第12話
森に取り残された小鳥はとりあえずあまり動くことはせず、近くの木によりかかった。
夜の森は静かなようで、さまざまな生き物の気配がする。
こちらに来て森をさ迷ったときには、なにやらオオカミのような影を見たことを思い出し小鳥は膝を抱え身を縮めた。
おばばさまと一緒ならば、怖くなかった森も夜の暗闇の中じっとしているとひたひたと恐怖が襲ってくる。
真の暗闇ではない。
目が慣れてくれば、物のおぼろげな輪郭が見えてくる。
――――――怖い
小鳥は身を竦ませる。
それは動物としての身を守るための原始的な恐怖だ。
時折聞こえる何かの物音にびくつき、一睡もしないまま小鳥は朝を迎えた。
白け空に鳥たちの鳴き声が森にざわめき始める。
それに小鳥はほっとし少し眠った。
起きた時には日は真上にあった。
小川で顔を洗い喉を潤した。
冷たい水が胃を刺激し、昨日の昼から何も食べていないことに気づく。
体中筋肉痛の上、寝不足だったがお腹はそんなことお構いなしに空腹を訴えた。
幸いおばばさまに森の食べれるきのこや木の実や野草を教わっている。
小鳥はまず食料を調達することからはじめた。
あまり、小川から離れてはいけない、それだけは小鳥は頭に念じ散策をはじめる。
何も分からず、こちらの世界に放り出されたあの時とは違う。
「うん、なんとかなる。大丈夫、大丈夫」
小鳥は自分に言い聞かせた。
湿った場所、朽ちた木や木の根などにきのこはよく生えている。
森を注意深く歩きながら食べれそうなものを探す。
それで食べれる果実など見つけられたら万々歳だ。
空腹のお腹をかかえながら小鳥は森を歩いた。
入れる物がないので小鳥はエプロンの裾をもちあげ、それに食べれそうなきのこや野草を見つけては入れる。
そうして夢中で探すうち日が傾いていることに気づき小鳥は慌ててきた道を戻り小川のほとりにもどった。
「さて、これをどうするか……」
残念ながらそのまま食べれる木の実などは見つからなかった。
収穫はエプロンに子山になったきのこや野草。
「火を使えないとすると……生?」
小鳥は困った。
これらを調理してスープなどにしたことはあるが、生のままで食べたことはない。
小川の水で洗い一番柔らかく食べやすそうな野草を口に含んだ。
「にがっ」
思わず吐き出してしまう。
森の植物は人の手により食用に栽培されたものとは違う。
独特の臭みやアクがあるのが当たり前だ。
しかしながら、空腹は限界を通り越している。
小鳥はいろいろ試しながら、採ったものを口に運んでいった。
数十分後。
「うう、火が使えないってこんなに大変だったなんて……」
小鳥はげっそりした顔をしていた。
ほとんどの野草やきのこはとても租借できるものではなかった。
口に入れても体が受け付けない。
なんとかかろうじて食べれるものを選んで食べるというより飲み込んだが、空腹状態でいたことも災いして胃がひっくり返りそうだ。
ぐてっと誰も見ていないことをいいことに小鳥は大地に寝転がった。
「明日は木の実をなんとしてでも探さなきゃ……」
その日、小鳥が口にしたものは少量のきのこや野草そして水だけだった。
秋の日が落ちるのがはやい。
小鳥は食べる物を探していたときに見つけた木のうろに入る。
小柄な小鳥が入ればいっぱいになるそこは何もない場所にいるより小鳥を安心させた。
森をさ迷ったときもこうして夜を過ごした。
巨木が多いこの森は案外そういう場所が多くある。
と言っても完全に安全とはいいきれないが、それまでの疲れもあってか小鳥は体を丸めて意識を失うように眠った。
ウォーン、というオオカミの遠吠えのような鳴き声に小鳥は目を覚ました。
それに返事をするようにまた遠吠えが聞こえる。
それほど、近くはないが狭い空間の中小鳥の鼓動は鼓動がはやくなるのを感じた。
――――――もし、ここにきたら?
小鳥の脳裏に掠める。
おばばさまからこちらの森にも人を襲う獣がいることは聞いていた。
野生の獣に脆弱な人間の小鳥が敵うわけがない。
疾駆する素早い足もなければ、鋭い牙や爪もない。
小鳥ができることは身を固くし小さくなりパニックを起こさないようにするだけだった。