帰還とそれから 2
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ヴィオレーヌとルーファスが戻った時には、王都は夏真っ盛りだった。
「まあヴィオレーヌ! どこも怪我をしていない?」
王宮に到着すると、玄関前で待っていた王妃ジークリンデが、馬車を降りたヴィオレーヌにぎゅうっと抱き着いてくる。
ダンスタブル辺境伯領から王都まで距離があるため、連絡手段はもっぱら鷹文だった。
鷹文では長文は送れないため、詳細がわからず不安にさせてしまったようだ。
「母上、連絡した通り、ヴィオレーヌも俺も、他の者たちもみんな無事です。マグドネル国軍はヴィオレーヌの活躍で無事に制圧できました。捕らえた将軍や兵士たちも王都に送ったでしょう? 同行した騎士たちに事情を訊いていないんですか?」
「聞いたけど、よくわからなかったのよ。ヴィオレーヌがこう手をふわーっと振ると大地が裂けて敵兵を飲み込んだとか、風が吹いて敵兵を吹き飛ばしたとか、みんなが口をそろえて同じことばかり言うのよ」
確かに、それだけ聞いたら何が起こったのかさっぱりわからないだろう。
多少誇張されているようには思うけれど、一応事実ではあるのだが、ヴィオレーヌも、もし自分がジークリンデの立場だったら首をひねっていたに違いない。
「捕らえた敵兵はヴィオレーヌのことを化け物だなんて言うし、それを聞いた陛下が激怒して大変だったし、もう、とにかく! 意味がわからなくて大変だったのよ!」
「王妃様、落ち着いてください。殿下もヴィオレーヌ様も帰って来たばかりですので、お話はまた後日になさっては?」
微苦笑を浮かべたリアーナがジークリンデを止めてくれて、「お二人とも、お帰りなさいませ」と頭を下げる。
リアーナに感謝しつつヴィオレーヌはルーファスとともに二階に上がった。
ミランダとともに荷物を片付けて着替えを終えてお茶を飲んでいると、自室で着替えてきたルーファスがヴィオレーヌの部屋にやって来る。
ルーファスはこの後城へ向かって、国王やクラークたちにファーバー公爵たちの尋問の結果を聞きに行くそうだ。
アルベルダから届けられる魔術の手紙で、マグドネル国のことについてはある程度情報が得られているが、ファーバー公爵側の情報はほとんど得られていないからである。
ファーバー公爵がいったい何を考えて武力蜂起したのか、彼らを裁くにしてもすべての情報をつまびらかにしなければならない。
ファーバー公爵とともにアラベラも捕らえられ、父親とともに王都に送られたが、捕らえられたばかりのアラベラはダンスタブル辺境伯領で大騒ぎをして尋問官を困らせていた。
何を聞いても「ヴィオレーヌの陰謀よ!」だの、「わたくしを誰だと思っているの!」だとか騒ぎ立てて、結局このままダンスタブル辺境伯領に置いておいてもうるさいだけと判断されて、父親とともに王都送りにされたのだ。
ルーファスの側妃の立場は、ファーバー公爵が武力蜂起したと聞いた際に離縁されているが、ダンスタブル辺境伯領からの移送手続きをする際にも「殿下に会わせなさい!」と喚いていたらしい。
いまいち、アラベラの思考回路と行動理由がよくわからなかったので、彼女はファーバー公爵の計画の中核にはいなかったのかもしれなかった。
(結局、ファーバー公爵の目的は何だったのかしら)
そして、いったいいつから、計画を立てていたのか。
もしファーバー公爵がはじめから裏で糸を引いていたのならば――、彼のせいで、大勢の人が戦で命を落としたのならば、どんな理由があれ、ヴィオレーヌは彼を許せない。
そして、先の戦争で大勢の国民と大切な友人を亡くしたルーファスもそうだろう。
「殿下……、大丈夫、ですか?」
ファーバー公爵の話を聞くのは、ルーファスはつらいかもしれない。
きゅっとルーファスの袖口を掴んで引っ張ると、彼は笑ってヴィオレーヌの頬を撫でた。
「ヴィオレーヌに心配されるのは、なんだかいい気分だな」
軽口を叩いて、何を思ったのか、ちゅっとヴィオレーヌの額に軽いキスを落とす。
バッと、顔を真っ赤に染めて額を抑えたヴィオレーヌの様子に、声を上げて笑いながら、ルーファスは部屋を出て行った。
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