王都の異変 1
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ミランダにお茶を入れてもらって、お菓子で小腹を満たしながら待っていると、ルーファスが戻って来た。
眉間にくっきりと深い皺を刻んで、難しい顔をしているルーファスを見ると、ダンスタブル辺境伯から聞いた話は深刻なものだったのだろう。
「殿下……」
控えめに声をかけると、ルーファスがハッと顔を上げた。
「あ、ああ……ミランダ、俺にも茶を」
「わかりました」
ルーファスがヴィオレーヌの隣に腰を下ろす。
ミランダがメイドにお湯を頼んで、丁寧にお茶を入れはじめた。
ヴィオレーヌの膝の上でクッキーを食べていたアルベルダが、金色の目をルーファスへ向ける。
「人払いをしますか?」
「いや、いい。お前の側近にも聞かせおいた方がいい話だ」
ミランダがお茶を入れ終わると、ルーファスが対面のソファに座るように言う。
ジョージーナとルーシャもヴィオレーヌの近くに立った。
「王都……王宮から、鷹文が届いたそうだ」
「鷹文ですか……?」
それは、離れた場所に緊急の知らせを伝える時に使う連絡手段である。
訓練された鷹の足に、小さな筒をつけて、その中に紙片を入れる。あらかじめ場所を覚えさせている鷹は、その方角に向かって飛んでいく。
戦時中は、鷹や鳩を使って連絡を取り合うことが多かったが、戦が終わると緊急時以外には使わなくなっていた。小さな紙片には書ける文字の量は限られるので、急ぎでないなら郵便を使う方がよほどいいからだ。
「ああ。父上からだった。……母上が倒れたそうだ」
「え⁉」
「鷹文なので詳細はわからない。ただ、毒が盛られ重篤な状態で、聖魔術を使える王都の大司祭を呼んだそうだ。手紙が届いたということは、大司祭でも癒せないほど強い毒に蝕まれているのかもしれない。至急戻るようにとあった」
「……毒」
王妃ジークリンデは、現王の側妃がいなくなったおかげで、安寧とした日々を送っていたのではなかっただろうか。
王妃の地位を狙う人間がいるのならばいざ知らず、現王にはジークリンデ以外の妃はいない。また、王子を生む前ならわかるが、すでに二人の王子を生んで、二人とも成人した今、彼女の命が狙われるのは不自然だった。
どういう経緯でジークリンデが狙われたのかはわからないが、ルーファスの予想したように、大司祭では王妃を癒せていないのだろう。聖魔術の使い手だ、効果がないとは言えないが、命を繋いでいるだけで精一杯の可能性があった。
(わたしが作った改良版ポーションの方が、大司祭のハイポーションより性能がいいって言っていたくらいだもの……)
改良版ポーションを王宮に置いてこなかったのが悔やまれた。もしそれがあれば、国王かクラーク王子に鷹文で伝えて飲ませてもらえたのに。
「すぐに支度しましょう。ミランダ!」
「はい。荷物をまとめます」
「できれば、明日の朝にはここを出立したい。申し訳ないが急いでくれ」
「わかりました」
だが、ダンスタブル辺境伯領から王都までは馬車で二か月かかる。急がせたところで、二か月が一か月に縮まることはないだろう。
(わたしが馬たちに強化魔術と加護を与えても、昼夜問わずずっと走り続けるのは無理だし……)
戻るまでの間、ジークリンデと大司祭には頑張ってもらいたい。
一度に癒せなくとも、聖魔術をかけ続ければ少しずつ毒の影響も緩和していくはずだ。
一番心配なのは、毒で疲弊し、食事が摂れなくなることである。
少しずつでも回復し、食事も摂れるようになれば、聖魔術の効果もあって自然と快癒に向かうはずだ。
だが、そばで様子を見ていない以上、時間をかければ快癒すると楽観視してのんびりはできない。
(わたしたちが戻るまで、何としても持たせていて、大司祭様!)
ヴィオレーヌは、顔も知らない大司祭を想像して、祈った。
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