第43話 エネルギー補給の方法
荒野の空は雲ひとつない晴天。
殺戮級の機械獣よりも上にいた僕らには遮るものはなく、日の光が眩しい。
機械獣は首を斬られ完全に沈黙した。
僕はほっと胸を撫で下ろす。
だが。
『……マスター』
突然、右腕が元に戻る。
更に身体中に纏っているライトの鎧も無くなる。
『エネルギーが枯渇状態です。補給ができるまでスリープモードに移行します』
「え……?」
――え?
僕らは今、空中。
ライトがスリープしたことで、僕は空中で野ざらしになり、右腕の主導権も僕になった。
これが意味しているのは、つまり。
「お……落ちるぅぅぅぅ!!」
為す術なく、僕は荒野に真っ逆さまに落ちることになった。
★★★
「――~い……オく……ん?」
誰かが呼ぶ声が遠くから聞こえてくる。
なんだろうか。
全体が暗い。ここはいったい……。
もしかして僕は死――。
「おい! レオくん! しっかりしてくれ!」
「ハッ!」
思いきり身体を揺さぶられて、目を開けた。
目の前には、変わらぬ大きな荒野とピーターさん。
目尻に泣き痕が残っている。
あ、暗かったのは目を閉じていたからか。
「よ、よかったぁ! 真っ逆さまに落ちた時はどうしようかと思ったよ」
僕が目を覚ましたからか、ピーターさんは安堵するようにため息を吐いた。
「あ、あの……僕、どのくらい……?」
「ほんの一瞬さ! それにしてもレオくん、すごいじゃないか!」
ピーターさんは興奮したかのように目を輝かせて僕を見ている。
「あの殺戮級の機械獣を倒しちゃうなんて! しかもあの鎧! めちゃくちゃイカすじゃないか!」
あぁ……。それは僕の右腕のおかげです。
なんて言っても理解されないだろうから、笑ってごまかしておく。
――それで思い出した。
「それよりもピーターさん。何か補給となる物、持っていませんか?」
「え? 飯ってことか? あぁ……すまん。殺戮級から逃げるのに必死で――」
どうやら少しでも早く逃げられるように荷物を全て投げ捨てたらしい。
確かに見ていると背負っていた大きなリュックがない。
じゃあ取りに行けばいいと思ったのだが、荷物は潰され機械獣が掘り起こした地面の底に落ちてしまったらしい。
それじゃあもう探しても無意味だ。
僕の荷物もさっきオートマタにズタズタにされちゃったしな。
でも何か食わないと、餓死してしまう。
「あ! そういえばあのオートマタが持っていた荷物はどうなんだ?」
「! それです!」
ピーターさん、ナイス!
確かにフェデック製のオートマタはケーテン砂漠の野営地に補給物資を運んでいたはずだ。
もしかしたら僕らが倒したオートマタも食料を運んでいた可能性がある。
僕は意気揚々と立ち上がろう……として――。
「あれ……?」
右腕に引っ張られるように尻餅をついてしまった。
予想外の重さだ。
フェデック製のオートマタの武器を取り込んだ結果か、僕だけの力じゃ持ち上げることすら難しいほど重い。
「あの……すみません。ピーターさん……」
「ん? どうした?」
「僕、動けないみたいです……」
「! わかった。俺が持ってこよう。
少し待っていてくれ!」
話が早くて助かる。
ピーターさんはすぐに動かなくなったオートマタのところまで走っていく。
物資の入った箱を両手で掴むと、すぐに戻ってきてくれた。
「これでいいかな?」
「はい。ありがとうございます」
僕は右腕を引き摺るようにしてピーターさんが持ってきてくれた荷物のところまで行くと、左手で蓋を開けた。
「……あ」
「あちゃ~……」
蓋を開けた瞬間、僕とピーターさんは同時に声を出した。
中に入っていたのは確かに補給物資だった。食料や医薬品、輸血パックまである。
だが、それらは案の定ぐちゃぐちゃの状態になっていた。
医薬品の入った瓶は割れ、中身は食料と混ざりドロドロとして、臭いも強烈。
唯一無事なのは輸血パックくらいだが、それも保管する袋が食べ物によって汚されていた。
フェデック製のオートマタの強引な運び方の結果だ。
「一応、聞くけどこれ……食べる?」
ピーターさんが恐る恐ると聞いてくる。
僕は「ははは……」と苦笑いを浮かべながら首を横に振った。
こんな状態で食べられるわけがない。
けれど、ここからケーテン砂漠の野営地にまで帰るにしても、エルガスまで向かうにしても、どっちにしろライトが起きないと動けない。
せめて取り込んだ武器を吐き出してくれれば、よかったんだけど。
……背に腹は代えられないか。
「お……おいおい。嘘だろ?」
僕は黙ってまだ原型が保たれて一番状態が良さそうなビスケットを手に取った。
少し先端が欠け、何らかの液体が掛かっていてデロデロしているが、食べられないわけではない。
味はまずそうだ。食感もおそらく……。
仕方がない。
この一口でエネルギー補給できることに賭けて、僕は目を瞑ると意を決して――。
『提案があります』
そのビスケットを頬張ろうとしたところで、ライトが目覚めた。
「……何?」
『分析するに、この箱にはエネルギー補給に足る充分な量の物資があります。
しかしマスターがその補給を摂取すれば、体調に問題をきたすでしょう』
「そうだよ。でもライトを動かすにはエネルギーが必要でしょ?
だからこの箱の中でも状態の良い物を選んで食べようとしているんだけど」
『それでは少なすぎます。エネルギーの充分な確保は不可能です』
「……つまり全部食べなきゃなのか……」
それはいくら何でも……。
確かにライトの言う通り、お腹を壊しそうで、むしろ逆効果だ。
『そこでご提案があります』
ライトはそう言うと、右腕を箱の中に入れた。
『私が食べます』




