張っただけである。

 傷と言うのは意識しだすと、どんどん痛みが増すもので歩くたびに痛みに悲鳴をあげそうになる。

 それを見ていられなくなったのかロウランはどんと小鳥を押した。

「わあ!」

 ロウランの背中に倒れこむ。

 ロウランは体をずらし小鳥を背負い込むような形になった。

 ハスキー犬より一回り以上大きいロウランにそのまましがみつく形になった。

「ロウラン!重いよ!」

 小鳥が言うが、重さなんて感じさせない足取りでロウランが歩き始める。

 どうやら安全な場所まで連れて行ってくれるようなので、そのまま落ちないように毛をつかんでしがみついた。

 出会って少ししか経っていないが、この獣が決して小鳥を傷つけることはないという信頼がいつの間にやら出来上がっていた。

 

 着いた先は小さな泉だった。

 清らかな水がこんこんと湧き出してる。

 四方を木々に囲まれ、穏やかな木漏れ日が水面にきらめく。

 透明な水をたたえる美しい場所だった。

 もしかしたら元いた小川はここから流れているのかもしれない。

「こんなところあったんだ……」

 ロウランは小鳥をそっと下ろし日のあたる場所に陣取り目を閉じる。

 どうやら彼は昼寝をするらしい。

 小鳥はからからだった喉を潤す。

 追いかけられ走りまわり喉はからからだった。

「おいしい!」

 水がこんなに美味しいと思ったことはない。

 満足するまで水をすくって飲むと、小鳥は左足を縛っていた三角巾を外した。

 思ったより出血している。

 泉の水で傷口を洗い、三角巾も洗う。

 三角巾の血の染みはこすっても取れそうになかった。

 それから小鳥は、泉の脇に生えていた傷薬になる薬草を見つけてそれを摘み取り泉の石を即席すりこぎにしてすり潰し、痛みに耐えながら傷口に塗りこんだ。

 おばばさまに教わったもので殺菌効果もあるらしい。

 そしてまたきれいにした三角巾を当てて縛った。多少濡れているが、ないよりましだろう。

「ありがとう、ロウラン」

 泉のわきで寝転んでいた銀色の狼に言った。

 頭は上げなかったが、目を開け耳をひょこひょこ動かしたので眠っていたわけではないらしい。

 この獣と先ほどは頭の中で言葉を交わしたが、普段は声は聞こえない。

 意識して話そうとしないと言葉を交わすことはできないようだ。

 しかし、なんとなく雰囲気で何を思っているのかわかった。

 恐る恐る小鳥はロウランに近付き体を撫でた。

 少しごわごわした毛は光を浴びて光り輝き美しい。

 調子に乗って頭を撫でる気持ちがよいのか目を閉じた。

 その様子を見ていて小鳥も気が緩みあくびが漏れる。

 疲れと暖かい日の光のダブルパンチだ。

 少し大胆になった小鳥は規則正しく上下するロウランのお腹に頬を寄せる。

 ロウランは嫌がる様子を見せない。

 小鳥はふっと目を閉じまどろんだ。


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