第72話 社長代理
「社長代理だって……?」
僕は目を丸くしそう呟く。
驚きのあまり思わず声に出てしまった。
その声は思ったよりもよく響いたようで役員の皆様が一斉にばっと僕の方を向いた。
でしゃばるべきじゃなかった。
すみません、と一言謝ると軽く後ろに下がった。
けどふと視線を感じて、前を見た。
みんな視線を戻している中、役員の中にいる白衣を着た女の人がまだ僕をじっと見ていたからだ。
知り合い? いや、見たことがない。
ニヤニヤと微笑む彼女は僕と目が合ったとわかると、軽く僕に手を振ってきた。
首を傾げつつ僕も軽く会釈すると、すぐに彼女はシルヴィアさんに視線を戻した。
いったいなんだったのだろうか。
いや、今はサムエルさんの話の方が先決だ。
「社長代理とはどういうことだ?」
シルヴィアさんがそう聞くと、エースさんはすぐさま頭を下げた。
「周知不備、大変申し訳ありません。
サムエルぼっちゃんは彼の父である先代社長の意向でフェデックを継がせないことになったんです」
「……!?」
突然の情報に僕はおろか、シルヴィアさんもピーターさんも目を丸くする。
そんなことを言われても、サムエルさんはフェデック社長としてずっとエルガスで活動していた。
いきなり継がせないとは言われても、社長業をやっているのだから矛盾じゃないか。
そういう疑問はエースさんもわかっているようで、
「順を追ってご説明します」
と話を切り出した。
★★★
先代社長が数ヶ月前にお亡くなりになったのはご存知ですよね?
その時は私ら役員は当たり前のようにぼっちゃんが次期社長になるものだと思っていたんです。
というのも5年前くらいかな?
おじきが酒の席で
「俺が死んだら優秀な俺の息子に継がせる!」
って言ってたんで、ついてっきりそう思い込んでいました。
それなんですぐにフェデック社長業の引き継ぎをサムエルぼっちゃんに頼みました。
でもおじきが亡くなって1ヶ月後、遺書が発見されたんです。
場所はおじきの故郷のエーアイランド。
おじきを故郷の土で眠らせるため、役員全員で向かった時のことでした。
遺書の日付は一年前。
その中にはフェデックの次期社長はこの私エース・ブライアンだと。
正直、驚きました。
でもこれがおじきの意志だというなら、仕方がありません。
すぐに引き継ぎで忙しくエルガスに残ったぼっちゃんに連絡しました。
当然ぼっちゃんは激昂しました。
今更なんだ、と。その遺書が嘘なんじゃないのか、と。
それはそうですよね。
私どもがトップになれとお願いした矢先に交代しろ、だなんて。
虫が良すぎます。
でも冷静に話し合ったらすぐにわかっていただけました。
私に次期社長を譲ってくれる、と言っていただいたんです。
それでも私どもがエーアイランドからエルガスに戻るのは時間がかかる。
エルガス付近で災害級の機械獣の出現情報もあった。
その間フェデックにトップがいないのも考えものなので、ぼっちゃんにそれまでの社長代理と社長交代の周知をお願いしたんです。
★★★
「――まさか社長代理はおろか周知までしていただけなかったのは驚きましたけど」
エースさんはそう苦笑いで説明を終えた。
さっきの話で経緯はだいたいわかった。
つまり先代社長が指名した本物の社長はエースさんだったのだ。
息子……確かに勘違いするのもわかる気がする。
でもフェデックの先代社長は――僕の知る限り――社員を家族のように考えていた人だ。
優秀な息子というのはサムエルさんだけでなくフェデックの社員全員の中で優秀なやつを社長にという意味だったのかもしれない。
まぁ今となっては先代社長にしかわからないことだ。
それに――。
エースさんの話には違和感があった。
どことなく抜けているような。
僕らとの間に乖離があるような噛み合わない感じだ。
「なるほどな」
その思いはシルヴィアさんも感じ取ってはいるらしい。
「ならば今回の一件。全ての後始末及び損害についてはエース、貴様に任せてもいいのだな?」
だけど敢えて混乱させるようにシルヴィアさんは確信的なことは言わない。
エースさんはその雰囲気に冷や汗を垂らしつつ困ったように首を傾げる。
「えっと……すみません。シルヴィアさん。いったい何の話なんでしょうか?」
「災害級の機械獣討伐の際、貴様らの会社のオートマタが邪魔をし討伐隊及び民間人に多大な被害を齎した件だよ」
「!! なんだって!? オートマタ!?」
あぁ。やっぱりか。
エースさんやフェデックの他の役員はサムエルさんの行動を何も知らされていなかったらしい。




