第10話
森の道なき道を歩き、へとへとになった小鳥は、おばばさまのテントでヨモギと似たの香りがするリアテテのお茶を入れてもらいやっと一息ついた。
小鳥はおばばさまに言われるまでマシューおじさんたちに何も言っていないことを忘れていて慌てたが、そんなこともお見通しであるらしいおばばさまがイルディーカに頼んで手紙を出していてくれたらしい。
おばばさまには一生頭が上がらなそうである。
「さて、小鳥」
おばばさまも小鳥に向かい合って座った。
おばばさまは一口お茶をすする」
「お前さんに話がある」
なにやらいつもの飄々とした様子と違って真剣な様子のおばばさまに小鳥も居住まいを正した。
深い緑の深い瞳が小鳥を射抜く。
「なんでしょうか」
「お前さん、あの光が見えていたね」
「はい」
あの光景を見せるために、一緒に行ったのではないかと小鳥は首を傾げた。
「あれをみてどう思った?」
「どう……ですか?えっと……なんていうか、きれいで……引き込まれるような現実じゃないような感覚がしました」
「そうか……そうじゃな。前にこの森は特別力が濃いと言うたな」
「はい」
「お前さんのように見える者は、昔はたくさんいたが……今は多くない。『見える』ということはお前さんにもそれなりの力があるということじゃ。古の力じゃな。あの光はまさに力そのものじゃ。村で森に消えた者が多いと聞いたじゃろ。お前さんが言うたように力は人を引き付ける。それ故、森は人を迷わせる」
おばばさまは続ける。
「どのような力もそれは自分で制御できなければ誰かを傷つけ、果ては自滅する……その力を制御する方法を学んで身に付け世界の力流れを知り利用する者を世に言う『魔法使い』という者たちじゃ。とはいえ力はあれど、それを自然に自ら抑えたり開花せず気付かないこともある……逆に暴走した者を力ある他者が封印することも可能じゃ。して小鳥」
「はい」
名前を呼ばれ小鳥はしっかりとおばばさまと目を合わせた。
「お前さん前に『元の世界に戻る方法はあるか』と聞いたな」
小鳥は黙って頷く。
おばばさまの目はまっすぐと小鳥を見ている。
すべてを見通す目だ。
「もしお前さんが自らの力を制御する方法を身につけ力の流れを知る『魔法使い』になったならば、運よく歪に干渉できれば元の世界に戻れるかもしれぬ。戻れるという確証はない。しかし、可能性はある」
「元の世界に帰れる……」
「だが、魔法使いの修行は甘くはない。途中でも死ぬかもしれぬ」
「死ぬ……」
平和な日本に暮らしていた小鳥にとってそれこそ別世界の言葉のように思える。
しかし、こちらに来て森をさ迷い『死』というのはすぐそばにあることを知った。
不安に揺れる瞳におばばさまは感情を見せない。
「そして、人には過ぎた力によってお前さんの身が災いに巻き込まれるかもしれぬ。私がこうやって今は人里離れて暮らしておるが、街に暮らしておったときもあってな。人の欲は深い。力を利用しようとする者、力によって自らを滅ぼすものとおった……先にも言うたが、力を封じることもできる」
そこでおばばさまは言葉を切った。
小鳥の様子をじっと観察している。
「それでも、お前は魔法使いになる覚悟があるか?」
まだまだ、森編は続きます。
なんだか思ったより長くなりそうです。
拙い文章ですが、よろしければお付き合い下さいませ。