薬草男爵令嬢の華麗なる復讐奇譚
「まあ、何か草臭くありませんこと?」
「本当ですわ、鼻が曲がりそうですわ」
教室に入るなりいきなり言われたので思わず自分の制服の腕の部分の匂いを嗅いでみた
<クンクン>
・・・そんなに匂ってなくない?
匂いを確認していたら
「まあはしたないこと(クスクス)」
速攻で嫌味を言われたのでようやく気が付きました
イジメられている、と
私はメディシン男爵家のカトレアです
・・・誰です、名前負けしているとか言うのは(怒)
我が男爵家は代々薬を作ることを生業としています
元は平民だったのですが薬で貢献したというので男爵になりました
国としては囲い込みたかったみたいですね
なにせ薬草があればフラフラと旅に出かける一族です
・・・家族のほとんどが旅に出かけて家には私と使用人だけというのが笑えますよね
いや私も早く旅に出て新しい薬を作りたいです
とまあ薬を作っている家なのでお客様が突然きます
具体的には
「病気になったので薬を売ってくれ!」
と昼夜問わずに来るわけですよ
昨日も
「さあ寝よう」
と思ったら急に某伯爵家の執事が来る始末
馬車に拉致られて伯爵家までドナドナされて病人の様子を観察した後、帰宅して薬を調合して、再度伯爵家に舞い戻り、朝まで薬が効くか様子を見ていました
おかげ?で眠くって仕方がありません
でも気力で帰宅して朝食を取った後、学院に登校しました
王立の学院に通学して貴族としての最低限の知識を得るのが義務ですから
そうしたら容姿と美容に命をかけている系の令嬢から嫌味を言われました
まあ薬草によっては凄い匂いをするものがあります
一度身体に匂いが付くとしばらく取れないものもありますからね
過去にそんな酷い匂いを付けて登校した私も悪かったと思います
・・・香水の一つでも掛けていればよかったんですが、香水を作るのはノリノリでも、付けるのには気が回らない年頃の娘ってどうなんだとちょっと反省したのは黒歴史ですね
まあ所詮は薬作りに傾いた男爵家とその召使いですから無理ってものですね(涙)
「あんなの気にする必要ないからね」
ボソッと言ってくれるのが同じ男爵令嬢のジンジャーです
男爵は男爵で固まっていれば爵位が上の人間でもなんとかなります
・・・気休め程度ですけどね(涙)
もっとも徹夜なので眠気の方が勝っています
「授業が始まったら起こして・・・」
そう言って机につっぶして寝ました
たとえ10分でも寝れる時に寝ないと、ですからね
「私たちを無視するな!」
とか聞こえたような気がしますが睡魔に襲われた私は夢の中へ一直線です
すみませんね
そんなことがあってしばらくたった夜のことです
「助けてください!」
と某家の執事が訪ねてきました
応接室に行くと執事が立って待っていました
座ってもらってまずはどこのどなたかを聞きました
執事の服を着ていても本当の執事とは限りません
過去に誘拐して監禁して薬を作り続けさせようとした悪人もいましたからね
「私はガーター子爵の執事です」
執事の自己紹介を聞いて思い出しました
ちょっと前に私のことを
「薬くさい」
って言っていたクラスメイトの家だと
ほ~、子爵様が熱出した?
お抱えの医者の薬では全然、熱が下がらない?
もう3日も経過している?
日に日に窶れてきている?
だから助けてくれ?
だから言って差し上げました
「私のような薬くさい娘の作った薬など子爵様には似合いません」
執事は啞然としていましたね
まさか格下の男爵が拒絶してくるとは思ってみなかったようです
だから
「失礼ですが、困ったことになりますよ?」
脅してきましたよ
ええ全然問題ありません
この国を出ていけと言われたら喜んで出てきますね
新しい薬の材料を探す旅に!
あるいは珍しい病に罹った病人を探す旅?
ワクワクドキドキしてきましたね
全力で立ち向かってみせますよ
と言う訳でおバカな令嬢の仕出かしたことを懇切丁寧に説明してお帰り頂きました
物を売らない経済的な包囲網?
それともゴロツキが襲ってくる方?
ドキドキしながら期待して待っていました
そうしたら子爵夫人が娘を連れて速攻で謝罪にきました
玄関先で娘の頭を押さえて強制的に謝罪させている夫人の姿に唖然としましたね
どれだけ切羽詰まっているのかが丸わかりです
でもですね人間やっていいことと悪いことがあるんですよ
頭を下げられたくらいで許せないことだってあります
それにですね
「男爵のくせに生意気よ!」
なんて反省していないじゃないですか
もちろん叩き出しました
男爵家の用心棒は強いですからね
命を助けられた恩があります
その分、治療費が高くて返済できなかったです
ですから借金分、用心棒をやって貰っています
絶対に裏切らない忠犬ですね
「お願いですから~」
なんて夫人が言ってますけど知ったことではありません
男爵家の顧客には王族だっています
いや旅の途中の王族の命を救ったのが男爵家の始まりですからね
薬にしか興味がないのでその分信頼できるというのが男爵家です
いや珍しい薬草で転ぶかもしれないというのが男爵家らしいとも言いますけどね(笑)
本当だったらもっと上の爵位をあげるよ?って王様から言われてます
でも人間慢心したら終わりですから代々断っています
特に薬を使う人間は自らを律しないとすぐに大量殺人鬼になります
なにせ毒の効果を知りたくてつい試したくなる誘惑がありまくりです
毒と薬は表裏です
いい薬はいい毒になる
いや、いい毒を探せばいい薬になる、ですね
おかげで毒を組み合わせて作った自作の毒を試したくて試したくて仕方がありません
・・・困った一族ですね
まあそんな訳で今日も平穏な日が過ぎていきました
え?
子爵様?
あの後、死んだみたいですよ
ご愁傷様ですね