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弱虫運び屋の右腕は殺人オートマタ  作者: 久芳 流
第6章 最後の命令

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第61話 最後の命令

「お、お別れってどういうことだよ?」


 僕の声はおそらく震えていた。

 だってここまで来たじゃないか。

 あとはこの煙突にメタルイーターを入れるだけ。

 そうすれば終わりじゃないか。


 かなり熱いんだ。こんなところでグダグダなんてできない。

 すぐに実行させなきゃ。


『マスターも理解シテいると推定シます』


「…………全然わからないよ」


 本当に熱いんだ。さっさと背中を開けてメタルイーターを取り出してくれ。

 それを落とすだけでいいんだからさ。


『……メタルイーターは現状、私ニよって覆い隠され周囲の温度から隔離サレテいます。

 メタルイーターは精密機器です。

 干渉溶液に入ってイルとはいえ、コノ気温では原型を保つことすら困難デシょう。

 つまり――』


「全然わからないって言ってるだろ!」


 僕は叫んだ。ライトの説明が止まる。


「……わかるわけないだろ……」


 僕は悲痛な顔をしていただろう。

 眉間に皺が入り頬がピクピクと痙攣する。

 嗚咽が漏れないように必死に我慢する。


 下で打ち合わせした時、やめろって言ったじゃないか。


『死ヌ可能性については言及シテいます』


「! それは……!」


 僕も一緒に、って意味じゃなかったのかよ。

 ライトだけ死ぬつもりなんて、そんなの許可した覚えはないぞ。


『私とマスターヲ切り離し、メタルイーターごと私は煙突の中へ突入しマス』


 だけどライトは僕の文句を無視して次の段取りについて淡々と説明している。


『マスターの右肩部分にも一部私を残しますので、メタルイーターが災害級ノ機械獣を破壊し始メタラ、下へ降ってクダサイ。サポートくらいは出来るはずデス』


「ライトはどう脱出するつもり?」


『不可能デショウ。私も金属製デス』


 無理は承知で聞いたけどダメか。

 おそらくメタルイーターが最初に喰うのはライトだろう。

 そしてそれによってライトは壊れる(死ぬ)つもりだ。


 家族だ、なんてあんな恥ずかしいことを言わせて。

 結局それって。そんなのって。そりゃないよ。

 他に方法を。ライトが生き残る策はないのか。


『……マスター:レオ・ポーター様』


 そう思って考えていると、諭すように静かにライトがそう言った。

 さっきまでの変な口調とは違い、とてつもなく流暢だ。


『私はライト。『キラー』シリーズ・識別番号K-009ライトニング。

 マスターの家族であり、マスターの右腕ではありますが、あくまで()殺人オートマタです』


「!!」


機械(オートマタ)は利用されるのが最も幸を感じます。

 マスターを救うこの場面は私にとって最高の充実感があります』


「……ど、して……?」


『わかりません』


「! じ、じゃあ!」


『ですが推測は可能です』


「!?」


 そういうとライトは右手から小さく上半身を形成した。

 いつの日か見た黒髪ボブで切長の目つきの美人顔。

 だが、


『おそらくマスターの『家族』という言葉が嬉しかったから』


 その表情には微笑みがあった。


『オートマタは感情がありません。この言葉は正確ではありません。

 ですがマスターにあの言葉を受け取ったことで私の演算は全てマスターに通ずるようになってしまいました。

 そこに論理的根拠は存在しません。しかし未知の充実感があるのです』


「――――」


『元々のバグかもしれません。

 長くマスターと結合したことによる変化かもしれません。

 粘液型の機械獣の溶液による欠損かもしれません。

 もしくは熱暴走によるエラーなのかもしれません』


「――――」


『ですが、マスター。レオ・ポーター様。

 私はこれほどまでの充実感を感じたことがありません。

 レオ様を、そしてレオ様が救いたい者を救いたい。

 完遂することで私は最高の幸を得られます。

 ですからレオ様。あぁ。……そんなに泣かないでください』


「うるさい……!」


 ゴーグルに涙が溢れる。この熱によりすぐに蒸気になる。

 ライトの手が僕の頭に触れる。

 熱くもなく冷たくもない感触だ。

 息をひとつ吐き気持ちを落ち着かせる。


「他に……もうないの?」


『ありません』


「……そうか」


 その時。


『ブォォオオオオ!!』


 かなり大きい揺れと電流が甲羅の上を走り始める。

 災害級の機械獣がオーバーヒートから回復したらしい。

 確かに、煙突からの熱も下がっている気がする。


『もう時間がありません。レオ様』


 このままウダウダしていたら、みんな死んでしまう。

 ライトの覚悟も無駄になる。

 なら、僕が言うことはもうひとつしかない。

 ひとつしか……ないんだ。


「……わかったよ」


『感謝します』


「だけど命令だ。絶対に生き残る努力をしろ」


『!!』


「メタルイーターに喰われそうになっても、災害級の機械獣に殺されそうになっても。

 絶対に生き残れ。

 ハードがあって、機械の魂(データ)さえ残れば何年掛かっても僕がサルベージしてやる!

 だから!」


『承知しました。そのように演算します』


「今までありがとう」


『今までを感謝します』


「いつか必ず生き返らせるから」


『はい。いつかまた』


 僕は右肩を押さえて、涙が溢れるのを我慢して最後の命令を天に向かって叫んだ。


「ライト! 連結を解除しろ!」


『了解』


 その瞬間。僕の身体は軽くなった。

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