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弱虫運び屋の右腕は殺人オートマタ  作者: 久芳 流
最終章 英雄の右腕

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第68話 運び屋辞職

「そうですか……だと?」


 意外そうな顔をして僕を見るサムエルさん。

 きっと僕がもう少し悔しそうな顔をすると思っていたのだろう。


「君は僕のこれからを指をくわえて見続けることになるというのに『そうですか』だけだと?」


「何をおっしゃりたいのかわかりませんが……はい」


「! 運び屋業を畳むことになってもいいのか!?」


「仕方ありませんね」


 ぼそっとつぶやく僕にサムエルさんは驚いた顔で喚き散らす。


「君が編み出したやり方を利用して、我が社の資産を余すことなく投資し、大きく拡大していく!

 エルガス内ではないが、もう専属契約もしている!

 宣伝にも予算を注ぎ込んだ!

 これから君の顧客もどんどんとうちに乗り換えるだろう!

 我が社の事業が大きくなった後で、泣きついてきたとしても、僕は知らないぞ!」


「…………」


「なのにどうしてそんなにすましていられるんだ!?」


「どうしてって……僕、運び屋を辞めるつもりですから」


 その言葉にサムエルさんだけではなく、シルヴィアさんやピーターさんも驚きの息を漏らす。

 でも当然だろう。

 ライトがいなくなってしまったどころか、僕にはもう右腕がない。

 荷物の運搬はできるかもしれないが、キャリ姉やお客さんに手伝ってもらわないと荷物を積んだり下ろしたりすることはできない。

 もう宙を跳ぶこともできなくなってしまったし、運搬スピードもいつもよりも遅くなる。


 こんな僕じゃ運び屋業を続けていても、サムエルさんが邪魔しなかったとしても、いずれは辞めることになるだろう。

 だったら今辞めても変わらない。

 辞めて、次の仕事を探すことにするよ。


 その考えをすぐに理解したのかすぐにシルヴィアさんはため息を吐いた。

 ピーターさんは僕に問い詰めようとするが、シルヴィアさんに止められたようで責任を感じているかのように唇を嚙んでいた。


 安心してください。討伐隊のせいなんかじゃないです。

 どの道、ライトがいなきゃ続けられなかったんです。

 僕自身には運び屋の才なんて持っていないんだから。


「……そういうわけですからサムエルさん。これからを応援しています。

 エルガスの荷物、よろしくお願いします」


 もうエルガスには運び屋会社は大手のフェデック社しかない。

 運搬を頼めるのはサムエルさんしかいないんだ。

 少し心配だけど、サムエルさんならすぐに問題点に気が付くはずだ。気が付いてほしい。

 時間がかかるかもしれないけど、丁寧に運ぶ運び屋会社に戻ってくれることを願う。


「じゃあ。僕はこれで」


 そう言って、僕はサムエルさんの横を通る。

 ここにはもう用がない。ライトを回収できればもう充分だ。


「はは……そうか。そうだったのか!」


 サムエルさんは僕が辞めると知って嘲り笑うようにそう叫ぶ。


 だけれど僕には関係がない。

 これから討伐隊による災害級の機械獣のあとしまつがあるみたいだし。


「レオは辞めるのか! 残念だなぁ! 君には僕を脅かすほどの能力があったのに!」


 報告書とか撤退準備とか、あればメタルイーターの回収とか。

 僕もそれのお手伝いをしようと思う。たぶん報告書の作成のための質問に回答するだけだけど。


「あぁ! でもそれは君の右腕のおかげだったか。

 おや? おやおやおやおや? 見ていればレオ! 君には右腕がないじゃないか!

 なぁんだ。そういうことか! あの右腕は壊れたのか! これじゃレオには運び屋は無理か!」


 とにかくまだいろいろと忙しいんだ。

 サムエルさんにこれ以上、付き合っていられるほど余裕はないし、僕にはもう話すことは何もない。


 そう考えて僕はケーテン砂漠の中央から離れようとしたが、


「まぁでも仕方がないよな。あのオートマタはフェデック製の劣化版なんだからさ!」


「――ッ!」


 そこから記憶がなかった。



 ――。

 ――――。

 ――――――――。



「何をする!?」


 気が付けば僕はサムエルさんを見下ろし、サムエルさんは尻餅をついて右頬を押さえていた。

 僕の左拳もジンジンと痛んでいた。

 衝動に任せて僕はサムエルさんを殴っていたらしい。


「あのオートマタは我が社の子会社が研究し尽くした! 我が社が作ったオートマタはそれを進化させた上位互換!

 無駄な保護機構も備わっている! 事実を言って何が悪い!

 ――ッ! イタイッ!」


 うるさい。

 ライトは世界一優秀な僕の右腕なんだ。

 サムエルさんであろうと、侮辱するのは許せない。

 それにサムエルさんが言ったことは事実でも何でもない。

 ライトは……ライトはな……!


「その辺にしておけ」


 左腕をガッと掴まれて我に返る。


「……シルヴィアさん……」


 振り返るとシルヴィアさんがいた。眉間に皺を寄せて険しい表情をしていた。


「君が手を汚す必要はない。それにこれ以上やったら、君を警団に引き渡さなくてはならなくなる」


「え……?」


「……ゼェ……ゼェ……」


 息が激しく漏れる音を聞いて見ると、サムエルさんが蹲っていた。

 鼻血を出しかなり腫れている顔。

 恐る恐る僕の左手を見ると真っ赤になっていた。


 シルヴィアさんが止めてくれなければ、僕はサムエルさんを……。

 これじゃあライトに怒られてしまうかもな。私には止めたくせにって。


「ほら。泣くな。落ち着け」


 気が付かないうちに涙が溢れていたらしい。

 シルヴィアさんが自分の裾で僕の顔を乱暴に拭ってくれた。


「安心しろ。君のパートナーは最高のオートマタだ。討伐隊が認める」


 僕は息を落ち着かせ、シルヴィアさんに頭を下げる。


「取り乱しました。すみません」


「いい。誰でもそうなる。君はもう冷静にサムエルと話せないだろうしな。少し下がっていろ」


 そういうとシルヴィアさんは微笑み僕の前に立った。


「私が君の代理になろう。ちょうどサムエルに用もあるしな」

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