第73話 謝罪と処遇
そこからのエースさんの行動は早かった。
シルヴィアさんにサムエルさんの所業を全て聞くと、
「みんな、先にエルガスへ戻ってくれ!」
と青ざめた顔ですぐに他の役員に指示をしていた。
「アイリスは子会社へ事実関係の調査! 状況把握し次第、関係各所に連絡してくれ」
「わかりました」
金髪のひとつ結びの女性はメガネをクイっと上げ、車に戻り助手席に座る。
「ヤマトは会社に戻り経理状況を確認してくれ!」
「承知した」
緑髪の男は前髪をピンと指で弾き運転座席へ。
「ゼクスは街中に走っているオートマタを回収!」
「御意」
ガタイのいい男は両の拳を打ち鳴らし後部座席へ戻る。
「ヒナタはゼクスが回収したオートマタを調べてくれ」
「任せて! 全く保護機構がないなんて……非常識にもほどがあるよ!」
白衣を纏った黒髪のおかっぱの女の子は真剣な表情で車へ戻っていく。
役員全員が四輪駆動車に乗ると、車はエルガスへ向かって一直線に走っていった。
「……さて討伐隊支部長・シルヴィア様」
役員全員が去っていった後、エースさんはシルヴィアさんの方を向き頭を下げた。
「この度は大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
その姿は紳士的で誠実さと潔さが醸し出されていた。
まるで先代社長を見ているようだった。
「言い訳になってしまうのですが、弊社サムエルの行動は私どもは知りませんでした。
サムエルには毎日報告させていたのですが、巧妙に隠されていたようです。
事実関係を精査しないとわかりませんが、おそらく子会社にも口止めがなされていたようで、そもそもオートマタを製造したこと自体も知らされておりませんでした」
だいたいそんな気がしていた。
近くにいた僕ら社員ですら騙されたんだ。
遠くにいるエースさん達には何ら知らされていなかったのだろう。
それだけサムエルさんは社長業を辞めたくなかったのか。
そりゃ先代社長の息子だし親の会社を継ぎたい気持ちも、まぁわからなくもないけど。
「ですが全て言い訳に過ぎません。
これはひとえにサムエルを過信し監督義務を怠った私の責任です。
討伐隊、それにエルガスの企業や住民が受けた被害については今後詳細に調査し、謝罪と賠償及び補填をさせていただきます」
サムエルさんとは比較してのエースさんのこの行動の潔さや垣間見える優秀さを見ちゃうと……。
先代社長が自身の息子ではなくエースさんを社長にしようと思うのはわかる。
「必要とあらばオフィスも解体しましょう」
「! エース!?」
エースさんの言葉にサムエルさんは驚き抗議する。
「それはダメだ、エース! あれは僕のものだ!
フェデックが大きくなった象徴なんだ!
勝手に解体など……! 誰が許すもの――」
「ぼっちゃん!」
「……ッ!」
口調を強くし、視線を鋭くサムエルさんを睨むエースさん。
その雰囲気にサムエルさんは怖気付く。
サムエルさんが黙ったとわかると、エースさんは頭を下げ続けながら
「いかがでしょうか?」
とシルヴィアさんにそう問う。
そんな様子を見ていたシルヴィアさん。
腰に手を当てふぅと大きくため息を吐くと、
「オフィスの解体は必要になったら、でいい。
賠償と補填についてもそれでいい。エースになら任せられる。
今後、話し合うとしよう。だから頭を上げろ」
とエースさんの頭を上げさせる。
エースさんの顔はかなり険しい。
思った以上の損害。フェデック自体もこの数ヶ月で大きく傾いたのだから当然だ。
「貴様も大変だな」
「…………とにかく今は状況を整理させてください。
近いうちにまた話し合いの機会ができたら」
「そうだな」
シルヴィアさんとエースさんの間でなんとか今回の一件については着地できそうだ。
「だが――」
「ですが――」
と思ったら2人が険しい顔で同時に口を開いた。
「サムエルの処罰はすぐにでも決めてもらおう」
「ぼっちゃんの処罰はすぐにでも取らせていただきます」
2人の意志も同じだった。
僕も同じ気持ち。
今回の一件でどれだけの人が不幸になったのか。
それを会社だけに責任取らせてうやむやにさせてたまるものか。
逃してたまるものか。
彼らの言葉を聞いた時、
「はぁぁぁあああ!?」
サムエルさんの顔は真っ青になった。
「い、いや。今ので終わったんだろう?
なぜ僕が……!?」
「ぼっちゃん……こればっかりは仕方がありません。
我々だけでは到底精算しきれない大問題です」
エースさんが同情とも怒りとも取れる複雑な表情でサムエルさんを見た。
「いや、しかし……!」
「……まだ反省が足りないようだな」
「ヒィ……!」
カチャと刀の柄を掴むシルヴィアさんに怯えるように顔を隠す。
「ほ、ほら! 見てみろ! さっきもこうやって刀で殴られたんだ!
シルヴィアの殺気! 感じるだろう!?」
そして慌てたようにエースさんに助けを求めるが、
「さっきのは機械獣の仕業なんですよね?」
「あぁ。機械獣だ」
「……ぁぁ……」
慈悲はなかった。
身体を震わせ開いた口が塞がらないサムエルさん。
だが、2人はそれに同情すらしない。
「ご提案ですが」
エースさんはゆっくりと口を開く。
「サムエルを運び屋として北の辺境エフガルに出向させるのはいかがでしょう?」
「!? エフガルだと……? あんな豪雪地帯……人間が住むところじゃないだろう!」
「ぼっちゃん、また失礼ですよ」
「しかも運び屋としてだって? なぜ僕が?
運び屋なんかをやらなければならないんだ!?」
「…………」
その言葉を聞いた瞬間、全員の感情は一致した。
「な、なぜみんな黙る?」
「……これは思った以上だ」
エースさんが皆の気持ちを代弁するようにため息を大きく吐くと、
「どうやらこれがぼっちゃんみたいです。
先代社長に合わす顔がありません。いや、おじきは既に気づいていたのかもしれない。
自分が働く業種なのにその現場にいる人達を見下している。
呆れを通り越していますよ……ぼっちゃん」
「は、はぁ?」
「ぼっちゃんはもっと現場を知った方がいい。
エフガルへの出向は決定事項だ」
呆れている顔で優しい口調をしているが、出てくる言葉は本気で怒っている。
「ちょうどエフガルの協力会社が人手不足でね。
そこに向かってもらいますよ。
なに。あそこは過酷な環境故に給料がいいんです。
最低限の生活費を残して他を賠償に当ててくれれば5年ほどで戻れますよ」
「……ふ……」
「ぼっちゃんに拒否権はありません。
シルヴィア様、これでいかがでしょうか?」
「あぁ。問題ないな」
シルヴィアさんはニヤリと笑みを込めた。
「なんならサムエルの出向時、討伐隊が同行してやろう」
「ふざ……」
「そう簡単に逃げられると思うなよ?」
「お手数をおかけします。シルヴィアさん」
サムエルさんを間に挟んで討伐隊支部長とフェデック社長が冷たい笑みを浮かべた。
「ふざけるなぁーー!!」
サムエルさんの叫びがケーテン砂漠に響き渡った。
だがその叫びは2人の強大な権力者の前では無意味だった。




