第48話 生存確率
「! ライトォ!?」
粘液型の機械獣の上部にライトの刃が届く瞬間、あいつは上部を下げ粘液の中に沈めた。
結果、右腕は粘液の中に入り酸による気泡が右腕から発生。
溶かされたのだ。
その瞬間、すぐにライトは右腕を引っ込める。
だが、右腕は元の形状に戻らない。
正確には右腕のようにはなった。
なのに、酸を受けた先端――つまり右手と前腕辺りの色合いがところどころ黒く、歪な形状になってしまっていた。
切り裂けると思っていた粘液型の機械獣はそのまま生き残り、更に悪いことに下部のバケツ部分まで粘液で覆った。
蓋とバケツはそのまま中央に移動し、蓋を閉じる。
下部も酸の液になったことで機能停止した熊型の機械獣を飲み込み中で気泡を出しながら溶かしていた。
「ライト、無事……?」
『ガガ……ピーッ……ギ……ガ……。
現存するナノマテリアル2%破損。
自己診断プログラム起動。動作・機能問題ありません』
システムアラートのように言葉を紡ぐ。
機能には問題ないようだ。
だが、歪になった右腕は元には戻らないようだ。
「ほ、本当に大丈夫?」
『問題ありません。ですがこれ以上、粘液型の機械獣を相手にするのは危険です』
「じ、じゃあ……どうしよう……」
『撤退を推奨します』
「…………」
そうなるよな。
あの粘液は切り裂けない。ライトはあくまで殺人オートマタ。
人を殺すことは余裕だけど、形状が不安定な粘液型なんて相手にできない。
ましてや遠隔武器はさっき破棄してしまった。
だけれど、僕らが逃げたらどうなる。
あの粘液型の機械獣は野営地に向かうんじゃないのか?
野営地はまだ全然機能していない。
要救助者もいっぱいいるだろうし、生き残った討伐隊も救助に必死だ。
それなのにこの機械獣を相手にしている暇なんてない。
もう粘液型の機械獣の食事も終わる。
やるなら今しかない。
「ライト……あの機械獣……弱点はあのバケツだよね?」
『……そうだと判断します』
僕はしゃがんで、落ちている石を拾う。
気休めだけど、僕にはこれしか思いつかない。
「この石。あいつに向かって投げてくれ」
『計算中。弱点まで届く確率は0.23%です。それでも、ですか?』
「…………うん。万が一当たればラッキーだ。とにかくあいつを野営地には向かわせたくない。攻撃して僕らの方に引き付けるんだ」
『承知しました。実行します』
右腕が変形する。肩から上腕が太くなり、前腕がビキビキと硬くなる。
右手は歪なままだがそれでも石を掴み効率的に発射するのに適した形状になった。
左手で持っていた石をライトは掴む。
そして、一気に粘液型の機械獣に向かって射出する。
――ジュッ……!
しかし届くことはない。
粘液に触れた途端、石はすぐさま溶ける。
スピードは申し分ないはずなのに、少し凹んだだけですぐに元に戻ってしまった。
これで僕らを敵として認識してくれれば良いが。
――だが。
「ッ!! クソッ! どうして!?」
食事が終わった機械獣はゆっくりと動き出す。
だが、その方向は僕らではなかった。
野営地だ。
粘液型の機械獣はまっすぐ野営地の方に身体を動かしていた。
「行っちゃダメだ!」
『危険です。マスターの動きを――』
ライトは右腕を伸ばし地面に刺すと、僕の動きを止めようとする。
だけれど、僕は力を振り絞って前へ!
力の限り足を動かす。
地面が抉れるのがわかる。右肩がミシミシと言っている。
『危険。危険。生存戦略機構に基づき――』
「却下する! 力を緩めて元に戻れ!」
『緊急時につき、その命令は却下します』
やっぱりダメか。
ならば。と僕は右肩の付け根をガシッと握った。
『マスター。何をしていますか?』
ライトが僕の行動の真意を聞く。
「ライトを外す!」
力を込めてライトを引っ張る。
肩がミシミシと悲鳴を上げている。
その度に痛みが走る。
『不可能です。マスターと私は細胞レベルで繋がっています。
無理に外せば、マスターは出血多量で死亡します』
「気にしない!」
今はあのスライムを止めるのが先だ。
「僕と死ぬのが嫌なら外せ!」
『…………承知しました』
「――!?」
急に抵抗力がなくなって躓きそうになる。
ようやく外れたか、と考えたが痛みはない。
見ると右肩の付け根部分にライトのナノマテリアルが残り、地面に僕の右腕が落ちていた。
『生存戦略に基づき計算した結果です。
マスターの行動は理解不能。マスターは自害を選択したと判断しました。
私が生き残るのを優先しマスターとの繋がりを一時解除します』
そうかよ。
相変わらずこの右腕は……。
でもこれで僕は自由になった。
すぐに粘液型の機械獣の前に駆けつける。
バケツは粘液の中央に位置している。
あれが破壊できれば、この機械獣は止まるんだ。
そうするには――。
「止まれぇぇええええ!」
『マスターの生存確率――』
粘液型の機械獣はもう目の前。酸の臭いが強くなる。
僕は左腕を前に突き出した。
『0%』
「レオくん――!!」




