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弱虫運び屋の右腕は殺人オートマタ  作者: 久芳 流
第1章 右腕は殺人オートマタ
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第5話 脅威レベル更新

 武器工房(キャリ姉の家)を飛び出た後、僕はすぐに向かいの路地裏に身を潜めた。

 壁に背をつき息を切らしながらズルズルと座り込む。

 そして恐る恐る右腕の毛布を捲った。


「……あれ?」


 なんともない。右腕は綺麗な人間のソレだった。

 機械的なものが剥き出しになっていないし、口もない。

 ツンツンと震える指で突っついてみるが、柔らかい人肌だった。

 触られている感触もあった。


 さっきのは幻覚だったのか?


 自分の感覚を疑うほどだ。

 機械獣に襲われて以降、全部おかしい。

 右腕を失ったはずなのに、まだあるし。

 廃棄場に落ちたはずなのに、キャリ姉が言うには、空洞ギリギリで倒れていたというし。

 聞こえないはずの声が聞こえるし。


 僕の脳がおかしくなったのか。


(もう何がなんだか……)


 とにかく。

 今日はもう帰ろう。

 いろんなことが起きすぎて、頭が混乱しているんだ。

 帰って一回寝たら、すっきりするはずだ。

 それに仕事がクビになったのは夢じゃない。

 仕事を探さなくては。


 僕はゆっくりと立ち上がって、路地裏を出た。


「あ、レオおにぃちゃん!」


「……? ニコちゃん?」


 女の子の呼び声が聞こえて、僕はその方向を見ると、キャリ姉の妹ニコ・トランスが笑顔で僕に向かって手を振っていた。

 今日、僕がなんとか助けられた女の子だ。

 といっても、僕がやったのは時間稼ぎ。

 機械獣の脅威から完全に守りきったのは討伐隊だ。


 膝に絆創膏が貼ってあるが、それ以外は怪我ひとつなし。

 元気そうな笑顔を見て、僕は心から胸を撫で下ろした。

 よかった。ちゃんと無事だった。と。


 キャリ姉を疑っていたわけではないが、ちゃんと自分の目で確認できたことで、助けられたことを改めて実感したのだ。


 そんなニコちゃんは僕が気付いたとわかると、トコトコと走り出して道を挟んだ僕の方に向かってきた。


(あ……危ないよ……)


と言おうとしたが、口からその言葉は出てこない。


 この道は車通りが少ないけど、ないわけではない。

 中には前を歩く小さい子供を見つけられない程大きなトラックが走っている時もある。


 そんな道を幼女が一人で渡るなんて無謀すぎる。

 その上。


(あぁ……言わんこっちゃない!)


 バランスを崩して、ニコちゃんは道の真ん中でコテンと転んだ。


(やば……)


 しかも不幸なことに、右から重厚なエンジン音が聞こえてきた。

 トラックの運転手はまだ気がついていない。

 陽気に鼻歌まで歌っている。


 僕は苦い顔をしながらニコちゃんの元へ駆け出した。

 ニコちゃんの元に着いて、うつ伏せのまま動かない彼女を起き上がらせる。


「うわ! 危ねぇ!」


 僕がニコちゃんの元にたどり着いたことでようやくわかったのかトラックの運転手はそう叫ぶ。

 クラクションを鳴らしつつ、ブレーキを踏んだ。

 タイヤと地面が擦れる音が街中に響く。


 だが、車は急には止まれない。

 トラックは減速しながらも、まっすぐ僕たちの元へ。

 もはや避け切ることもできない距離まで迫っていた。


(ぶつかる!)


「……ニコちゃん……ッ!」


 僕はニコちゃんの身体を抱きしめ、守るようにトラックに背中を向ける。

 命拾いしたけど、ここまでか。そう頭で過ぎる。


 だが――。


『脅威レベルが更新されました』


 右腕から機械的なアナウンスが聞こえた。

 

『マスターの生存を優先し、脅威を排除します』


 その途端、右腕の感覚がまた無くなった。

 そして。


 ――ズガン!!!!


 衝撃音が響き渡った。

 僕やニコちゃんがトラックにぶつかった音かと思ったが、痛みも衝撃もない。

 恐る恐る後ろを見てみると、


「――え……?」


 そこには、潰されたトラックとそれを真正面から抑える巨大な腕があった。

 というか僕の腕だった。


 色は黒く、機械的。

 手の形をしているが、全体的にゴツゴツしていて、指先は鋭く、トラックのフロントガラスやボディを貫いていた。

 更には前腕からもトラックに向かって鋭い刃物が何本も出ていて、前に進まないように持ち上げていた。

 幸いトラックの運転手の真横を掠っていたので命に別状はない。――泡を吹いて気絶しているけど。


 ご丁寧に僕たちに衝撃が伝わらないように上腕から太い棒状のものが二本地面に刺さり、ストッパーの役目を果たしていた。


「……………………」


 腕が変形し得体の知れない巨大な異物になっていることに僕は開いた口が塞がらなくて、呆然としていた。


「う……う……うぁぁあああああ」


 だが、抱きしめていたニコちゃんが糸が切れたようにボロボロと泣き叫んだから、我に返った。


「あ……あぁ、ごめんよ。ニコちゃん。怖がらせて……」


 ニコちゃんは泣き止まない。


 どどどどどうしよう。

 右腕どうやって戻すんだ。いや、戻したらトラックがまた動いちゃう。

 そもそもあの運転手、大丈夫なんだろうか。

 いや、でもとにかくニコちゃんを安全な場所へ。


 しなきゃいけないことがいっぱいいっぱいで、僕はパニックに陥るが、


『マスターの要望を聞き入れました』


 右腕からそういう声が出てきたと思うと、トラックを持ち上げ横向きにした。

 確かにこれでトラックは安全。

 そして、機械的な右腕は元の綺麗な人肌に戻り、感覚が戻ってきた。


(……戻った……)


 といってももうなにがなんだかわからない。


「あ、じ、じゃあ僕は行くね? 今日は災難だったね。ごめんね。ちょっと僕、用事があって……」


 とりあえずニコちゃんの安全は確保された。

 ちょっと色々ありすぎてよくわからなくなった。

 どこか落ち着ける場所で頭を整理させたい。

 ニコちゃんはまだ泣いてるけど、キャリ姉が来てくれるはずだ。


 とりあえず工房トランスの近くの道脇にニコちゃんを立たせると、僕は逃げるように帰路についた。


(もう……一体全体、なんなんだ!!??)

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