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第46話 ジョンソン大佐

 二日後、待ちわびた始業式となり、海斗は葵と学校に向かった。今日から同じ高等部の校舎になり、葵は嬉しかった。ようやく一緒の校舎に居られるのだ。

 高等部校舎前の掲示板には、新クラス分けの教室と生徒達の名前が張り出されていた。海斗は三年A組になった。約束通りA組には仲間達の名前が揃っていた。葵は一年A組でクラスの中に中山陽菜の名前が有った。これも斉藤教頭先生が気を回してくれたていたのだ。海斗は葵と離れ、三年A組に向かった。


 教室に着くと、なじみの顔が揃っていた。松本蓮は海斗に話しかけた。

「よっ海斗! お早う、席は黒板に張り出されているよ」

 海斗は黒板を見て席に着いた。

「あれー! 何、なんだコレ?」

 小野梨紗は振り向いた。

「海斗は私と離れられないんだねー!」

 海斗の横には中山美咲、後ろには松本蓮が居た。中山美咲は海斗に笑いかけた。

「海斗、これ長谷川先生が配慮したのよ。ププ、校長先生って凄いわ!」 

 海斗は小さな声で返した。

「ホントだね。席順まで前のままだ。ご褒美って凄いね!」


 チャイムと同時に長谷川先生が入って来た。生徒を見回して微笑んだ。

「今日から担任を受け持つ長谷川桃子です。三年生は進路を決める大切な学年です。私は厳しいから、きちんと対話をするようにして下さい! それと、あー、ココは学園の有名人が多いクラスだね……。あー、また全校生徒から注目されちゃうね。この先が思いやられるよ! さあ、始業式だ。廊下に並んで下さい」


 (体育館にて)

 始業式が淡々と進み、黒岩校長先生の言葉となった。

「生徒諸君、お早う御座います。ご多忙の中、ご来賓の方々には学園の始業式に足を運んで頂き誠に有り難う御座います。一年生の生徒諸君、合格おめでとう。横浜山手総合学園にようこそ。

 この学園は生徒の自主性を重んじて自由な校風が有ります。中には、はき違える生徒もいるので注意して下さいね。先生達は甘く有りませんよ。そして、この学園には褒め讃える文化が有ります。部活動で成績を収めた者はもちろん、ボランティアや個人的に資格をとった者、趣味を生かして表彰された者や、友達を百人つくった者。昨年の秋には犯罪を防いだ生徒もいました。君達も是非、活躍をして私達先生から褒め讃えさせて下さい。そして私達先生生を喜ばせて下さい。

 さて、この短い春休みに私を喜ばせてくれた生徒がいます。今から名前を読み上げます。三年の伏見海斗君、松本蓮君、鎌倉美月さん、小野梨紗さん、中山美咲さん、林莉子さん、京野颯太君、遠藤駿君、橋本七海さん、佐藤美優さん、田中拓海君、鈴木萌さん、一年生の伏見葵さん、中山陽菜さん、舞台に上がって来て下さい」

 名前を呼ばれる度に当人はドキッとしてから列から離れた。体育館にはざわめく生徒の声が響いた。葵が呼ばれると、何も聞かされていなかったので何の事か解らず戸惑った。陽菜は葵の手を引っ張って舞台に上がった。


「彼らは根岸森林公園の敷地、東京ドームで例えるなら約四個分の敷地の中で、迷子になった八歳の重病の子供を必死で探し出しました。子供のお父さんはアメリカ海軍の兵士で、今は太平洋上で任務中です。助けられた事が上司の耳に入り、今日は感謝を表してアメリカ海軍横須賀基地からジョンソン大佐が見えられました。それではお越し下さい」


 ジョンソン大佐は舞台に上がり中央に立った。全校生徒は軍服の米兵に驚き、またまたザワ付いた。名前を呼ばれた生徒は舞台の端に並ぶと静かになった。代表して海斗が中央に立つと、ジョンソン大佐はカタコトの日本語で感謝状を読み上げた。読み終えると海斗に手渡し敬礼をした。

 海斗は感謝状を受け取ると、大佐と同じ様に右手を額に付けて敬礼をした。調子良く合わせる海斗に舞台にいる仲間は小さく笑った。すると生徒達から大きな拍手が起こった。海斗の敬礼は生徒達に勇ましく映ったのだ。海斗も仲間も拍手を聞いて誇らしく思えた。


 次に斉藤教頭先生はマイクを持った。

「ジョンソン大佐、有り難う御座いました。続きまして、代表して伏見海斗君からスピーチをお願いします」

 ジョンソン大佐は席に戻り、海斗はマイクの前に立った。すると黄色い声が上がった。葵も陽菜も女子の声援に驚いた。


「ジョンソン大佐、今日はわざわざお越し頂き、誠に有り難う御座いました。皆さん、お早う御座います。終業式の日に公園で困っている外国人の女性が居ました。その英語は私には聞き取れませんでしたが、クラスメイトの小野さんが通訳してくれました。八歳の女の子は重度の糖尿病でインスリン打つ時間に迷子になったそうです。

 事情が解った私達は、解決策を考えました。あれだけ広い公園を探すのは難しいと思いましたが、仲間の協力があれば探出せると思いました。私達は九つのグループと八つの探索エリアに分かれ、計画的に探しました。その内の一つのグループが倒れていた女の子を探し出す事が出来ました。母親の元に連れて行った時には意識が有りませんでしたが、インスリンを打つと子供は無事に回復しました。皆さんも困っている人が居たら是非、声をかけて下さい。無理だと思ってもやってみて下さい。苦労の分だけきっと、ご褒美が待っていますよ。それではこれで終わります」

 海斗は頭を下げると、讃える大きな拍手が鳴った。

「ご褒美」の言葉に校長先生を始め、緊急召集に集まった先生も生徒もニンマリ微笑んだ。


 続けてジョンソン大佐は、助けた生徒一人一人に握手をして退場した。マイクは校長先生に渡り、困っている人を助ける事の重要性を説いた。最後に斉藤教頭先生が連絡事項を伝え始業式は終わった。

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