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魔術師は魔法を使えない。  作者: くもりぞら
9/10

僕と広場と防御と

遅くなってすいません。

モンストハマってました……



太陽が沈むには少し速い時間。喫茶店での昼食を取り終えた二人は道の駅しらとりにたどり着いていた。

日曜日の昼間だというのに、止まっている車は無し、見事に閑古鳥が鳴いている。


「ここ一度も来たことなかったんですけど、こんな感じになんですね」


「初めてなの?

……この辺に住んでるのに?」


「近所にある道の駅って何を目的に行けばいいか分からなくて」


「……確かに」


道の駅とは本来、長旅の休憩場として作られたもの。そんなものが家の近くにあっても、買いたいものなどないし、値段も張る、品揃えで言ってもお土産に特化しすぎている。


「ここで戦い方を?」


「いやこの上に広場があるからそこで始めよう……っとその前に」


言葉とともに喜羽さんが向かったのが自販機。この間見た手順と同じく操作を行い、『人払い』の発動と武器庫をへの扉を開いた。


「ここで武器を選んでから行こう」


「はい」


彼女と共に武器庫へ。これでここに足を踏み入れるのは二度目、だが前回と受けた印象は大きく変化しており、足が止まる。武器の種類や数などが変化した訳ではないし、内装が変わった訳でもない。


(武器から魔力が流れてる……?)


違和感の正体は魔力。それも武器から流れる微少なもの。


「魔力、感じる?」


既にいつもの二刀を取り終えた彼女の質問は見事に僕の疑問の的を射る。


「は、はい。大半の武器から」


「それは戦闘時に流した魔力の残り。

魔力は流しやすいけど散りにくい。

ゆきとがあの魔獣と戦った終えたとき、右腕の魔力に気づけたのはそういうこと」


「確かに傷の回復を行った後も似たような感覚がありました」


「そういうこと。

金属は身体より分散が遅いから、何日か経っても使用者の魔力が残る」


「だから武器に魔力が……」


「それと他人の魔力は自分の魔力の流れを阻害するから、選ぶなら魔力を感じない武器を選んで」


「分かりました」


喜羽さんは「選んで」と言っていたが、僕の心は疾うに選択を終えていた。

二日前──部屋の奥に壁に立て掛けておいたあれを取りに行く。


「……あった」


手に取ったのは銀の短剣。

僕が初めて手にした武器であり、敗北を刻んでしまった武器でもある。僕は敗北の証ともなってしまったこの短剣とともに、今度は勝利を手にすることを腹に決めていた。


「その短剣……ゆきと、本当になんともないんだよね?」


「は、はい」


短剣を見た彼女は不安そうな表情を浮かべる。あの時もこれを見た時、同じような反応をされた。

こんな態度を見せられると、これから共に勝ちを狙いに行くことを決めたものとはいえ、正体が気になってしまう。


「あの、この短剣って……」


「それは箒と同じように魔技師に魔術を刻まれた短剣。能力は形状変化――確認されてるのは長剣だけだけど、あと何種類かは変形がある……らしい」


「そんなすごいものだったなんて……。

僕が使ってもいいのかな」


僕は手首を回し、短剣を注意深く眺める。すると刀身に見た事もないような形の文字が刻まれている。


「問題ないと思う。

これを使える奴なんてゆきと以外にいないから」


「……?」


自信たっぷりに言い切られてしまった。

戦いのことなんて何も分からないが、形状が変化するというのは戦いにおいて、かなりのアドバンテージになるのではないのだろうか。


「この短剣、持ってるだけで魔力を吸収し続けるの。それもとんでもない量を……私が持ったときは五分が限界だった」


顔が興奮した赤から恐怖の青へ。


「あの……魔力を使い切るとどうなるんですか?」


「全く体を動かせなくなる」


「ハ、ハハ……」


軽い絶望、乾いた笑い、そんなものが自然と漏れる。誓いを立てた武器は危険を増やすものでした。


「――でもあんたは何ともない」


落ち込む僕をよそにとんでもないことを言ってきた。


「そんなこと……」


「じゃあ今、魔力が減って体が怠くなったりしてる?」


「……ないですね」


会話が始まって1分と少し、何らかの症状を自覚してもおかしくなさそうだが、そんなものは全く現れない。


「気づいてないみたいだから言うけど、ゆきとの魔力量、かなり多いよ。

その短剣を持っても、平然としてられるのはそういうことだと思う」


「本当、なんですか?」


「うん」


「──ッ!!」


今日は表情筋が忙しい。さっきあれほど血の気が引いていたのに、今は頬が緩むのを抑えるので手一杯だ。これといった才能がなかった僕にとって、この報告はこの上なく嬉しい。


「使用時間とかは正確に計らないといけないけど、私はこれを使うことをおすすめする。

魔術を発現してないゆきとにとって、その差を埋める武器になると思うから」


「はい!」


この言葉が決め手となり、しばらくはこの短剣の世話になることを決めた。


「そろそろ行こうか。あまり長い時間、箒の結界を展開しておくのはよくない」


「分かりました!」


武器庫への扉を閉じ、僕と喜羽さんは修行場所へ向かった。





「着いた」


道の駅から数分、階段を登って着いたのは広場。とって言っても公園のおまけみたいなものなのだろう。右手を見ると『ちびっ子公園』と書かれた看板、そして児童向けの遊具が設置されている。

しかし二人の学生が動き回るには十分な広さだ。


「早速始めよう」


「は、はい!」


準備体操をしていた手を止め、喜羽さんの方を向く。


「じゃあ構えて」


脈絡のない言葉に戸惑いつつも、言われた通り例の短剣を構える。彼女はそれを確認すると僕から30mほど離れ、その地点で武器庫から取ってきた二刀を構えた……と認識した時にはもう遅い。


「――ッ!?」


僕の体は宙を舞っていた。


「ぐはァアアア!?」


地面への落下。

広場には芝生が使われていたので、背中は打ったが大して痛むことはなかった。だが腹部はそうはいかず、内臓を圧迫するような感覚に襲われる。


「どうして……」


辛うじて首だけを起こし、攻撃を仕掛けてきた彼女を見る。


「ゆきとの初戦、猫型魔獣との戦いの敗因はなんだと思う?」


彼女は問いかけと共に、武器を下ろした状態でゆっくり近づいてくる。


「……魔力が、使えるか、どうか?」


左手で腹部を押さえながらも立ち上がり、問への回答をする。

僕の目の前まで接近した彼女は首を横に振る。


「違う。痛みに恐怖してしまったこと」


「………」


「初撃を受けてから、最後の一撃以外あんたの動きは格段に悪くなった。

原因は恐怖(いたみ)を知ったから」


筋肉は強張り、歯は食いしばっている。

もはや体は僕の悔しさを隠そうとしていない。


「だからあんたの体を恐怖に慣らす」


「──ぐぅうううう!!」


回避も防御も出来なかったが今回は見えた。

脇腹に彼女の脚が直撃し、蹴り飛ばされる。体は再び芝生へ。


(――速、すぎるッ)


まともな戦闘なんてあの魔獣としかしたことがないが、この人があれと比べる次元じゃないことだけは分かる。

仮に魔獣のサイズがあと二回り大きくても、彼女に一瞬の内に倒されていだろう。

そこまで絶望的な実力差をこの二回の攻防で感じた。


「さっき下で言った通り、ゆきとには魔術が現状ない。つまり身体能力だけで、魔物と渡り合う必要がある。

階級(ランク)をあげるにも魔物を倒すことは必須……だから厳しく鍛える。

――立って」


「は、はい!」


意図が汲み取れた以上、いつまでも寝ている訳にはいかない。僕は腹部を押さえることをやめ、短剣を再び構える。


「ふぅーー」


肺に溜まっていた空気が自然と抜ける。


「いい顔つきになった」


賛辞は嬉しいが反応する余裕はない。

集中しなければ彼女の動きは決して追えない。


「私は変わらず足や剣で攻撃する。

あんたが意識することは回避と防御。もし仮に狙えるなら攻撃してもいい……狙えるなら、ねっ!!」


黒い一閃が迫る。


「うッ!」


咄嗟に右半身を引いた、僕の判断は正しかった。目元の数cm先にあるレイピアが物語っている。少しでも反応が遅れていたら、右目が串刺しになっていた。


「止まるな」


「ぐはァ!!」


中段蹴りが腹部へヒット。

地面に転がるが、前回までとは異なり回転を利用してすぐに起き上がる。


(痛い……けど慣れてきた。攻撃も集中してたら何とか見れる。

でも、回避どころか防御も出来ない。どうすれば……)


今度は剣の方が振るわれる。

レイピアでの突きより遅かったので短剣で受けることに成功する。だがそれが愚策だった。


「反応はいい。だけど撃ち合いがしたいなら相手以上の大きさの武器じゃないとダメ――押し負ける」


「あがァ!!」


受けた短剣ごと吹っ飛ばされ、数本生えていた木に衝突した。

予測に過ぎないが、今の攻撃喜羽さんが飛ばしたからよかったものの、実戦なら切られていただろう。

僕は衝突した背中の激痛に気を取られ、握り拳から血が出ていることに気づかない。


「戦いに熱は必要だけど、冷静さを欠いてはいけない。

あと防御の方法なら、もう教えてる。思い出して」


「!?」


時間を与えるつもりなのか彼女はゆっくり歩いてこちらに向かってくる。その間、僕は朦朧とする意識に負担をかけ、探し物を始める。


(『防御の方法なら、もう教えた』って……僕が教えてもらったのは魔力の知識と――ッ!?

あれか(・・・)!!!)


木を背もたれにしていた体を起こす。

構えも先程と変わらないが、目が違う、目が異なる。闘志しか宿らなかった目に希望が宿る。


「いくよ」


それに反応し、彼女も激的な加速を見せる。

仕掛けてきたのは剣の腹による殴打。


(反応、出来てるッ!!!)


外に大きく振りかぶってなされる攻撃に、左腕を合わせる。今まで速度に反応できないのと、骨折することを恐れて出来なかった。

しかし彼女のヒントから出した答えが正しいなら、ダメージは少ないはずだ。


(というか……恐怖(そんなこと)を気にしていたら、いつまでも僕は夢に近づけないッ!!!)


「今!!!」


剣と腕が衝突を確認、反応し受けることはできた。右足で踏ん張っていたので飛ばされてもいない。

問題は左腕の状態。

喜羽さんは剣を腕から離し、二刀とも地面に突き刺した。そこから何をするでもなく、静止している。

僕はそれを確認時間と捉え、左腕に目を向ける。


(――!!)


剣と衝突した腕はなんの外傷もなく、特に酷い痛みもなかった。

その代わりに腕の肩から肘にかけて、魔力が流れていた。


「魔力集中による防御……正解」


黙っていた喜羽さんが口を開く。

正解を聞いたことによって腰の力が抜け、地面にへたり込む。

僕がした事は怪我の治療でやっていた部分に魔力を集中させること。それによって強化されるのは回復力だけでなく、耐久力や瞬発力なんてものもだ。

それを利用し、防御する左腕に魔力を集中、耐久力や回復力などの強化が付与されたことによって防御することに成功した。


「私たちは常に魔力を体に流すことによって、あらゆる身体能力の強化をして戦ってる。魔術がないあんたにはその技術が必須だから……ちゃんと覚えておいて」


「はい」


「じゃあもう一本いこうか?

こういうのは感覚があるうちにやっておいた方がいい」


「はい! お願いします!」


「ん。始めよう」


そこから30分間、ひたすら魔力集中による防御の特訓を行い、今日はお開きとなった。



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