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エピローグ

 ***



「入れ知恵したんだろう」


 セレストは笑顔のレスターにそう言う。そこにはなじるような気配はなかったものの、どこか呆れた様子が含まれていた。


 セレストはつい今しがた、バラの花束を抱えたローズマリーに「エリスと結婚する」と告げられたところだ。


 セレストは当初、ローズマリーからプロポーズでもしたのか、する予定なのかと思った。


 けれども実態は逆で、あのエリスがローズマリーにプロポーズをしたのだと言う。しかも公衆の面前で。


 それを聞いたセレストは、否が応でも思い出さざるを得ない記憶が呼び起された。


 セレストとレスターは、共に今ローズマリーたちが通っている学校の卒業生だ。ふたりは学生時代からの付き合いなのである。


 しかしそのころのレスターは遊び人の気質が強く、ゆえにセレストという恋人がいても、言い寄ってくる人間には事欠かなかった。


 レスターもレスターで、モテ男ぶるのを改める様子はなかった。……若気の至り、というやつである。


 しかし単なる行き違いと勘違いが大事故を起こした結果、レスターは公衆の面前でセレストに愛を告白したわけである。


 しかも土下座するわ泣いてすがるわ、それはそれはもう大変な有様で、ローズマリーによると今でも学校では「伝説」となって先輩から後輩へ伝承されているらしく、セレストはその話を聞いたとき、頭が痛くなった。


 レスターは必死だった。愛するセレストとの別れの危機に、彼の人生で一番くらい必死になった。


 けれども、理性で打算的な行動を取るだけの余裕はまだあったわけで。


 レスターは、公衆の面前でセレストに取りすがれば、どちらかと言えば大人しく優しい性質である彼女が無碍にできないということをわかった上で、あれだけやったのだ。


 もちろんレスターは必死だった。必死だったから、あんなことができたのだ。しかし打算があったのもたしか。


 セレストはそんな学生時代の出来事を思い出し、レスターを見やった。


「また『伝説』がひとつ増えただけのことだよ」


 あっけらかんとして答えるレスターは、犯行を自供しているのと同じだった。


 良く言えばロマンチック、悪く言えばキザったらしいプロポーズ。そんな発想をすぐにして、準備まで済ませられるのはエリスのそばにはレスターぐらいしかいないだろう。


 セレストはにこにこと微笑むレスターから視線を外して目を伏せる。


「ハア……。エリスはお前みたいに図太くはないんだ」

「あとで恥ずかしさにのたうち回るって? いい青春の思い出じゃないか」


 無鉄砲な行動を取ってしまい、あとで恥ずかしさにのたうち回る。……思春期にはまあまあ、ありがちな出来事ではある。


 しかしまだ未熟ゆえに取れた行動なのかもしれないと思うと、セレストは思春期を厄介に思うのと同時に、しかしそう悪くはないかもしれないなと思うのだった。



 ……まあそれはそれとして、レスターのことは絞ろう。


 セレストはそう思ってレスターに向き直った。

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