病院視察と、これから 3
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GWですので、一気読みできるように更新ペースを上げようと思います(*^^*)
5/6まで1日2話更新(朝7時、夜19時)いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします!
「こちらは軽症の患者が入院している部屋です。ポーションでほとんどの傷が癒えています。数日様子を見て、問題ないようであれば退院させる予定です」
院長の案内で、まずは二階の病室を見て回ることにした。他の職員は仕事に戻ったので、案内役は院長だけだ。
一階は通院患者や手術室、院長や職員室があるそうで、病室は二階から上なのだそうだ。
一階に病室を作らないのは、入院生活に嫌気がさした患者がたまに抜け出そうとするそうで、それを未然に防ぐための措置らしい。
軽傷者の病室では、暇を持て余した患者たちがカードゲームをして遊んでいた。
ルーファスとヴィオレーヌを見ると、カードを放り投げて跪く。
「「「殿下、妃殿下、この度はありがとうございました!」」」
ポーションのおかげで予定よりずっと早く退院できると、彼らは満面の笑みを浮かべた。
軽傷とは言え、軽い骨折や、肋骨にひびが入っていた人もいたそうだ。その程度であればポーションでほとんどが癒えるので、早く退院できると大喜びである。
今は退院許可が出るのを指折り数えながら、こうして暇つぶしをしているのだそうだ。
「暇つぶしはいいが、あまり騒いで他の患者の迷惑にならないように」
アルフレヒトに注意されて、彼らは「は!」と敬礼する。元気が有り余っているようで結構なことである。
二階は軽症者の病室ばかりだそうで、どこの部屋に行っても同じような光景だった。
だが、三階より上は重傷者たちが寝かされているので、雰囲気が異なるという。
階を分けているのは、重傷患者たちは往々にして夜中にうなされて飛び起きたり、痛みで声をあげたりするため、患者の精神衛生面を考えて階を分けたそうだ。
そして、三階と四階が重症患者専用になっているように、重傷者がかなり多い。退院のめどが立たないというのも理由の一つだろう。
三階に上がると、二階の明るい雰囲気とは打って変わって、どんよりと空気というか雰囲気が淀んでいるように感じた。
階段を上って一番近い部屋に入ると、体のあちこちに包帯がまかれた男たちが寝かされていた。
衛生面には気を配っているようで、病室は綺麗なのだが、どうしても怪我人の独特な臭いが部屋中に広がっている。
アルフレヒトが痛そうに眉を寄せた。
(……ひどいわね)
それでも、ヴィオレーヌが野盗に襲われた時のように彼らが見捨てられなかったのは、彼らを運べる範囲に病院があったからだろう。それだけは救いだが、この傷では、いつ退院できるかわかったものではない。
「ポーションのおかげで、破傷風のリスクはかなり軽減したのですが、完治までは難しく……」
院長が顔を曇らせて説明してくれる。
ヴィオレーヌも沈痛な顔をして患者を診ていると、入り口付近のベッドに寝ている、顔に包帯を巻いた男が、目だけを動かしてヴィオレーヌを見た。
まっすぐに向けられた目に、ヴィオレーヌは思わずぎくりとしてしまう。
彼らに怪我を負わせたのはマグドネル国の残党兵だ。
マグドネル国王の養女としてルウェルハスト国に嫁いで来たヴィオレーヌに対して、思うところがあっても不思議ではない。
ここでは、ヴィオレーヌがモルディア国の王女で、モルディア国も巻き込まれただけだという言い訳は通用しないだろう。
罵声を浴びせられても黙って受け入れるしかない。
体を強張らせていると、ルーファスがヴィオレーヌの手を、指をからめるようにして繋ぎなおす。ぎゅっと力強く握られて、まるで「大丈夫だ」と言われているような気分になった。
こちらへ目を向けている男性を黙って見つめ返すと、彼の口がゆっくりと動いた。
「殿下、妃殿下、ポーションをありがとうございました。……俺は、ポーションのおかげで命を繋ぐことができました。感謝してもしきれません」
どう見ても大怪我をしている彼が、ポーションのおかげだと言う。ポーションでは完治できないほどの怪我であるのに、だ。
何と言葉を返していいのかわからないでいると、院長が、彼が三日前まで危険な状態にあったことを教えてくれた。
いつ死んでもおかしくなかった彼は、届けられたポーションのおかげで最悪の状態を脱したらしい。
今はポーションを飲みながら自然治癒力を上げつつ、回復を目指しているそうだ。
思わず、ヴィオレーヌはぎゅっとルーファスの手を握り返した。
(まだ痛いはずなのに。苦しいはずなのに……)
それなのに、彼はありがとうと言う。
何故だろう。
ヴィオレーヌを憎み、罵り、この怪我はお前のせいだと言ったとしても、この大怪我の前では誰も責めないし、当然だとも思う。
(それなのに、ありがとう、なんて……)
ヴィオレーヌが届けたポーションで、確かに一命をとりとめたかもしれない。でも、この大怪我ではまだ予断は許せない状況だろう。
治ったわけではない。ほんの少しだけ、症状が改善しただけだ。
(……わたしなら、治せるのに)
ここで聖魔術を使えば、癒せるだろう。全員を元の元気な状態に戻すことができる。
躊躇っていると、ヴィオレーヌの考えを見越したようにルーファスがつないでいる手に力を込めた。
見上げれば、顔を横に振られる。やめておけ、ということだろう。
誰よりもここにいる患者を救いたいはずのルーファスが、やめておけというのにはそれなりに理由があるはずだ。
ヴィオレーヌもわかっている。
ヴィオレーヌが聖魔術を使えることは、表には出さない方がいいのだと。
「……また、ポーションをお届けしますね」
だから、ヴィオレーヌはそう言うしかない。
できるけれど、してはならない。
力を身に着け、魔術を剣術を聖魔術を学び、大切な人を守る力を手に入れたと思ったのに――
自分はなんて、無力なのだろう。
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