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王都の異変 3

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 二か月程度かかるところを、何とか一か月半程度まで短縮し、王都に到着したのは秋も半ばの頃だった。

 帰還は冬か、もしくは来年の春になることを想定していたので、予定よりもずいぶんと早い帰還になる。


「……なんだか、様子がおかしくないですか?」


 馬車の窓から城下町の様子を見ていたヴィオレーヌは、道の両端に寄り、馬車を見つめている市民たちの表情が厳しいことに気がついた。

 ヴィオレーヌのことをよく思っていないのだろうと予想はできたが、嫁いで来た時よりもはるかに厳しい視線を向けられている気がする。


「そうだな、何か妙だ」


 ルーファスが、ヴィオレーヌと同じく窓外を眺めながらつぶやいた、そのときだった。


「この、敵国の悪女め‼」


 こちらを見ていた市民の中から、十歳くらいの男の子が叫んで腕を大きく振りかぶった。

 カツン、と小石が馬車の窓に当たり、顔色を変えた騎士数名が男の子を取り押さえる。

 ヴィオレーヌはぎょっとした。


「殿下!」

「王族の馬車に石を投げたんだ。罰せられるのは仕方ない」

「でも、まだ子供ですよ!」


 抑えつけられ喚いている男の子が、どこかに引きずって行かれる。

 たまらずルーファスの手をぎゅっと握りしめると、彼はやれやれと息を吐いた。

 こんこんと馬車の窓を軽く叩くと、騎乗し近くを並走していたカルヴィンが近づいてくる。

 ルーファスが軽く窓を開けた。


「手荒な真似はせず、なぜあのようなことをしたのかを吐かせた後は軽く説教をして解放してやれ」

「よろしいのですか?」

「俺の妃は聖女だからな。慈悲深いんだ」


 ルーファスがあきれ顔をしてヴィオレーヌに視線を向けると、カルヴィンが苦笑する。


「かしこまりました」

「ついでに聖女の慈悲を懇々と説いてやれ」

「殿下!」

「そのくらいしておいた方がいい。さっきの言葉を聞いただろう?」

「……はい」


 男の子は「敵国の悪女」と言った。間違いなくヴィオレーヌのことだろう。


「何があったのかは知らんが、妙なことになっている。王宮に戻ったら情報を集める必要があるな」

「わたしが嫌われているだけかと……」

「お前に対して、市民に思うところがないとまでは言わん。だが、王都を出る時と今とでは明らかに様子が違う。何かあったとみるべきだ」


 ルーファスの言う通りだ。

 ルーファスとヴィオレーヌが不在にしている間に、何かがあったのかもしれない。


(まさかマグドネル国が何か……?)


 嫌な予感が胸をよぎったが、そうであれば国王から連絡が入るはずだ。今回のことにマグドネル国は関係ないと思いたい。

 ヴィオレーヌが表情を曇らせると、ルーファスが苛立ったような顔をして窓のカーテンを閉めてしまった。

 全部のカーテンを閉められたので、馬車の中が薄暗くなる。


「気にする必要はない。俺は、嫁いできて今日までの僅かな期間に、お前がどれだけこの国のために働いてくれたかを知っている。すぐにどうにかすることはできないにしろ、絶対にこのままにはしない。お前は堂々としていればいいんだ、ヴィオレーヌ」


 ルーファスが真剣な顔で、ヴィオレーヌの顔を覗き込む。

 ヴィオレーヌは、小さく笑った。


(憎まれる覚悟はしていたはずなのに、不安に思うなんてどうかしていたわ)


 大国ルウェルハスト国で、たった一人でモルディア国のために戦うつもりで嫁いで来た。

 そのことを思えば、今のこの状況は最悪でも何でもない。何故ならヴィオレーヌには味方がいる。

 ルーファスや、ジョージーナたちがいるのだ。


 改めて、ヴィオレーヌのことを好きだと言ってくれたルーファスを見上げる。


 この人がいるから、きっと大丈夫――


 根拠も何もないのに、不思議とそんな思いが、温かい何かとともに胸の中に広がった。




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[一言] どきどきしますね…だだだ大丈夫かな…
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