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弱虫運び屋の右腕は殺人オートマタ  作者: 久芳 流
第1章 右腕は殺人オートマタ
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第6話 殺人オートマタ 前編

 家の扉を思い切り開ける。

 壊れそうなほどの激しい音が鳴ったが、気にせず中へ入った。

 真っ直ぐ作業机に向かうと、引き出しからサバイバルナイフを取り出して、ダンッと音を立て右手を机に叩きつけた。


「ハァ……ハァ……」


 走って帰ったからか、動揺しているからか。

 息が整わず、動悸が激しい。

 左手で握りしめたサバイバルナイフも少し震えていた。


 ようやく息が整って唾を飲み込むと、僕は右手目掛けて力任せにナイフを刺した。


 ガキン!


 だが金属がぶつかり合う音が聞こえ、右手には刺さらなかった。

 それどころかサバイバルナイフは折れ、折れた刃先が僕の方へ飛んだ。

 危うく頬に刺し傷ができるところだった。


『お止めください』


「――――!!」


 そう言う声が聞こえて僕は息を呑んだ。

 声の主は、考えなくてもわかる。右腕だ。

 そして右腕の感覚がまた無くなったかと思うと、右手が粘土のように歪み始めた。

 それと同時に右腕は勝手に持ち上がり掌を上にすると、中心から突起が出てきた。


 グニュグニュとそれは形を変え、やがて上半身のみの人型へ。


「……んな!」


 その姿を見て、僕は赤面し思わず顔を背けた。

 なぜなら女の人の裸姿になっていたからだ。


 黒髪ボブで切長のはっきりした目に理知的で無表情な美人顔。

 長い腕に指先まですらっとして、女性であると強調するかのごとく大きい乳房は何故かリアルに整形されていた。


『こうして話すのは初めてですね、マスター』


 そう言って丁寧にお辞儀をしているが、その姿に耐えかねなくて、


「そそそそそそれよりももも服! ふ……服を着てよ!!」


と目を瞑ってテンパってしまう。

 知りたいこととか聞きたいこととかいっぱいあったはずなのに、僕の頭からはすっぽり抜けてしまった。


『衣服の情報はインストールされていません』


 恥ずかしげもなく淡々とそう述べて、動こうとしない彼女。


「〜〜〜〜〜!」


 僕は痺れを切らして、机に無造作に置いた麻の布を引っ掴み、彼女の頭から雑に被せた。


 全身が見えなくなったが、しばらくするともぞもぞと布が動き、彼女の頭がひょこっと出た。

 そのまま露わになるかと緊張したけど、布は肩に引っ掛かった。


 よかった。とりあえずおっぱ……胸部は隠れた。


 でも問題はまだまだある。

 チラッと彼女を見た。

 相変わらず人工的で機械的な無表情。

 なんとなく見覚えがある気がするけど、よく思い出せない。


「き、君はいったい?」


『私は殺人オートマタ『キラー』シリーズ・識別番号K-009ライトニング。通称ライト』


「ラ……ライト?」


 そんな奴がどうして僕の右腕に?

 い、いや、それよりも大変なことを聞いた気がする。


「殺人オートマタだって!?」


『マスターにより起動され、マスターと私を生存させるべくマスターの右腕となりました』


「――!?」


 驚いて叫んだのにライトは意に介さず説明する。


『キラーシリーズは機械獣と同じく生物を摂取することでエネルギーとします。特に血液は最も効率の良い素材であり、認証としても使用されます。

 18720秒前、マスターの右腕切断による出血で大量の血液を浴びたことでエネルギーの確保と同時にレオ・ポーター様をマスターとして認証しました。

 起動時、私の素体の73%が破損していたこととマスターの命が危険であったことから生存戦略機構で検討した結果、形状記憶ナノマテリアルと修復プログラムを利用し――――」


「ま、待って! 待って!」


 いきなり情報量が多すぎる!

 早口だし専門用語も多いし、そんないっぱい説明されても頭がこんがらがる。

 それにまだ全然、いろいろ消化しきれてない。

 いったん頭を整理させてほしい。


「つまり、えっと、君は……あ……」


 話を止めたおかげでいったん落ち着いたからか、ようやく気がついた。


「もしかして、()()オートマタ?」


 クビになった時、サムエルさんに廃棄をお願いされたオートマタを思い出した。

 よく見るとその彼女の容姿にとても似ていた。


『あの、とは?』とライトが聞き返してきたので、その説明をすると彼女は素直に頷いた。


『確かにフェデック様にサンプルとして送られたと記録されています』


「そんなオートマタがどうして僕の右腕に?」


『18720秒前――』


「もっとわかりやすく……お願いします」


『…………およそ5時間ほど前のことになります』


 ライトは無表情を保ちながら淡々とそう言うと、廃棄場に落ちた後のことを語ってくれた。

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