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~〇〇無双~ 名門魔術学院を首席で卒業した俺、次席卒業の大手魔術企業のボンボンに逆恨みされて就活を妨害され、無職になる。「そんな時に出会ったのが、この〇〇でした」

 俺――ライナス・グレイクは今、就職の面接を受けていた。

 いわゆる就活というやつだ。


「大変申し訳ありませんが、ライナスさんは不採用です」


「不採用……ですか。あの、自分で言うのもなんですが、俺の学歴や実績はかなりのものだと思うんです」


「おっしゃる通り、ライナスさんの学歴や研究実績は抜群ですね。名門の中の名門カサンドラ魔術学院を首席で卒業。さらには在学中に著名な論文賞をいくつも受賞。実に素晴らしい成績と実績です」


「ではなぜ不採用に? 理由をお聞きしても構いませんか?」


「これは他言無用でお願いしたいのですが、とある筋からあなたを絶対に採用しないようにと強い圧力をかけられておりまして」

「とある筋?」


「これ以上は言えません。魔術業界に強い影響力を持った、あなたもよく知っている相手とだけ言っておきましょう」

「それってもしかして――」


「どうかそれ以上は言わないでください。あなたに恨みはありませんが、うちみたいな場末の個人商店は、あそこに言われたら従わないわけにはいかないんです。商品の入荷を止められちゃいますんで」


「そうですか……わかりました……」


 俺は肩を落としながら力なくつぶやいた。

 そんな俺は、超名門のカサンドラ魔術学院を首席卒業した、いわゆるエリート魔術師だ。


 しかし王立魔術院や魔術騎士団を始め、魔術系のありとあらゆる関係機関、企業をことごとく落とされてしまった俺は。

 今、ここがダメならもうどこも無理って感じの、個人経営の零細魔道具屋の面接官(=店主)から、お断りの言葉をもらってしまった。


「どうぞお帰り下さい」

「本日はお時間を割いていただきありがとうございました。失礼します」


 俺は零細魔道具屋のカウンターから立ち上がり、店を出た。

(個人経営の小店舗に面接室なんてものはないので、店のカウンターで面接を受けていた)


 店主が言った「ある筋」ってのがどこの誰かは、聞かなくても分かる。

 カサンドラ魔術学院で俺に次ぐ次席で卒業した、業界最大手の魔術企業のボンボン御曹司だ。


 あのボンボン御曹司は、俺に主席卒業を譲ったことを激しく逆恨みしていた。


『今に見ていろよライナス。この俺を怒らせたことを後悔させてやる。調子に乗っていられるのも今のうちだぞ。くくく……』


 卒業式という晴れの日に、憎悪に(まみ)れた視線とともに告げられた言葉を思い出す。


「何をするのかと思っていたが、まさか実家の権力を使って俺の就職に圧力をかけるとはなぁ」

 そのせいで俺はカサンドラ魔術学院の首席卒業生としては初となる、就職浪人の危機を迎えていた。


「上から下までこれだけ広範囲に圧力がかけられているとなると、こりゃ魔術関連の仕事はもう無理だな。はぁ……」


 もはやなす術なし。

 にっちもさっちもいかなくなった俺は、失意の溜息をつきながら途方に暮れていた。



 そんな時に出会ったのが──この『マナ・ケール青汁』でした。



 せっかくなんで、俺とマナ・ケール青汁との出会いをちょっとだけ説明するとだ。


 俺にはシルファって名前の同い年の幼馴染(女の子だ。かなり可愛い)がいたんだけど、


「元気だしなってばライナス。人生は山あり谷あり。そのうちいいことあるよ。なんならうちの農場で働かない? パパもきっと喜ぶよ」


 そう言って、失意に沈む俺を元気づけてくれたのだ。


「俺、カサンドラ魔術学院でも研究にいそしんでたし、肉体作業はあんまり向いてないんだよなぁ」

「男だろー。そこは根性見せろー」


「ま、実を言うと農耕や土木に使える魔術もあるしな。根性なんてなくてもやれるとは思うぞ」


「ふへぇ、そんなのあるんだ。魔術ってほんと便利だねー」


「言っとくけど俺が特別にすごいんだからな? なにせカサンドラ魔術学院史上最高の天才って呼ばれていたくらいなんだから」


「自慢げに言ってるけど、今は無職なんだよね?」

「天才過ぎたのが仇になったかなぁ」


「もういっそのこと、うちに永久就職しなよ? パパもライナスのこと気に入ってるし」

「正直それもありかなって思ってる」


「ほんと? じゃあライナスにプロポーズされたってパパに話していい?」

「『それもありかな』でプロポーズになってしまうのか……」


「こういう話はどんどん進めた方がいいの。じゃあオッケーってことでいいよね」

「ちょ、ちょっとだけ待ってくれないか? 俺にも心の準備ってもんがだな……」


「やだ。待たない」

「即答かよ!?」


 なんて話をしながら、シルファのお父さんが経営している大きな農場にやってきたのだが。

 農場のあぜ道に生えていたものを見て、俺は目を疑った。


「おいシルファ、これ!」

「え? どれ?」


「これだよこれ! これ、マナ・ケールじゃないか! なんでこんなところに生えているんだ? しかも小規模だけど群生してるなんて!」


「怠ける?」

「なまけるじゃなくて、マナ・ケール。魔力の源であるマナを含んだケールの総称だよ」


「ふーん?」

「ふーん、ってお前。これがどれだけ価値があるものか知らないのか?」


「価値? こんなのただの雑草でしょ? まったく、こんなにたくさん生えちゃって、やんなっちゃう!」

「だー! 待て待て待て待て! さも当然のように抜こうとするな!」


 しゃがみこんだかと思うと、無造作にマナ・ケールをひっこ抜こうしたシルファを、俺は後ろから羽交い絞めにして全力阻止した。


 密着したところから伝わってくるシルファの柔らかい感触と、甘い匂いにドキッとするが、今はそれどころではない。


「だって雑草は抜かないとすぐ広がるじゃん。雑草は農地の天敵なんだからね? 一度侵入を許すと根絶に5年はかかるんだから。百害あって一利なし!」


「だからこれは雑草じゃないんだって。めちゃくちゃ希少な薬草なの! それがここには、こんなにたくさん生えてるんだ。ちょっと信じられないことだぞ、これは!」


 俺は改めて確認をしてみたが、間違いなくマナ・ケールだった。

 正直、信じられない。


「ライナスには薬草かもしれないけど、我が農園にとってはこれは雑草なんです! すぐに農地を侵食する悪魔の草なの! だから抜きます! 天誅!」


「だから抜こうとするなっての! いや待て? 今なんて言った?」

「悪魔の草だから抜くって言ったの」


「その前だ」

「えーと、すぐに農地を侵食する、かな?」


「それだよ! マナ・ケールが、農地を侵食するくらいに広がるのか?」

「そうだけど、それがどうしたの?」


「それマジ話なのか? マナ・ケールは自生場所が少ない上に、人工栽培が不可能な超希少な薬草なんだぞ?」


「この雑草の細かい生態なんて私、知らないし。だから抜きます!」

「だから抜かないでくれって! ……って、待てよ。これはチャンスじゃないか?」

「急に考え込んじゃって、どうしたのさライナス?」


 魔術のことを何も知らないシルファは、俺の言いたいことがイマイチ分かっていないみたいだが、カサンドラ魔術学園を主席卒業した魔術のスペシャリストの俺は、事の重大さをひしひしと感じ取っていた。


 これは世紀の大発見になるかもしれない――!


「この農地の土地の成分を知りたい。マナ・ケールと一緒に土を貰っていってもいいか?」

「雑草とうちの農地の土なんか研究してどうするのさ?」


「これはもしかしたら、もしかするかもしれないぞ。それとしばらくマナ・ケールは抜かないでくれ」

「それは無理な話です。いくらライナスの頼みでも聞けません。我が家の生活がかかっているんです」


「この通り、な? このマナ・ケールには、俺の人生がかかっているかもしれないんだ。何でも言うこと聞くから、な? 頼むよ、この通り!」


 俺が土下座して頼みこむと、


「もぅ、しょーがないなー。じゃあお父さんにも抜かないように言っとくね」

 シルファは渋々といった感じで首を縦に振った。



 この日から俺は研究に研究を重ね、マナ・ケールが育ちやすい土地や環境、栄養条件や日照量などを徹底して調べ上げた。

 そしてシルファのお父さんから農地の一画を借りて、マナ・ケールの人工栽培&大量生産に乗り出した。


「ねー、ライナスー。こんなにいっぱい雑草を増やしちゃってどうするのさ?」


「だから雑草じゃないんだってば。マナ・ケールはそれはもう希少な薬草で、その名の通りマナが含まれていて、食べると体内にマナが取り込まれて、体力と魔力が活性化されるんだ」


「活性化って?」

「魔術師だったらマナが回復するし、一般人もマナを取り込むことで元気になるんだよ」


「この雑草を食べると元気になるんだ? 健康食とか滋養強壮剤ってこと?」

「まぁ、そういうことだな」


「でも仮にそうだとしても、これ絶対美味しくないよ? 間違いなく苦いし」

「ふふん、味に関しては既に解決済みだ。俺に抜かりはない。まぁこれを飲んでみろ」


 俺はマナ・ケールにハチミツやらなんやらを混ぜ込んで渋みや苦味を中和し、とても飲みやすくした最新のマナ・ケール青汁の入った小瓶を、シルファに手渡した。


「なにこれ?」


「試作に試作を繰り返してついに完成にこぎ着けた、量産化直前の最終試作品だ。摂取しやすいようにドリンクにしたんだ。なかなかいいアイデアだろ?」


「緑色の液体は生理的に飲みたくないんだけど……」

「ごめん、色はちょっと変えられなかった」


 だよなぁ。

 唯一突っ込まれるとしたらこの緑色だよなぁ。


「ニンジンでも入れてみたら?」

「ありかもしれないな。でも味は保証するから、とりあえず騙されたと思って飲んでみてくれないか?」


「分かった。ライナスは嘘はつかないしね。ゴク……ふわっ、美味しい!」

 マナ・ケール青汁を飲んですぐに、シルファの顔が驚きの色に染まった。


「だろ?」

「これなら子供でも飲めるよ!」


「そうさ。魔術師のマナ回復だけでなく、老若男女問わず気軽に飲める万能の滋養強壮剤。それが俺の開発したこのマナ・ケール青汁なんだ!」


「あの雑草からこんなの開発しちゃうなんて、ライナスってもしかして超すごいんじゃない!?」

「ふふん、だから何度もそう言っただろ」


「でもお高いんでしょう?」


「いいや、価格は従来のマナ回復薬の1/100。庶民でも手が届くお値段で供給可能だ」


「1/100!? やすーい!」


「しかもこの先、量産化が本格的に軌道に乗れば、さらにコストを下げることも可能だ」


「ここからさらに安くなるの!? すごーい!」



 その後、俺の開発したマナ・ケール青汁を、シルファのお父さんの農作物の販路を通して販売したところ。


『安くて効果抜群』『10歳は若返る』『徹夜のお供に最適』『女房の機嫌がよくなった』『ジュースとして飲めるくらいに美味しい』などと口コミで広がって爆売れし。


 またたくまに納期が6か月待ちの人気商品となるだけでなく、王家や貴族、さらには王立魔術院や魔術騎士団にも純度の高い特注品を納入するなどして、俺は天文学的な大儲けをした。


 そして幼馴染のシルファと結婚して、子宝にも恵まれたのだった。


 ちなみに例の俺を陥れたボンボン御曹司の実家は、マナ・ケール青汁によって主力商品のマナ回復薬の売り上げが壊滅的な打撃を受け、近々身売りするとかしないとか。


 なにせマナ・ケール青汁は、従来のマナ回復薬の1/100以下の価格なのだ。


 ボンボン御曹司の実家が魔術業界にどれだけ強い影響力があろうとも、さすがにこの価格差の前では、なす術はなかったというわけだ。


 ま、俺にはもう関係のない話だけどな。


 ハッピーエンド。

 ちゃんちゃん♪


新作短編をお読みいただきありがとうございます。


青汁が全てを解決♪


ブックマークと☆☆☆☆☆で評価していただけると嬉しいです!


数字がよければ、いろいろと作品の未来がよくなることもあると思いますので、なにとぞー!(>_<)

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[一言] なろうでも掲載されましたか、プロジェクトXな短編を
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