第69話 支部長の怒り
うずくまるサムエルさんの前にシルヴィアさんは立った。
頭を抱えて動いていないサムエルさん。
そんな姿をシルヴィアさんは冷たい眼で見下ろしていた。
「生きているな? サムエル」
言葉は疑問形ではあるが、これは確認でも何でもない。
ただの事実を淡々と述べるようにシルヴィアさんの口調も冷たい。
しばらく黙っていたサムエルさんだが、
「…………暴行罪だ……」
こうしていても埒が明かないと思ったのか、起き上がりそう叫んだ。
「これは暴行罪だ! シルヴィアさん! なぜレオを捕まえない!? 現行犯だぞ!」
シルヴィアさんを見上げるサムエルさん。
興奮したように切れた口を大きく開け、血を飛ばしながら怒号を上げている。
けれどその訴えは、僕はおろかシルヴィアさんにも届いていなかった。
「顔を見てみろ! 血だらけだ! 服も汚れまみれ! この服がいくらすると思っている!?
早く捕まえて、弁償させろ! 慰謝料もふんだんに払わせないとこれは済まされないぞ!!」
「無理だな」
興奮するサムエルさんに一蹴するシルヴィアさん。
だがその言葉はサムエルさんにとっては油のようで、
「はぁ!?」
更に顔を真っ赤にさせて叫ぶ。だが、シルヴィアさんは意に介していない。
「あいにく我々は警団ではないからな。罪を犯した者を捕まえる義務はないよ」
「!! あんたらは我が社に恩があるはずだ!」
「知らないな。仇はあるがな」
「忘れたのか!? 我が社のオートマタをここに派遣しただろう!
あぁ。そうだ。災害級の機械獣を倒せたのはそのおかげだろう? だから――」
「おかげ?」
「ッ――!」
シルヴィアさんの眼が鋭く光り、サムエルさんの言葉が詰まる。
「サムエル。貴様。おかげと言ったか?」
「あ……あぁ! そうだ。我が社のオートマタの力で機械獣を倒せたんじゃないか。
見てみろ! これが証拠だ」
サムエルは手を目一杯広げ、ケーテン砂漠を指し示した。
「災害級がきれいさっぱり消えている。きっと我が社のオートマタが粉々にしたんだ。
オートマタに内蔵されているビデオを見ればはっきりする! 見事な迎撃能力だっただろ?」
「はぁ……」
口角を大きく上げて笑うサムエルさんに、シルヴィアさんは全ての空気を吐き出すように大きなため息を吐いた。
その異様なまでの呆れ顔にさすがのサムエルさんも怯んだ。
「な……ど、どうした?」
「愚か愚か、とは思ってはいたが、まさかここまでとは、な」
「はぁ?」
「粉々になったのはむしろ貴様のオートマタの方だよ」
「!?」
「災害級の砲撃で一発で壊れた。それにそのせいで討伐隊にも多大な損害が出た。
死者も出て、災害級の機械獣討伐に民間人の助けも必要になったんだ」
そう言ってシルヴィアさんは横目で僕を見た。
災害級の機械獣の砲撃により野営地が悲惨な目にあった。
たらればだけど、もし野営地の機能が崩壊しなければ、確かに僕が出る必要がなかったし……ライトも死ぬ必要はなかった。
「レオのことを暴行罪というなら、貴様も公務執行妨害といえるんじゃないか?」
「う、嘘だ。そんな……僕の優秀なオートマタが? そんなことあるはずがない!」
「本当のことだ。優秀どころか役立たずだったよ。いや、役に立たないも言い過ぎだな。
何もできないわけじゃなくて、状況を悪化させることはできたんだからな。
嘘だと思うなら自慢のビデオで確かめてみるといい。
バカな貴様でもわかるほどの損害を招いたんだからな」
「…………まさか……そんな……」
「そんな貴様に恩なんて当然あるわけがない。むしろ大切な仲間を殺した罪で私刑にしたい気分だよ」
「ヒィ……ッ!」
カチッとシルヴィアさんは刀の柄を掴む。
その瞬間、素人でもわかるほどの殺気がこの場を支配する。
向けられた張本人はたまったもんじゃないだろう。
一瞬にして冷や汗をかき、後ろに下がっている。
「ま、待て! こんなところで僕を殺すつもりか……!?」
「ふん。貴様の命などこれっぽっちも欲しくはない。
だが……これくらいは仕方がないよな?」
「も、目撃者がいるんだぞ! そんな場で僕を痛めつけるのか?」
そう言って僕やピーターさんを見るサムエルさん。
でも忘れたのかな。
「いいや。見てないっす」
ここにはサムエルさんの味方は誰もいないことに。
ピーターさんはそう言ってそっぽを向く。
「これから誰がどうなるっていうんですかね?」
ピーターさんも討伐隊。
サムエルさんのオートマタによってそれなりに被害を受けたし、仲間もやられたんだ。
味方になるはずがない。
「僕もわかりません」
そして僕も。
「!? 待て待て待て! あのオートマタにもカメラが仕込んであるんだ!
ビデオを確かめればわかるぞ!」
「ピーター」
「了解っす」
サムエルさんの言葉を受けて、シルヴィアさんは一言そう命令すると、ピーターさんはオートマタ目掛けて狙撃。
オートマタは一発で核を突かれたのか、すぐに爆破した。
その行動の速さにサムエルさんは唖然とした表情を見せる。
「これで誰も何もわかりません」
「シナリオはこうだな。
討伐隊の様子を見るためにケーテン砂漠に赴いた貴様は機械獣の残党に襲われ、乗ってきたオートマタが壊され自身もひどく怪我をした。
どうだ?」
「…………い、や……」
「よろしい。報告書にはそう記載しておくよ」
そしてシルヴィアさんは鞘を嵌めたまま刀を取り出すと、
「歯を食いしばれ!」
サムエルさんの顎めがけて、最大瞬間脅威レベル:災害級の力を思う存分発揮した。
サムエルさんは宙を浮き歯は欠け、頭から砂漠の中心に落ちていった。




