魔力がないからと家族に冷遇されていた貴族令嬢ですが、最強の魔道士に救済されます
この国では、魔力こそがすべてだ。
すべてが魔法によって成り立っているアルデンゼン王国では個人固有の魔力でその個人の価値が決まるといっても過言ではない。
この国での序列もそうだ。貴族として君臨する家系は多くの魔道士を輩出している良家でその多くが遺伝により強い魔力を持って生まれてくる。
そして、アルデンゼン王国に存在する四大貴族のうち最も魔力の高いものが国王となる。貴族たちはその魔力を示す証にドラゴンの首を持ってきたり、砂漠を熱帯林に変えてみたり……国中のありとあらゆる不便を改善し、国王を目指す。
私はその四大貴族のうち東を守るロックソン家の次女。カリナ。
私は、生まれながらにして……魔力がない。
「カリナ、玄関ホールに枯れ葉が」
「すみません、お姉さま」
「いいの、あなたには魔力がないのだから仕方のないことよ」
私に指図をするのはロックソン家の長女で次期国王候補のダニエラお姉さま。ダニエラお姉さまはロックソン家伝統の火の魔法を得意とする魔道士で我が家歴代の魔道士の中でも一番じゃないかと噂されている。
嫌味っぽいのはいつものこと。むしろマシな方だ。
「そうだ、カリナ。庭のバラに水やりをしてくれる?」
「お、お姉さまですが……庭のバラは火の魔法が使えないと棘が」
「あら、たいまつがあるでしょう?」
お姉さまは意地悪に笑うと私の足元にバラバラと枯れ葉を出現させた。
(お姉さまの得意な転移魔法)
魔法があればなんでもできる。意のままに物質を出現させたり、どこかへ移動させたり。燃やしたり凍らせたり。私がやっていることなんてものの数秒で終わってしまうのに。
お姉さまは私が苦労するのをみて楽しんでいるのだ。私は、魔力がないのに貴族として生活させてもらっていて、嫁の貰い手もない、いわば穀潰しなのだから
「は、はいお姉さま」
私が絶対に言うことを聞くと知っているからお姉さまはまた意地悪に微笑んだ。
「ダニエラ、何してるの。今日はご学友たちがいらっしゃるんでしょう? こんなところにいないでさぁ早くおめかししないと」
お母様はお姉さまに笑顔を向け、お姉さまを2階へと追いやった。
それからさっきまでの笑顔が消えた顔で私の方を向くと
「カリナ。今日はダニエラのご学友と婚約者候補のディラン様がいらっしゃる日なのよ。さっさと中庭の掃除をしたらお使いにでも行ってちょうだい」
と冷たくいい、私の足元にバラバラと貨幣を落とした。この量、しばらく帰ってくるなってことね。
私は家族に取って恥なんだ。だから、誰も助けてくれない。
私は惨めに貨幣を拾うとポケットに詰め込んだ。
***
私は玄関ホールに入り込んだ枯れ葉を拾うとポケットに入れて、中庭に向かった。中庭には魔法植物の棘バラが生い茂っている。非常に美しいバラを年中咲かせているが、かなり獰猛で動く標的に毒入りの棘を飛ばす魔法植物だ。
弱点は火。棘バラの根本に火を近づけてしまえばその動きは弱まるので、普段庭師は火の魔法で遠距離からバラの根元に種火を飛ばし、バラを燃やさないように調節しながら剪定をする。
無論、魔法の使えない私にはできない芸当だ。
「松明……松明」
庭の倉庫にしまってあった松明を手に取って私は暖炉から火をもらった。松明が古かったのか埃に火がついてススが顔にかかる。
今日は我が家にお客様がくると言っていたっけ。さっさと終わらせてしまおう。
私は顔に棘が当たらないように手でガードしながら松明をブンブンと振り回す。私を取り殺そうとするバラの枝は火を避けるように遠ざかるが……
「痛いっ」
背後からの棘が首筋に刺さる。あまりの痛みに私は立ち止まってしまう。
「うっ、あっ!」
怒涛の攻撃に私は声を上げながら必死で松明を振り回す。
「あははっ、ねぇカリナ。うち伝統の大事なバラなんだから絶対に傷つけないでよ。あんたなんかよりも魔力があるんだから!」
バルコニーからお姉さまの声が聞こえる。お姉さまは棘の痛みに飛び上がりながら必死で松明をふるう私をみて「バカのダンスだわ」と大笑いしていた。
私の方は必死でバラの根元に近づく。
「危ないわよ!」
お姉さまの声がしたと思ったら私はバラのツル……じゃなくて何かに足を掬われて転んでしまう。松明を持っていたせいで思いっきり顔をぶつけ、口の中が鉄の味でいっぱいになった。
「うっ……」
と同時に植物が焼ける匂い、私は驚いて松明の先を見るとバラの花に松明が突き刺さり、轟々と火を上げていた。
(嘘……だって棘バラは燃えないはずじゃ……)
「あ〜あ、ダメじゃない」
お姉さまの声がした。松明なんかじゃ燃えっこにないバラ。お姉さまが……我が家の大事なバラに魔法で火をつけた……? お姉さまの魔力なら可能だ。
「いけないっ!」
私は必死で立ち上がると鼻血を抑えながら水汲み場へ走った。木のバケツに水を組んで必死にバラにかける。しかし、バルコニーで笑い転げるお姉さまが魔力を緩めない。火は消しても消しても点火される。
「いやっ、ダメっ」
私の努力も虚しくものの数分でバラは黒い灰になってしまった。
「お母様! カリナが! うちのバラを!」
さっきまで悪魔のように笑っていたお姉さまの声が悲痛の叫びに変わる。私は全てを理解した。お姉さまの暇つぶしにまた私は巻き込まれてしまったのだ。
「なんてことなの!」
しらばくして私は駆けつけた母にひどく叱られた。
「あなたの顔なんて見たくないわ。さっさとお使いに言って今日は倉庫で休みなさい! ダニエラが復活魔法が使えることに感謝をしながらね!」
母の後ろでニヤニヤと笑うお姉さまを見ても私は何も言い返せなかった。この国では、この家では魔法が使える人が偉いのだ。
「ごめんください」
玄関ホールの方で大きな声とベルの音がして、私を平手打ちしていた母が手を止めた。
「あら、もういらしたのね。ダニエラ、ご学友をお迎えにいかないと」
お姉さまのご学友はみな魔法学校に通う貴族だったはず。私なんかを見つけたらきっと遊びの道具に……。
「カリナ、裏口からさっさと出て行きなさい。日が沈んだら裏口から戻って倉庫で寝なさい」
母は冷たく言い放つといそいそと玄関の方に向かった。
***
街に降りると、魔力のあるなしでしっかりと仕事が決められていることを嫌でもわからされる。汚い・臭い・きつい仕事は全部魔力のない人間がやっていて、魔力のある人間はキラキラした仕事をしている。
服装からもわかる。だいたい魔力のない人間は人権がないから見窄らしい。
「あの、りんごを3つ」
「あら、ロックソンのメイドさん」
「こんにちは、おばさま」
そう、私はメイドということになっている。魔力が使えない人間が娘だなんて恥ずかしいからだ。
「3ゴールドだよ」
「えっと……」
私はポケットを探る。しかし、入っているのは燃えカスのみだった。
(そうか、あの時……)
バラを燃やすと同時にお姉さまは私のポケットにあるお金も燃やしてしまったのだ。お姉さまほどの魔道士ならできないこともないはずだ。
「あら、私ったら……お金を忘れてきてしまったみたい」
(今日の私のご飯はなし……だわ)
「おやおや、おっちょこちょいなメイドさんだねぇ。取っておいてあげるからお金を持ってきたら声をかけてちょうだいね」
なんて答えよう。今日はもう……
「悪いな、そのりんご。俺が買わせてもらうよ」
私の後方から声が聞こえて振り返ってみると、そこには魔法学校の制服をきた男性が立っていた。キリッとした黒髪にえらい男前な顔立ち。
「学友がりんごを好きでね。君は、ロックソンのメイドさん……かな? これから俺もロックソンに向かうところでね」
(いけない、この人お姉様のご学友だわ)
「えっと、おばさま、私はりんご別のお店で頂きますわ。こちらの方にどうぞ」
おばさんはりんごを紙袋に突っ込むと男に渡した。
「悪いね、俺はディラン。ディラン・ストゥーリーだ」
ストゥーリー家は4大貴族の中で最も強いとされている家系だ。なにより、現代の国王がストゥーリー家の出身である。しかも、彼は確かお姉さまの婚約者候補だ。
ディランと名乗った男は気づかれないうちに立ち去ろうとした私の手首をぐっと掴んだ。
「君、ロックソンのメイドといったね。りんごはよかったのかい?」
「えっと、その……」
私が言いあぐねているとおばさまが余計な補足をする。
「おっちょこちょいのメイドさんはお金を忘れてしまってるから大丈夫だよ。ディラン様」
(まずいわ)
ディラン様は私をじっとみると
「よかったらうちの馬車に乗っていくかい?」
と言った。
「いえ、他にもよる場所がありますので……」
「そう、ならいいけど、気をつけるんだよ」
ディラン様は私の手の甲にそっと触れると馬車の方へと歩いていった。よかった、なんとか誤魔化せた。
(今日は早いところ倉庫に入って寝てしまおう。今日は食事にはありつけないし、お金もないし…)
私は少し遠回りをしてから屋敷に戻ることにした。
***
私は燃えたバラのそばにある倉庫にこっそり入り込んで、作業台のそばに腰掛けた。何度か倉庫に閉じ込められることがあったからここを少し改良していてよかった。
隠しておいた毛布を引っ張り出して私は身を縮こめる。魔法を使えない私は暖を取ることができない。ぐぅぐぅと腹がなって不快感に襲われる。
遠くの方ではお姉様の部屋から楽しそうな声。
私は先ほど出会ったディランという青年のことを思い出した。お姉様は、あんな素敵な人たちと毎日楽しく過ごしているのだわ。それに、次期国王候補として期待も幸せもいっぱいで……。
同じ母親から生まれたのに私は魔力もなく、汚い犬のように見窄らしくこうやって生きていくんだ。どうして、私には魔力がないのだろう。
「ディラン様、申し訳ないですわ」
寝入ってしまっていた私は突然の姉の声で目を覚ます。倉庫の扉の隙間から庭の様子を眺めると、燃えてしまったバラのそばにお姉様とディラン様が立っていた。
「いいんだ。大事なバラなんだろう? 俺が再生させてやるよ」
ディランは小さく腕を掲げると彼の周囲には美しい水のヴェールが出現する。真っ黒の灰になってしまったバラに水がぐんぐんと吸い込まれ……次第に美しい緑と赤が取り戻されていく。
お姉様でも数日かかる復活魔法をたったの数秒で……?
「うちの不出来な妹が……ありがとうございます」
「妹さんはどこに?」
「彼女は魔力がないことで捻くれてしまって、毎晩、夜の街にいるのですわ。ですが大事な妹、私は大切にしたいのです」
(何を……)
ディラン様はふっと笑う。その表情にお姉様も違和感を感じたのか首を捻った。
「君の妹さんはきっと魔力が目覚めていないだけだよ。素晴らしい魔力をもつロックソン家の娘で、君の妹だ。魔力がない……なんてことはありえない」
ディラン様も……あっち側の人間だ。きっと、私をみたら、私の魔力のなさをみたらがっかりするんだろうな……。
「いいえ、あの子は本当に……」
嘘泣きを始める姉、私はもううんざりで隙間から覗くのをやめて毛布にくるまった。お腹が減った、もうどうでもいい。あぁ、早くお姉さまが国王にでもなって別々の場所に住めればいいのに。
「あら、ダニエラここにいたの?」
他の学友や母親も騒ぎを聞いて中庭にやってきたようだった。
「あら、バラが……」
「すごいわ、ディラン様」
「やっぱりお似合いの2人ね」
「そうだ、ダニエラ。妹さんを俺に紹介してよ」
「えっ?」
他の学友たちも「確かに」「気になるな」なんて騒ぎ出す。
「ディラン様、妹のカリナは今外に……」
お姉さまが何か言いかけてたその時だった。私の眠っている倉庫の扉がバーン!と開いた。あまりの大きな音に私はぎゃっ!と悲鳴をあげる。
「その、倉庫にいるのが妹さんかい? それともメイドさんですかお母様?」
ディラン様は冷たく言い放つとカツカツと音をたてて倉庫の方に近づいてくる。毛布にくるまったままの私は驚きと、それから恐怖で動けなかった。
「ディラン様、何を……」
「君が、カリナさんだね」
驚く私にそういうとディラン様は
「さっきぶりだ。メイドだなんて嘘をついていてもすぐにわかったよ」
と訳のわからないことを言って私を抱き上げた。
「えっ」
横抱きにされて、私はみんなの前に連れていかれる。
「か、か、カリナ? そんなところで何をしていたの? し、心配していたのよ?」
お姉様が引き攣った笑顔でいった。
「カリナ、何をしているの?」
お母様も同じように戸惑っている。私はぐっと唇を噛んだ。どうせ、私が何を言ってもダメだ。みんなお姉様やお母様を信じるに決まってるんだ。
「えっと、その……」
「さて、俺を舐めてもらっちゃ困るよ。ダニエラ。俺と君は次期国王候補だね」
「だ、だからなんだっていうんですの? ディラン様、怖い」
「ははは、怖いのは君の方だよ。実の妹を痛ぶってメイドだなんて言わせてるんだから。そんな人間が、次期国王候補? そんなのうちの学園長が認めるかな」
「うっ」
お姉様が悔しそうに顔を歪める。
「ディラン様、あなたまさか……」
「このバラの燃えカスには君の魔力の残留があった。でもダニエラ、君は妹がやったといったね」
「そ、それは……」
「そして、その魔力の残留だらけのメイドさんに俺は下町で出会ったんだ。鼻血を出したあと、棘だらけの見みすぼらしい……姿のメイドさんにね」
他の学友たちがザワザワと噂をしだす。お姉さまは顔を歪めたまま何もいえずにいた。
「君は、魔力のない人をいじめるような人間性で国王になりたいと言ってるんだね」
ディラン様の声がぐっと深くなる。怒りに満ちたような声で私も少し恐怖を感じた。
「そ、それは……」
「実の妹をいじめるような人間が俺の婚約者になりたいと言ってるんだね」
ディラン様は言葉こそ優しいものの鋭い目つきでお姉様を睨んだ。
「それに、ダニエラ。君は……」
私を抱いたまま、ディラン様はパチンと指を鳴らした。すると、お姉様の胸元のネックレスが弾ける。その行為の意味が私にはわからなかったがディラン様が
「君は、生まれてすぐカリナ嬢の魔力の操作器官……魔力の核を壊したんだ。火の魔法の応用でカリナ嬢の魔力の核を焼き消したんだ。君くらいの魔道士なら簡単だろう? 赤子の手をひねったんだ」
(え……? どういうこと……)
ディラン様の発言にお母様は
「ダニエラ? 答えなさい!」
と悲痛の叫びをあげる。
「俺はね、カリナ嬢をみた時に溢れ出る魔力を感じたんだ。けれど、カリナ嬢にはその魔力を操る魔力の核がない。だから、カリナ嬢は自分が魔力を持たないと思っているようだった」
お母様がお姉さまを揺さぶり、お姉さまはその場に崩れ落ちた。
「だって、お母様もお父様もあいつが生まれてからあいつばっかり、悔しかったんだもの」
「行こうか、カリナ嬢」
「へっ?」
ディラン様は私を横抱きにしたまま歩き出した。
「いくってどこへ?」
「もちろん、俺の屋敷さ」
「え? えっと」
「ロックソン夫人、俺はこの家の令嬢と婚約すると言いましたね。だから、しますよ。カリナ嬢と」
お姉さまが泣き崩れる。悲痛な叫び声が響く
「お母様!どうにかしてよ!」
「ダニエラ!あなたが悪いのよ!」
「どうして味方してくれないのよ!」
お母様は泣きつくお姉様を振り払ってこちらにやってくると
「どうかうちの娘をよろしくお願いします」
と言った。
ディラン様は
「あぁ、もちろん。カリナ嬢は大切にするよ。ただ、ロックソン家には追って処罰を連絡するだろう。魔力の核の破壊は大罪だ。それも、こんなに才能溢れる国王候補にしたとなれば死罪になる可能性もある。それに、俺はお前のような都合のいい親は一番嫌いなんでね。最良でも国外追放くらいに思って荷物をまとめておくといい」
母が泣き崩れる声を聞きながら私は転移魔法に吸い込まれた。
読んでいただきありがとうございました!
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こちらはスカッとシーンの短編になりますがもし思いついたら溺愛シーンもかいてみたいな〜と思います!
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