第8話 幸乃の内定祝い
遠藤駿はご馳走を目の前にして海斗に話しかけた。
「おい海斗、いつもの料理より手が込んでいるよ。なのにホントにタダで良いのか?」
「ああ、ホントだね。マスターも本気を出したのかもね。感謝の気持ちだから味わって食べてね」
舌の肥えた京野颯太も感心をした。
「やっぱりNグランドの元シェフだね、素晴らしいオードブルだ」
すると大食いの遠藤駿と同じテーブルに座る仲間は、慌てて自分の分を皿に取り分けた。
松本蓮は皆に声をかけた。
「ねえ、ご馳走が有るうちに写真を撮ろうよ!」
佐藤美優は感心をした。
「あー、確かに最後じゃ見栄えが悪いもんね。蓮は撮影のタイミングまで考えているのね」
松本蓮がレンズを向けると皆は肩を寄せ合った。マスターと話が終わり森幸乃が席に戻ってきた。松本蓮は森幸乃にレンズを向けた。森幸乃は瞳に涙をため微笑んだ。松本蓮は良い写真になると核心をしてシャッターを切った。海斗はカメラを変わり松本蓮と周りの友達の写真を撮った。鎌倉美月の瞳も潤んでいた。
海斗はファイダーから目を外すと鎌倉美月は泣いていた。
「み・づ・き、美月、どうしたの?」
「私まで感動して、泣けてくるのよー、ワー」
松本蓮は鎌倉美月の肩を抱いた。
「俺も感動したよ。卒業式でもないのに、悲しくなっちゃってさ」
「蓮、美月、俺も分かるよ。おかしいね、祝いの席なのにね」
森幸乃は海斗達に微笑んだ。
「皆、有り難う。とても嬉しいよ」
海斗は京野颯太に言った。
「颯太、幸乃さんに変な上司を付けるなよ! セクハラしたら許さないかな」
「おいおい、俺は新入社員の子守役じゃないぞ」
皆が怖い目で京野颯太を睨んだ。
「分かった、分かった。ちゃんと見ますよ! だから皆も睨まないでくれよ」
遠藤駿は京野颯太に助け船を出した。
「大丈夫だよ。俺がうな重を出前に行った時に、ちゃんと見て来るからさ!」
皆は笑顔になった。松本蓮は遠藤駿の存在が頼もしかった。
「そっかー、駿が居たか、頼んだぞ、駿!」
森幸乃は海斗に話しかけた。
「先週も、今週も、写真部に来ない日が有ったでしょ。私ね、嫌がられる事をしたんじゃないかって心配していたのよ。だからね海斗君、余計に嬉しいわ」
「幸乃さん、ちゃんと説明出来なくてゴメンね。事情が有ったからね」
海斗は皆の顔を見回すと、皆は首を縦に振った。特に京野颯太は嬉しそうだった。
京野颯太は席を立ち森幸乃に体を向けた。
「幸乃さん、皆からのプレゼントを受け取って貰えませんか?!」
森幸乃は驚いた。京野颯太はテーブルの下から手提げ袋を取り出し手渡した。
「幸乃さん、内定おめでとう御座います」
森幸乃は嬉しそうに受け取った。そして皆は拍手をした。
「えー、私嬉しい! 明けてもいい?」
皆は首を縦に振った。
森幸乃は慎重に包装を剥がした。
「わー、素敵なバッグ! しかもキタムラ屋よ! 嬉しいわ。皆、有り難う!」
海斗は部活を休んだ理由を説明した。
「実はね、先週皆で下見に行って、今週、この鞄を買いに行ったんだ」
「それで、事情を説明してくれなかったのね」
「未だ有るんですよ。下の方に有ると思いますが」
「えー、なーに? わー、ステキー! 名刺入れねー」
「社会に出たら必要だと思って用意しました。それとマスターにも、美月、渡してあげて!」
鎌倉美月はマスターに革製のキーケースを手渡した。
「これも皆からです。いつもお世話になっているお礼です」
不意に渡されたプレゼントに、マスターまで瞳に涙を浮かべた。
「お礼だなんて、コッチがお世話になっているんだ。……みんな有り難う、大事に使わせて貰うよ」
皆はほっこりした時間を過ごした。マスターは次々に料理を振る舞った。
松本蓮は皆に提案をした。
「なあ皆、このメンバーのSNSでグループを作るのは、どうかな?」
皆は微笑み賛成をした。新たにコミュニケーションの場が増えるのだ。皆は登録を済ませると確認のためにスタンプが押された。皆は画面を見てニコッと笑った。
早速、蓮は今日の写真を載せた。皆から歓声が上がり喜んだ。京野颯太も嬉しかった。自分のスマホに仲間が笑う表情が沢山入って来たのだ。
「蓮、良い写真を送ってくれて有り難う」
松本蓮は最後に書き初めの授業の時にイタズラをした動画を上げた。皆は一斉に笑い出した。
京野颯太は戸惑った。
「おいおい、勝手に載せるなよ! どうやって消すんだ?!」
佐藤美優は京野颯太を睨んだ。
「何で消すのよ! これも楽しい思い出なのよ。やっぱり蓮は見事ね」
橋本七海も続いた。
「良い動画ね、とっても楽しいわ!」
しかし京野颯太には理解が出来なかった。
「コ、コレ? これが良いの?」
時は進み、マスターは最後に自慢のコーヒーを入れた。
「今日は皆、お祝いに来てくれて有り難う。もてなすつもりがプレゼントまで貰って、楽しい時間だったよ。それと、いつも大人しい田中拓海くんも佐藤美優さんも楽しめたかな」
マスターは口数の少ない生徒まで気遣った。二人は声を合わせて返した。
「はい!」
「遠慮しないで、遊びに来てね」
佐藤美優は赤い顔をした
「はい、二人で来ます」
「ヒュー、ヒュー!」
皆は茶化して笑った。田中拓海は複雑な顔をした。
この後、片付けをして解散となった。皆にまた一つ楽しい思い出が増えたのであった。