エピローグ
お読みいただきありがとうございます!
本作、これがラストエピソードです!
「お父様、お義母様!」
銀糸の細やかな刺繍の入った純白のドレスの裾をひるがえし、ヴィオレーヌは駆けだした。
季節が廻り、ルウェルハスト国で過ごす二度目の春。
ヴィオレーヌはこれから真っ白な馬車に乗り込み、ルーファスと結婚式を挙げるために、王宮から大聖堂へ向かう。
本来であれば、結婚式の会場となる大聖堂までは、両親と同じ馬車で向かうのがルウェルハスト国の習わしだ。
しかしヴィオレーヌは、結婚式は本日でも、すでにルーファスの妃として嫁いでいる身で、また、両親はモルディア国の国王夫妻なので、普通の貴族の慣例には合わせられない。――のだが。
「ヴィオレーヌ! 元気だったか?」
ぎゅうっと抱き着いた父が涙ぐみながら力いっぱい抱きしめ返してくれる。
その隣で、義母が「あまり力を入れてはせっかくの衣装がしわくちゃになりますよ」と、ハンカチで目元を抑えながら父を注意していた。
抱擁を解き、結婚式に参加するためにわざわざモルディア国から足を運んでくれた両親に、ヴィオレーヌは改めて丁寧に一礼する。
さすがに家族全員がモルディア国を離れるわけにはいかないので、双子の弟たちは留守番らしい。
「お父様、お義母様、本日はわざわざお越しくださりありがとうございます」
「何を他人行儀な。娘の結婚式だ、たとえ嵐の中でも駆けつけるさ」
父が豪快に笑いながら、そっとヴィオレーヌに手を差し出した。
――そう、本来であれば、モルディア国の両親は、ヴィオレーヌと同じ馬車には乗らず、大聖堂で待っているはずだった。
それをルーファスが、せっかくだから一緒の馬車で向かえばいいじゃないかと手配をつけてくれたのだ。
ルーファスは一足先に大聖堂へ向かっていて、王宮には、馬車の後ろを騎乗してついてくる護衛役の騎士たちしか残されていなかった。
ジョージーナやルーシャ、アルフレヒトをはじめとする騎士たちも、今日は真っ白な衣装に身を包み、馬も細やかな刺繍が施された面子をつけられ、華やかな装いだ。
「積もる話は後でもできよう。あまり花婿を待たせるものじゃないよ」
「ふふ、そうですね」
父の手を取って、ヴィオレーヌは馬車に乗り込んだ。
父がそのあとで義母もエスコートし、自分は最後に馬車に乗り込む。
馬車がゆっくりと走り出し、城の敷地を出て城下町に出ると、大通りの端にはたくさんの人が、旗やハンカチを振りながら歓声を上げていた。
「心配していたけれど、いい人に嫁げたのね」
笑顔で祝福してくれているルウェルハスト国の国民を窓から眺めて、義母がまた目元をハンカチで抑えた。
ヴィオレーヌはルーファスと出会った一番初めの仏頂面を思い出してくすりと笑った。
「ええ、わたしもそう思います」
いろいろあったが、今では本心からルーファスに嫁げてよかったと思える。
「一夫多妻制だというのが気に入らないがな」
父が少しだけ眉間にしわを寄せ、「お祝いの席で難しい顔はよしてくださいな」と義母にたしなめられていた。
(まあ、確かに一夫多妻制の国ではあるのだけど……)
アラベラが離縁され、ルーファスの側妃はリアーナただ一人になった。
そのリアーナだが、もともと戦時中と戦後の混乱時期にルーファスの護衛も兼ねられるように、また、アラベラ一人を側妃にするには不安なので、何かあった時に対応できるようにと選ばれた側妃だったそうだ。
そのため、リアーナ本人も、ルーファスの妻という意識は薄く、また、ルーファスもリアーナに妃としての役割は求めていない。
(それにどうやら、リアーナには想い人がいるみたいだし……)
結婚式の準備も手伝ってくれたのでその際にリアーナといろいろ話をしたのだが、彼女はルーファスとヴィオレーヌの間に子供ができたのを見届けてから側妃の地位を辞する予定だと言っていた。
子供ができてからなのは、その前にリアーナが側妃の立場から退けば、世継ぎのためだとかなんとか理由をつけて別の側妃が入れられる可能性があるからだという。
けれども、子供は授かりものなのでいつできるかわからないし、のんびりしていたらリアーナも年を重ねてしまう。
離縁するつもりのリアーナをいつまでも留めておくのは彼女にも悪いのではないかと思ったのだが、リアーナの想い人はどうやらルーファスの護衛騎士の中にいるようで、むしろ口説き落とすための時間がほしいと笑っていた。
(リアーナって、おっとりして見えるけど結構男前よね)
想い人が誰なのかはまだ教えてもらえていないが、そのうちこっそりと教えてもらえないだろうか。
唯一の側妃がそういう様子なので、一夫多妻の国だと言っても、女性同士で夫を取り合っていがみ合うと言う雰囲気は今のところない。まあアラベラがいたら別だったかもしれないが、アラベラはもういないのだ。
ルーファスも、ヴィオレーヌがいればそれでいいなどと、ちょっと恥ずかしくなるようなことを囁いてくれるので、何事もなければ、誰かと夫の愛情を取り合うようなことにはならないと思う。
(でもまあ、この話は、いくらお父様が相手でも言えないんだけどね)
それに、もしルーファスに他に側妃がいても、ヴィオレーヌが彼を好きだと思う気持ちは変わらない気がする。
喧嘩を売られたら買う主義のヴィオレーヌなので、もしも他に側妃がいて、ルーファスを取り合うようなことになれば正面からやり合っただろう。
リアーナなどは「見ている分は面白いですけど、ヴィオレーヌ様に歯向かって勝てる気がしませんから、端から張り合おうなどとは思いません」と笑っていた。
(でも、リアーナってああ見えて強いらしいから、一度手合わせしてみたいのよね)
王宮の庭で模擬戦をする許可は下りるだろうか。ルーファスに今度聞いてみよう。
馬車が大聖堂の前に到着すると、騎士たちが市民たちが乱入しないように両手を広げてバリケードを作る。
本日のために、大聖堂の前の石階段には真っ赤な絨毯が敷かれていた。
馬車を降り、父と義母に両脇を挟まれて、ゆっくりと階段を登っていく。
両開きの扉の前に二人の神官が立っていた。
この部屋の中で、ルーファスと、それから参列客が待っている。
父と義母の顔を交互に見て、ヴィオレーヌが頷けば、ゆっくりと扉が開いた。
祭壇の前に立っていたルーファスが振り返り、とろけるような笑みを浮かべる。
ヴィオレーヌは夫に向かって微笑み返し、大きく息を吸い込むと、真っ赤な絨毯の上をすべるように歩き出した――
これにて、本作完結となります!
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