第62話 甲羅ゲレンデ
右肩からライトが外れる。
瞬間。外套のように纏っていたライトの鎧は解かれ、背中にあったメタルイーターに巻きついた。
大きな黒い繭のようになると、ライトはそのまま煙突へと落ちていく。
「……ゲホ……ゴホ……!」
煙突から出る蒸気はかなり熱い。
吸い込むと喉が焼け、思わず咽せて後ろに下がってしまう。
だけど、煙突は細い。
ライトの補助がない僕は、ガクン、と足を踏み外してしまい、
「――あ……!」
そのまま甲羅の上に背中から落下しそうになる。
ところで。
「!?」
右肩から何か出た。
細い鞭みたいなものがクッションのように僕を衝撃から守ってくれた。
『マスターの右肩部分にも一部私を残しますので』
確かライトはそう言っていた。
「そうか。ありがとう。ライト」
『…………』
右肩に軽く触れてそう言うが、返事はない。
きっとここにはライトの意識はないのだろう。
でもこれだけでも力強い。
今、ライトは機械獣の中で頑張っているはずだ。
僕も早いところここを降りるとしよう。
僕が生き残ること。
ライトの望みだ。
こんなところで無駄にしちゃいけない。
「頼むよ、ライト」
そう言って僕は立ち上がり甲羅を降りていく。
甲羅の表面はザラザラとしていて摩擦が強い。
立ち上がっても滑ることがないから、僕はそのまま下に向かって走る。
ライトの重量がなくなったから身体がかなり軽い。
そのせいでバランスが崩れて転びそうになるが、甲羅側に向けていた右肩からライトの残滓が助けてくれる。
この右肩に意識はない。言ってしまえば、ただの反射。
事前にライトがそうプログラムしただけだ。
まったく。ライトはどこまでも僕を助けてくれるらしい。
そのことを思うと目頭が熱くなる。
いや、泣いちゃダメだ。
もう覚悟を決めたんだ。
ここで僕まで命を落としたらせっかくのライトの努力も無駄になってしまう。
そう思い、僕はまっすぐと降りていく。
中腹まで降り立った頃。
『ブォォオオオオ!!』
災害級の機械獣が吠え、身体が振動した。
ライトだ。
そう直感した。
メタルイーターが無事起動し、内部から捕食を開始したんだ。
内部からの破壊で災害級は苦しんでいる。
そういえば甲羅表面に流れるだろう電流も今ところない。
ライトやメタルイーターがそのシステムも早々に破壊したのだろう。
バリバリという音が次第に大きくなっている。
「――ッ!? うわっ!!」
突然足元が崩れた。
もうここまで!?
メタルイーターの捕食スピードが思ったよりも早い。
災害級の機械獣のもう表面までメタルイーターが侵食している。
走る先の甲羅がボロボロと崩れている。
もっと早く降りなくては。
だが、ほとんど行き場がない。
崩れそうになる床を慎重に観察して踏んでいっても、次々に崩れていく。
やがて。
「――あ……」
災害級の機械獣は崩壊を始めた。
メタルイーターによる災害級の機械獣討伐作戦はようやく成功したのだった。
それに多大なる貢献をしたのは間違いなく僕の右腕だ。




